四十六 モフモフ ヤワヤワ
リコちゃんにとって、Pはよほど安心できるところになっているのか、それとも今までの生活が、ものすごく緊張を強いられていたのか、夕方になるまですやすやと眠っていた。
起きた時にみんなで食べようと、マコトさんが私にカレーをリクエストした。
「祝のカレー美味しいから、リコちゃんにも食べさせてあげて。」
「はい。」
マコトさんからのリクエストはありがたかった。
リコちゃんの事を考えても、今はまだ情報が揃わず、助ける手段が決まらない。まあ、揃ったところで、私にはどうして良いのかわからないし、幼いリコちゃんの境遇に泣いてばかりだから、カレー作りに集中している方が、心を落ち着かせられる。
玉ねぎを薄くスライスしてカレーの鍋に入れ、弱火にかけて炒め始める。リコちゃんに合わせるにしても、ルーは甘口じゃないから、甘みを出すためにも玉ねぎはいつもより多めに。薄切りとは別で、玉ねぎとにんじんをカット。
「リコちゃん、ニンジン好きかな?」
わからないから、ニンジンは薄くスライス。玉ねぎは少し大きめで、さらに甘みをプラス。私はジャガイモ入れない派。春吉さんは入れて欲しそうだったけど、ルーの味を堪能したいから、ジャガイモはなし。
お肉も冷蔵庫から出して、室温に戻しておく。
お米はカレーの時は少しだけ水分を控えるんだけど、今日はリコちゃんの為に、ふっくらご飯に仕上げよう。
「ハルさんのコーヒー牛乳よりも、今日は普通の牛乳かな。」
冷蔵庫を覗きながら、
「コーヒー牛乳も買っておかないと、甘党ハルさんの口がとんがっちゃう。あ〜。1日しか経ってないのに、ハルさんにの顔見たのずーっと前みたい。あー、声だけじゃなくて、会いたいな〜。あの顔見たいな〜。ふふ、ハルさんて、くせになる顔してるんだ。」
先に炒めた玉ねぎがしんなりしてきたので、お肉をカット。
少しでも辛みを抑えようと胡椒は省いて塩だけに。小麦粉をまぶして炒め、表面がこんがり焼けたら、残りのニンジンと玉ねぎを投入。
全体に油が回ったら、温度が下がらないように、沸騰させたお湯を入れて、コンソメのキューブを一つ、ローリエの葉っぱを入れて煮込む。
夏乃さんが私の肩越しにお鍋を覗き込みながら、
「へー。玉ねぎ二段使いするんだ。」
「もっとのんびり作れるんなら、玉ねぎは飴色になるまで炒めたいし、お湯も玉ねぎの皮とか、にんじんの皮とか、ぐつぐつ煮込んで濾したスープを使いたいんですけど、今日は、コンソメキューブで代用です。」
「ワオ、マジ。私なんて、水入れて煮込んじゃう。ってか、レトルトにしちゃうな。へへ。」
「夏乃先生、お忙しいですもんね。」
「ええ、おかげさまで、堂々と手抜きできてます。ふふ。」
夏乃さんの笑顔って本当に素敵。
グツグツと煮込まれるお鍋を見ていると心が平らになっていく。呼吸が楽にできる。
「マコトさんは私の為にカレー作りを命じたのかも。」
部屋の中に玉ねぎの優しい香りが広がる。ルーを入れてさらに煮込み出すと、換気扇を回しても部屋の中がカレーで満たされていった。
カレーの匂いに誘われるようにモソモソとリコちゃんが動き出す。なんて可愛いんだろう。
「うんーーん。あ、カレーだ。」
大きく伸びをしたリコちゃんが目をこすりながら嬉しそうな声をあげた。
「リコちゃん。起きたね。お腹空いたでしょ。そう、カレーだよ。」
「うん。お腹空いちゃった、、かも。」
「かも、か。ふふ、ゆっくり目を覚ましたらいいよ。」
「うん。もうちょっとだけ。」
そう言って。薄いガーゼの掛け布団にモソモソとまとわり着くように甘えている。
「そのガーゼ、気持ちいいの?」
「うん。気持ち良い〜。モフモフヤワヤワで、良い匂い。」
「モフモフヤワヤワ?」
「うん。ママもモフモフヤワヤワ大好きなんだよ。」
「そっか。リコちゃんとママ、同じなんだね。」
「うん。一緒。」
以前、救急搬送された時に姿を消してしまったお母さんは、今どこにいるかわからないだろうに。一緒、その言葉が切ない。
リコちゃんは、起きそうで、眠そうで、モソモソしながらまったりとした時間を楽しんでいた。そこに、呼び鈴がなって、お気楽な声が帰ってきた。
モニターから、
「ハニー。ただいまー。帰ってきたよー。」
って、駒井が叫ぶから、
「ぶーーーっ。」
水を口にしていた夏乃さんがコントみたいに吹き出した。
「もー。夏乃さん。ハハハハ。やめて、やめて。ハハハ。お、おもしろ過ぎるでしょ。ワアハハハッハ。」
マコトさんが見た事ないほど大笑いしながら、夏乃さんが吹き出した水を拭いている。
「ごめん、ごめん。もーヤダー。私、何やってるんだろう。」
夏乃さんもしゃがみ込んで、一緒に床を拭きながら笑ってる。
その様子に、まったりしていたリコちゃんも飛び起きてゲラゲラ笑ってる。
なんか、良い風景だな〜。
皆が思いっきり笑っている中に、カギを開け駒井を迎え入れると、
「なになに。なんでそんなに楽しそうなの〜。プリン買ってきたから、俺も仲間に入れてくださいよ。なに、ここ拭くと楽しくなるんですか?」
ここですか?って言いながら大笑いしているマコトさんと夏乃さんから雑巾を取り上げて両手で床を拭き始めた。
なんだろう、、、皆んなが楽しそうに笑う、その中心にいる駒井を見て、私の気持ちの中にモフモフ、ヤワヤワが目覚めそう。




