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三十八  切ない

 正義の味方で、どうして駒井が一番に頭に浮かんだんだろう?

てか、一人でいるもが不安すぎただけなのかも。

3コールで、駒井は出てくれた。

「ん?祝ちゃん?」

「そうに決まってるでしょ!何分で来れる?」

「Pに?」

「他にどこに呼び出されるのよー。」

「相変わらず、ツンデレだな〜。」

「うるさい!何分?早く応えて!」

「1分。」

「ふざけないで!」

「今、駒井は千花ちゃんの家の庭。三十秒で行きま〜す。」

「マジ。良かった。」

ホッとして電話を切ると、リコちゃんの視線を感じた。

「本当に友達?」

「うん。友達。」

「友達に、あんな怖い言い方するの?」

なんか、リコちゃんて鋭い。

「うん。良いんだよ、か、彼氏だから。」

「へー。」

なんの誤魔化し方だろう。彼氏にならもっと優しく電話をかけそうだけどって自分でも変だとは思ったし、いくら何でも駒井を彼氏だなんて。まだ頭が混乱してるのかも。

 本当に三十秒で、いやもっと速く呼び鈴がなった。通りのモニターには、さっきから通りをウロつく男が、駒井が駆け上がった階段を覗きこむ様子が映し出されている。

「あー、マズいかも。」

そう思った私は、ドアを開けると、いきなり駒井に抱きついた。そして大きめの声で

「も〜。遅いよ〜。約束の時間過ぎてる。待ちくたびれちゃった。」

「え、え、そお?えっと、、、。」

戸惑う駒井に、

「合わせて。」

そう囁くと、さすがお調子者、駒井。

「ごめん、ごめん。これでも走って来たんだよ。寂しかったかいハニー。」

ハニーって吐きそうだけど、とりあえず、階段したの男に聞こえるように甘えた声で、

「早く〜入って〜。」

駒井を部屋の中に引っ張って入れると、直ぐに施錠した。

「何?どうした?そんなの俺に会いたかったの?」

「チッ。」

駆けつけてくれた正義のヒーロー駒井に思わず舌打ちしちゃった。

「祝ちゃん、舌打ちってー。」

「ハニーなんて言うんだもん。ごめん、反射的にしちゃった。」

「ホント。ツンデレ姫だね。で?あの子は?」

さすが駒井、めざとい。

「うん。今、マコトさん病院なんだ。」

「あー、なるほど。外をウロついていた連中かな。」

「さすが。鋭いね。」

駒井は嫌いだけど、頼れる人物であることは間違いない。

実際、走ってくるほんの短い間に、ウロつく男の事、そしてリコちゃんも見ただけで、直ぐに察してくれた。

「お姉さん、嘘つき!彼氏じゃないじゃん!リコを捕まえに来たじゃん!」

リコちゃんは、ソファーから立ち上がり、いきなり叫んだ。

「え、どうしてそう思うの?」

「そのバッジ。警察の人でしょ。」

驚いた。こんな小さな子が、駒井のつけている小さな赤いバッジを知っているなんて。

駒井は、ドアの前から動かず、その場にゆっくりとしゃがみ、リコちゃんの視線に合わせると、とっても落ち着いた声で

「こんにちは。僕は駒井と言います。確かに警察の人間だけど、このお姉さん、祝ちゃんの友達です。今は、祝ちゃんの友達ってことが優先。優先ってわかるかな?大事ってことだよ。」

「祝ちゃんの友達?」

「そう。祝ちゃんに助けてほしいって呼ばれたから、ここにいる。警察官じゃなくて、友達の為にここにいるんだよ。」

リコちゃんは少し考えて、

「友達?彼氏じゃなくて?」

子供って、そんなことにこだわるのかと思っていると、駒井が

「彼氏になりたいけど、まだ友達のままなんだ。」

「へー。」

こ、駒井!ま、真顔でそんなこと言うな!な、な、なんか、顔が熱くなる!

「リコちゃんって呼んでも良いかな。」

「うん。」

「祝ちゃんは、外にいる男の人からリコちゃんを守ろうとしているって僕は思うんだけど、そうかな?」

リコちゃんは、頷いたのかどうかわからないほど小さく頭を動かした。

「わかった。じゃあ、僕はこのドアの前で悪いヤツが入って来れないように二人を守る。リコちゃんは、ちょっと前にここに着いたんでしょ。」

「うん。」

「じゃあ、祝ちゃんにジュースでも、もらうと良いよ。何か飲んで、少しホッとしよう。」

駒井はそう言って、私に視線を送った。

きっとテーブルに飲み物が何も乗っていない事。私のちょー焦った電話。そこから、リコちゃんが来て間もないと察したんだろう。

それに、駒井だって突然呼び出されたんだから、署に報告だって必要。だからって警察を警戒しているリコちゃんの前で連絡も取りにくい。

「リコちゃん、向こうのお部屋に冷蔵庫があるから、リコちゃんの飲めるものを探しに行こう。」

「うん。」

リコちゃんを連れて隣の部屋の冷蔵庫を開けると、やはり駒井はどこかに連絡をしている。

リコちゃんは、

「えっと、お姉ちゃん、、。」

「祝で良いよ。名前で呼んで。」

「うん。祝ちゃん、ここにあるのどれでもいいの?」

そう言うとリコちゃんのお腹がなった。

「良いよ。どれでも好きなものを選んで。飲み物も、食べたいものでも。あ、でも何か飲んだり食べたりして、痒くなったり、苦しくなったりするものある?」

リコちゃんは、少しうつむいて、

「いっぱい食べるのはダメって。」

「何をいっぱい食べちゃダメなの?」

「何でも。いつもお皿に少しよそってもらうだけしか食べちゃダメって。」

「え、お腹がいっぱいにならなくても?」

「うん。ダメって。お皿にある分だけ。」

「そんな、、。ここでは良いんだよ。お腹空いてるんでしょ。あ、お饅頭好き?あんこが入ってるの?食べる?」

「お饅頭?」

「そう。」

「、、、食べてみたい。いいの?」

「もちろん、良いよ。」

麦茶と、マコトさんが買っておいてくれたお饅頭をお皿に出して、

「これは全部、リコちゃんのだからね。よく噛んで、ゆっくり食べてね。」

ダイニングのテーブルに、麦茶と、お饅頭を並べた。リコちゃんはそれを本当にキラキラした目で見ていたけど、

「祝ちゃん、どこで手を洗うの。」

「リコちゃん、すごい。そうだね、手を洗ってうがいもしよう。」

リコちゃんはちゃんと石鹸で手を洗い、うがいもして。

「いただきます。」

そう言ってお饅頭を食べた。お腹がなっていたのに、がっついて食べる事もなく、ゆっくりよく噛んで食べている。

首から少し覗く黄色くなりかかっているアザ。背中を少し触っただけで痛がる様子。間違いなく虐待を受けている。

それなのに、しつけがきちんとされているようにも伺える。

お行儀が良く、聞き分けの良い小さな女の子。

そんなリコちゃんが切なかった。



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