三十九 駒井の優しさ?
リコちゃんは、お饅頭を一口、一口噛み締めるように食べていた。それはどこか、最後の食事を名残り押しそうに食べているようにも見える。
「リコちゃん、美味しい?」
「うん。すごく甘くて。すごく美味しい。」
「よかった。まだお饅頭あるんだよ。おかわりして良いんだからね。」
「、、おかわり?」
「そう。おかわり。」
「おかわりって、何?」
嘘でしょ!おかわりって言葉知らないの?
「あ、おかわりってね、もう一つでも、二つでも食べて良いってことよ。もっと食べたいって言って良いってこと。それがおかわり。」
「え、お皿にあるだけじゃなくて?」
「そうよ。お腹空いてるよー、もっとちょうだいよー。って言うのがおかわりちょうだいってこと。」
「へー。すごい。おかわりか、、。」
リコちゃんは本当に知らないんだ。お腹がいっぱいにならなくても、お皿に出された分を食べたらそれでおしまい。あとは、我慢するしかない。こんなに幼い子が、そんな生活をしているんだと、怒りと、切なさで胸がいっぱいになった。
「祝ちゃん。どうしたの。どこか痛いの?誰かに叩かれたの?」
泣きそうな私にリコちゃんがそう尋ねる。リコちゃんにとって涙が出る時は、叩かれた時なんだ。
「違うよ。リコちゃんが今までお腹がいっぱいになるまで、ご飯食べたこと無いのかもって思ったら、悲しくなっちゃた。」
「リコのせいで泣いてるの?ごめんなさい。ごめんなさい。」
「そうじゃないよ。リコちゃんに意地悪するヤツに頭に来てるの。リコちゃんにお腹いっぱい食べさせないヤツに、涙が出るほど腹がたったの。ごめん、心配させちゃったね。リコちゃんのせいで泣いてるんじゃないよ。安心して、たくさん食べて。」
リコちゃんは頷いたけど、おかわりはしなかった。
「リコちゃん、お腹いっぱいになった?」
「、、うん。」
本当はまだお腹いっぱいになって無いのかも、そう思ったけどたくさん食べる事に慣れてないと負担になるだろうから、無理強いはしなかった。
頷くリコちゃんが、可愛くて、切なくて、抱きしめたかったけど背中を痛そうにしていたことを思い出し手を握り、
「わかった。お腹空いたらまた食べよう。お饅頭でも、他の物でも何でもたくさん食べようね。」
そう言うと、
「祝ちゃんの手、あったかい。」
「ふふ、リコちゃんの手も暖かいよ。」
「リコ、ちょっと眠くなっちゃった。」
「ここのソファーで少し休もう、私がそばにいるから。悪い奴らを絶対に近づけたりしないから。安心して。」
「うん。」
リコちゃんは小さく頷くと、よっぽど眠かったのだろう、さっきまでピリピリとした緊張に包まれていたバリアみたいなのがスーッとなくなって行く。ソファーに座ると、コッテと寝てしまった。
「電池が切れたみたいに寝るんだね。」
今日初めて会った幼いリコちゃんだけど、とっても愛おしい。
眠っているリコちゃんの頭を撫でていると、スーッと、駒井がリコちゃんに自分の上着をかけてくれた。
「よっぽど疲れてたんだな。」
駒井の目にも涙が浮かんでいるように見える。
「うん。そうだね。ありがとう。」
「さっきまであんなに警戒してのに。こんなにあっさり寝ちゃうなんてな。」
「本当にそうだよね。」
「能天気なお姉さんの出す安心安全空気ってすごいよな〜。」
駒井はそう言って、ニヤケ顔で私の方を見た。
「え!ちょっと!何それ!私の事、言ってんの!」
「シー、シー。起きちゃうでしょ。静かに、シー。」
「ホント、腹たつ!お礼なんて言うんじゃなかった。」
私をからかったのは、リコちゃんの悲しみを前に落ち込んでいる私を見かねた、駒井の優しさなのかな。
それとも、自分を奮い立たせようとしたのかも。
「何じゃれてるの〜。相変わらず仲良しね〜。」
見ると、マコトさんと夏乃さんが並んで立っていた。
「あ、マコトさん、おかえりなさい。夏乃先生も。ありがとうございます。」
「退院からたった1日。祝ちゃん、すっかり元気になってるねー。やっぱり、若いって素晴らしー。」
「違いますよ、夏乃先生のおかげです。」
「いやいや。それより、この子だね。」
「はい。」
「寝てるところごめんね。ちょっとだけ見せてね〜。」
夏乃さんはそう言って、スカーフを少しだけ指でずらした。
「スカーフ、外しますか?」
そう尋ねたが、
「やめとこう。マコトさんからメッセージの内容聞いたけど。こうした子はきっと敏感だから。せっかく眠れたなら、寝かせといてあげたい。」
夏乃先生の優しさが、また涙腺を刺激する。すると駒井がまた、
「そうなんですよ〜。祝ちゃんの『のんびりビーム』にやられて、さっきコッテと寝たところです。」
「のんびりビームって何よ!本当腹たつ。」
夏乃さんは駒井に呆れ顔で、
「コマちゃんはさー、小学生の心のまんま、体だけデカくなったんだね。大人なんだから、好きな子にはちゃんと好きって言いなさいよ。」
「僕は夏乃先生一筋ですよ〜。」
駒井は相変わらずだけど、何だろう
『まだ彼氏になれないんだ』
あの時の駒井の言葉が思い出されて、顔が熱くなる。




