四十三 冷静に
春吉さんが、私のスマウォを起動させてくれている間に、
「駒井は、署に戻って、今から確認する連中をすぐに調べて!」
リコちゃんを守る戦いモードに入った私は、自分が無敵に思えた。ところが、駒井は
「うーん。それは得策とは思えないよ。」
「どうして!リコちゃんを助けたくないの!」
「助けたいに決まってるでしょ!」
「じゃあ、調べてよ!それともハッキングとか盗撮で得られた情報だから、出来ないって言うの?」
駒井は大きくため息をついて、
「今の発言は聞こえなかった。いいね。とにかく、今、僕が動くのはリコちゃんを危険にさらすかもしれない。だから動けない。」
いつものふざけた駒井とは違い、刑事の顔をしてそう言ったけど、なんか上からものを言われたようで、
「何それ。」
駒井に無性に腹が立った。膨れっ面をしていたんだろう、マコトさんは私の両頬を潰すように押さえながら、
「祝、冷静にって言ったはずよ。」
私は頬を抑えられ、とんがった口のまま
「だって、マコトさん、駒井が。」
「祝。リコちゃんがここに来て、コマちゃんを見た時のこと思い出してごらん。リコちゃん、コマちゃんの赤いバッジ見ただけで、警察官ってわかったんでしょ。」
「あ、、、。」
マコトさんに言われて、駒井を見た時の怯えたリコちゃんの顔が思い出された。
「警察官を見たら助けてくれるって思うのが普通の人の感情。でも、リコちゃんは自分を捕まえに来たと思った。祝、そう話してくれたよね。」
「、、はい。」
「つまり、リコちゃんは警察に捕まって、帰りたくない場所に連れ戻される経験をしている。リコちゃんを縛りつけている人間と、繋がっている人物が警察の内部にいるかもしれない。コマちゃんはその事を確認するまで、動けない、って思ってるんだと。そうでしょ。」
「その通りです。リコちゃんの反応は普通じゃなかった。だから、今戻って、直ぐに署で確認するのは、難しいです。」
「そっか、、。ごめん。」
私は周りが良く見えてない、考えもとっても幼稚な自分が情けなくなった。しょぼくれていたのだろう、駒井がふざけた調子で、
「ツンデレ姫がそんな簡単に、ごめんなんて、気持ちワル。」
「もー。何よ!絶対に謝んない!」
「ホホ。そうでなくちゃ。」
沈みかけた私の気持ちを釣り上げてくれる駒井の存在は、とってもありがたい。マコトさんが、仲良しねーって、笑っていると、電話の向こうから
「起動できたぞー。」
と春吉さんの声がした。
「ありがとうございます。では、」
私の返事に、春吉さんは少しあわてて、
「待て待て。その前に。そこに追跡用のGPSがあるようだぞ。」
「やっぱり。」
私は、春吉さんの言葉に結構驚いたが、マコトさんのやっぱりにも驚いた。
「リコちゃんに付けられてるって事ですよね。まずいじゃないですか!ここが犯人にバレてるって事ですよね!マコトさん、やっぱりって思うなら、どうしてもっと早くいってくれなかったんですか!」
マコトさんは、また私の頬を両手で挟み、
「祝ー。冷静にって言ったでしょ。リコちゃんに付いていても大丈夫。ここにはハルが、ちゃんとGPSを遮断させる装置をセットしてるから。」
「そうだぞ。PにはGPS付けられてる依頼者がたくさんくるからな。ちなみにだけど、商店街にもそれなりにセットしてるけどな。」
そうだった、春吉さんは凄腕エンジニア。それにマコトさんの気持ちをドンドン汲んで、バンバン仕事をこなす、とっても気が利く人だ。
「あー。なるほど。すみません、焦っちゃいました。さすが、ハルさんです。」
「だろー。なあコマちゃん、どうせ動けないなら、それ使って、奴らを遠くに行かせてくれないか?」
駒井も身を乗り出して、
「ああ、良いですね。ハルさん、了解です。」
「姉ちゃんの話からすると、依頼者は小学生くらいか?スマホ持ってない感じだな。」
「そうです。さすがですね。」
「多分、ボタン電池くらいの大きさだ。靴の中敷きの下とか。女の子なら、髪飾りやアクセサリーに仕込まれてる可能性もある。」
春吉さんの指示通りに探したが見つからない。それよりも、靴でないことに初めて気がついた。
「リコちゃんが履いているの靴じゃない。ルームシューズですよ。」
「本当だ。どうやってここに来たのか尋ねた時、歩いて来たように言ってました。もしかしたら監禁されている所からここまで、近いんでしょうか?」
マコトさんが、ルームシューズを調べながら、
「そうとも限らない。だいぶ擦り切れている。服も汚れているし。ん?これかな。」
ルームシューズは全体が柔らかく、GPSが仕込まれている様子はなかったが、リコちゃんが着ていたワンピースの背中のクルミボタンが一つ、少しだけ他のとは違う大きさだった。ハサミで切り取り、ボタンを包んでいる布を外すと、中から鈍く銀色に光るものが出てきた。
「マコトさん、ビンゴですね。」
「見つけたか?」
「はい。マコトさんがワンピースのボタンの中から見つけてくれました。」
「じゃあ、それをシールドの袋に入れて持ち出してくれ。袋から出したら、位置情報の発信を始めるだろうから扱い、気をつけてな。」
「ハルさん、了解です。駒井にお任せあれ。」
駒井はそう言って、スマホに敬礼していた。
駒井は、シールドの袋を上着にしまうと
「リコちゃんの事も、無理のない範囲で調べてみます。」
と、言って出かけようとするから、
「駒井、待って。私が駅まで送って行く。」
「えー。そんなに僕と一緒にいたいのー。」
って、相変わらず間抜けな顔してアホなこと言うから、
「何言ってんのよ。犯人たちの動画を撮るためでしょ。駒井を送っていくふりした方が怪しまれないってだけよ。」
「チェ。でも本当は一緒にいたいとか?」
「んなわけ、あるか!行くよ。」
「はーい。」
マコトさんと夏乃さんに見送られながら、二人でPの階段を降りた。
外には少なくとも四人の黒服の男たちがいる。リコちゃんを助ける為に気合が入ってたはずけど、自分でも意外なほど緊張が襲ってきた。すると、駒井がいきなり、
「祝ちゃん。腕組もう。」
「な、何言ってるの!」
「ハニーとダーリンなんだから、その方が自然でしょ。それにその方が緊張も半分こにできるよ。」
「え。」
やばい。駒井が、ものすごく、ものすごーくカッコ良く見える。
めっちゃ心臓がバクバクしてる。なに?余計緊張してるじゃん。
えーっ。どうしちゃったんだろう。
冷静に、冷静になれー。




