四十四 ギリギリかも
階段を降りきって道に出ると駒井が、眉毛を持ち上げながら、
「大丈夫。僕、意外と優秀なんで。」
と、面白い顔してこっちを見た、でも今の私に軽くちを叩く余裕はなかった。
駒井の言葉に黙って頷いて、自分でもどうしてか説明できないけど、腕を組んだ駒井の左腕に体を預けるように一瞬、もたれかかった。
駒井は、腕に通している私の右手をポンポンと叩くと、
「姫は、自分が思ってるより強い。さあ、リコちゃんを守るよ。」
「うん。わかってる。」
そう答えた自分の声が震えているのがわかったけど、駒井の言葉に勇気をもらえた。
黒服の男と目が合わないように。でも、スマウォにちゃんと全員と車が映るようにと、駒井の腕に通したスマウォをつけた右手に気持ちを集中させた。会話のない私が不自然にならないようになのか、
「寂しがらないで。仕事が終わったら、またすぐに戻ってくるからねー。」
って、いきなり棒読みで駒井が言うから、思わず顔を見て吹き出してしまった。駒井が、
「ちょっとー。ここ、吹き出す場面じゃないでしょ、ハニー。」
こんな緊張した場面で、ツボにハマるかってほどおかしくなって、
「ごめんごめん。ダーリン、待ってるからね。」
と、もう、どう見ても恋人じゃないよね、ってほどの大笑いをしながら答えた。
はたからどう見えただろう。大笑いが止まらなくて、恋人同士に見える自信はまったくなかった。駅の改札に着くと、駒井が耳元に顔を近づけ、
「車から一人降りて来た。僕か姫の後をつけてくるかも。Pまで気をつけて戻るんだよ。」
急に現実に戻される。でもその感情が私にやる気に火を着けたのか、
「帰ってくるの、楽しみに待ってるからね。ダーリン。」
わざとらしいかと思ったけど、大きな声で両手を振りながらそう言い、アゴで『駒井、早く行け』と合図を送った。駒井は、手を振りながらホームへの階段を駆け上がっていった。
火のついた私は無敵だ。
スマウォの向こうには、ハルさんがいる。きっとこの状況を監視してくれている。
何かあれば、通報するとか、もしかしたらスマウォからスタンガン見たいに電磁波を出して、黒服を撃退してくれるかもしれない!
良し!行ける!やれる!
私は黒服が近づいてくる気配を感じながら振り向き、上げていた両手を思いっきり振り下ろした。
両手は、見事に黒服にクリーンヒット!
「あーーー。ごめんなさい。まさか、私の後ろに人が立ってるなんて。」
手が当たって、サングラスが目にでも入ったのか、目の辺りを押さえて痛がっている。ザマーミロ!と思いながら。
「ごめんなさい、ごめんなさい。痛いですか?痛いですよね。そこのお店で氷もらってきますから、待っててください。」
「いやいや。大丈夫。」
「そう言わずに、私のせいですから、待ててください。」
「いや、ほんとに大丈夫。先を急ぐので。」
黒服は、明らかに駒井を追いかけようとしている。そうはさせるか!
「ほんとに、そこのお店ですから、直ぐです。」
「いや、本当に。どいてくれ!」
黒服は、私を押し除けるようにして、改札を通っていったが、ホームから電車が発車する音が聞こえた。
車の中にも黒服がいたが、
「何よー。せっかく人がちゃんと謝ろうとしているのにー。私の後ろに立ってた、あんただって悪かったくせにー。お前も謝れー。」
と、道ゆく人が振り返るほど、大騒ぎをしてやったので、車は黒服たちを乗せて、走り去っていった。
去って行く車にもスマウォをかざした。まったく車に興味がないから、車種なんてさっぱりわからない。とにかく沢山撮っておけばなんとかなる。
でも、車がカーブを曲がって見えなくなると、
「あーーー、やば、足が震える。あーーー。」
立っているのもやっとなくらい、足だけでなく、体全体が震え出した。情けない。
やっとの思いでPに辿り着くと、マコトさんがコーヒーを用意しながら、
「お疲れ様。その様子じゃ、ミルクとお砂糖も必要ね。」
そう言って、冷蔵庫からミルクを出して、温めてくれた。
夏乃さんが、
「こっから見てたよー。本当に祝ちゃんはガッツがあるんだね〜。感心した。すごい!だけど、医者として、いや同じ女性として言うよ。自分が女だって事忘れちゃダメ。どんなに男女平等って言ったて、体力面で男と同じなることは決してない。わかったね。」
「はい。」
夏乃さんは優しい。マコトさんと同じくらい優しい。私がラリアットで、大男の斉藤を倒した事を知っているのに。いや知っているからこそかな。
マコトさんが温めたお砂糖入りのミルクをマグカップに足しながら、頭を撫でてくれる。
「、、はい、、はい、、。」
いつからこんなにも、涙もろくなっちゃんたんだろう。緊張から、解放されたからかな。
マコトさんの手は、心地いい。夏乃さんの言葉は温かい。
今のPの状況は、まったく平和じゃない。この後どうやってリコちゃんを守って行くのかも、私には見当もつかない。
だけどコーヒーがミルクたっぷり、お砂糖の効いた甘いカフェラテになって心を満たしてくれるように、リコちゃんを救う手段が必ず見つかるはずだ。




