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四十  リコちゃんの決意

 リコちゃんの寝ている姿は、平和な小学生に見える。けれど、少しだけ見える首元の黄色くなりかけたアザが、リコちゃんが受けている暴力の根深さを表していた。

私は、さっきまでの出来事をマコトさんと夏乃さんに話した。

「そう、背中を、、。見えるところに傷もアザもない。」

「はい。」

「典型的な胸くそ悪い虐待だ。だけど首のアザがね。」

「首の?」

「きっと、こうやって持たれたんだと思うよ。」

夏乃さんはそう言って駒井の首の後ろを思いっきり鷲掴みにした。

「イタタタ。先生痛いですよ。」

「あ、ごめんごめん。腹立って、つい力入っちゃった。」

駒井は首をさすりながら、

「ネコや犬じゃ無いんだから、首根っこを持つなんて。」

駒井の言う通りだ!本当に酷すぎる。マコトさんも驚いて、

「首を持って、それで体を持ち上げた、、てことなの。」

夏乃さんは深くため息をついて、

「ええ、そうだと思う。このアザは、押さえつけたんじゃない。鷲掴みにして体をグーッと持ち上げてる。黄色くなりかけてるけど、はっきり指の跡がわかるし、爪が食い込んだ後もある。」

「、、なんてこと、、。」

きっと今までも、Pには虐待を受けた人たちが、助けを求めて逃げて来ているだろう。マコトさんはそんな多くの人たちを見ているはず。そのマコトさんが青ざめて、目に涙が浮かんでいる。夏乃さんも、

「私もDVの被害者を診察してるけど、さすがにこんな傷、初めてみる。それに、一番気掛かりなのは、この手の卑怯者は見える所に決して傷はつけない。それなのにこの犯人は、イライラしているか、切羽詰まってるのか、目につくところを傷つけた。この子に命の危険があることは確かだと思うよ。目が覚めたら、体にある全ての証拠を残しておいた方がいいね。」

夏乃先生の声は怒りに満ちていたけど、とても冷静だ。

だけど、私はあまりのことに言葉を発することもできないでいた。

今までの私にとって、DV被害は、ニュースの中の出来事でしかなかった。

目の前の、幼いリコちゃんに起きている事が苦しくて、自分が息をしているのかさえわからなくなりそうだ。

駒井はそんな私を見かねたんだろう、

「ツンデレ姫。よくこの子を中に入れたね。マコトさんがいなかったから、本当はドア開けるのためらったんじゃないの。開けなかったら、この子はまだ闇の中だ。命の保証だってなかった。」

駒井の言葉に抑えていた感情がせきを切る。

「、、、うん。」

「姫がリコちゃんを傷つけたヤツらにラリアットお見舞いする時は、俺も呼んでくれ!ダブルラリアット食らわしてやろうぜ!。」

「もー。駒井のバーカ。バカ、バカ、バーカ。でも、一緒にくらわせよう!絶対だからね!絶対!」

「おう!」

泣きながら駒井と拳を合わせた。リコちゃんを傷つけたやつに怒っていたからなのか、駒井の優しさがそうさせたのか、涙はしばらく止まらなかった。

 マコトさんが私にタオルを差し出してくれて、しょくりあげながら泣いていたら、

「祝ちゃん、大丈夫?」

リコちゃんが目を覚ました。

「う、うん。はは、大丈夫だよ。ごめん、起こしちゃったね。」

リコちゃんは、上目遣いで周りを見回して、

「どうしたの?」

リコちゃんは目が覚めたら人が増えていることにも戸惑っているようだ。

「リコちゃんを守ってくれる人が来てくれたんだよ。ここにいる人は皆んなリコちゃんを守る正義の味方!安心して。」

「祝ちゃんのお友達?」

「そうよ。そして私よりも、もっと、もっと頼りになる素敵な人達よ。」

マコトさんがリコちゃんのソファーの前にそっと座り、

「こんにちは。初めまして。Pのマコトです。あなたはリコちゃんね。」

横になっていたリコちゃんは起き上がり、

「こんにちは。リコです。お兄さんがマコトさん。」

「ええ、そうよ。」

小学生のリコちゃんが、起き上がって挨拶したことにも驚いたけど、

「リコちゃん。マコトさんがお兄さんってわかるの?」

「うん。」

「へー。」

初めてマコトさんを見て、男の人って認識できていることに驚いていると、駒井が、

「えー、そこ?」

「そこって、何よ。」

「のんびりビームは自分に向けても発射してるんだねー。」

何よ!やっぱ、駒井大嫌い!

「マコトさんが男性なんて、誰でもわかるよ。そこじゃなくて、マコトさんをリコちゃんが知ってるって所に驚くんでしょ!小学生のリコちゃんが、Pを目指して来たってことでしょ。」

「あ、そっか。本当だ。」

そうだと思ってる私に向かって、駒井が

「ビーム!」

ってふざけてると、リコちゃんが笑っていた。ここに来て初めての笑顔。

その笑顔に私が救われる。

「リコちゃん、私は夏乃です。」

「こんにちは。」

「こんにちは。リコちゃん、私は医者なの。」

「お医者様、、、。」

「ええ。リコちゃん首に傷が見えるんだけど、診察してもいいかな?」

リコちゃんは、咄嗟にスカーフを持ち上げて襟元を隠した。そして、私の方を不安そうに見ている。

「大丈夫だよ。夏乃先生はとっても優しくて、よーっく診てくれるお医者様。私もここ、真っ黒になるくらい、ひどい怪我してたんだけど、夏乃先生に治してもらったの。」

リコちゃんに右腕を差し出して見せていると、駒井はお得意のニヤニヤマックスの顔でリコちゃんに、

「そー。祝ちゃんたら悪いヤツに、ここで一発ラリアットーって殴りかかって、めちゃめちゃ腫れちゃったんだけど、ほら、見て見て、綺麗になってるでしょ!」

「駒井!ラリアットって言わない約束でしょ!貸し一万にするからね!」

「あー、ごめんなさい。ごめんなさい。もう、言いませ〜ん。」

口にチャックする様子が面白かったのか、リコちゃんは声を出して笑った。そして、

「夏乃先生、リコを治してください。」

リコちゃんはスカーフをそっと外した。

「了解。でも、痛いのここだけじゃ無いよね。」

「、、、うん。」

「痛い所、全部治していこう。ね。」

リコちゃんは頷いた。少し微笑みながら。




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