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三十七  正義の味方

 翌朝、階段を降りているとコーヒーの香りがした。ふと、昨日、美佐枝さんの家での事もだけど、洗濯機の前での事を思い出して、どんな顔してマコトさんに会ったら良いのか、そんな思いが頭をもたげてきた。

だからって、ここで部屋に引き返すわけにもいかず、

「おはようございます。」

吹っ切るように、リビングに顔を出すと、マコトさんがクスクスと笑いながら、

「おはよ。」

「おはようございます。なんでクスクスですか?」

「声の大きさが祝の気持ちを表すんだな〜って。」

「え、そ、、うですか?」

マコトさんの言葉の意味にピンと来ない。

 クスクスのマコトさんは、

「はい。」

テーブルにサンドウィッチを並べながら、

「食べたかったでしょ。」

見るとハムサンドがたっぷりとあった。

「あー!ハムサンド!」

「コマちゃんに取られちゃったから食べられなかったもんね。」

「あ〜。食べたかったです〜。」

「でしょ。さ、食べよ。」

「はい。」

さっきまでマコトさんにどんな顔見せたらって思ってたのに、ハムサンドを目にしてすっかり忘れた。

腹ペコの駒井にハムサンドをあげたことは残念ではなかったけど、あまりにも美味しそうに食べる駒井を見て、ハムサンドが食べたくて仕方なかった。

「ん〜。美味しい!美佐枝さんのマヨネーズに、ハムサンドのは少し辛子入りですね!ハムのジューシーさを引き立たせるように全体をキュッとしめていて、本当に美味しい〜。最高のハムサンドです!」

幸せが口いっぱいに広がって、マコトさんと顔を合わせることを躊躇したことが頭の奥に消えていく。

忘れることがあると、思い出すこともあって、

「そう言えばマコトさんに聞きたいことがあります。」

「ん?」

「えっと。千花ちゃんの庭でマコトさんが私の腕を触ってくれた所だけ、その、、治っているんです。それって、、その、、。」

「ああ。神だから。」

そんなあっさりと返されるとは。

「やっぱり、そうなんですか。」

「だからって、誰にでもそう簡単に効いて治るもんじゃないのよ。直後だったから特によく効いたの。それと祝が『はふり』だから。その証拠に、他の部分も治りが早いでしょ。」

「はい。夏乃先生が驚いていました。」

「でしょ。本当は、全部治してあげれたら良かったんだけど、斉藤の怪我からすると、祝の無傷は辻褄が会わなくなっちゃうからね。それに、千花ちゃんとハルの事も気になってたし。神に仕えるものを守るのも神の役目よ。」

「う、、、。」

マコトさんが私をまっすぐに見て話す言葉に、また、泣きそうになった。

マコトさんは微笑むと私の頭をポンポンとして。

「さてと。ハルの様子でも見てくるわ。祝はゆっくり食べて、元気になりなさいね。」

そう言って病院に、出かけて行った。

一人でPにいるのは初めて。もし今、依頼者が来たらどうしよう?まあそう思う時って、それが現実になっちゃいそうなんだけど。

 マコトさんが出かけて間もなく。お腹が空いたら食べなさいって、買っておいてくれたお饅頭ってどんなかなって気になって、竹の皮の包みの端から覗き込んだ、

「うわあ〜、ふっくらして、美味しそうなお饅頭。中のあんこがうっすら透けてる〜。なんて魅力的はフォルム。もう、食べちゃおうかな〜。どうしようっかな〜。もうちょっとだけ、我慢できるかな〜。私って、ホント食いしん坊。ふふ。」

よだれが出そうなその時、呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。

「あーどうして不安の方の予感って、当っちゃうのー。もー。」

居留守を使おうかと思ったんだけど、不誠実な気がして、とにかく呼び鈴のモニターで確認した。

「ん?誰も写ってないじゃん。」

恐々見た呼び鈴のモニターには、外の様子が写っているだけ。

「これが噂のピンポンダッシュ?」

ピンポンなんてならないし、誰の噂よって、一人ツッコミをしてモニターを離れると、また呼び鈴が鳴る。

モニターを見ると、やはり誰も写っていない。

「何、何?逆に怖いじゃん。」

誰も写っていないモニターをじっと見つめると、

「ん?何か動いてる?」

なんとなくだけど、モニターの下の方がユラユラ、キラキラとしている。

「えー。何だろう。怖い、怖い、怖い。」

そうだと思い立ち、カポックに仕掛けられているモニターの方を確認すると

「え、子供?」

いたずらなのかとも思ったけど、その小さな体は一生懸命に手を伸ばして呼び鈴のボタンを押している。私は心がザワザワして、とにかくこの子を中に入れなくては、そう思った。

 急いで、入り口を開錠し、

「さあ、入って!」

小さな声で女の子を招き入れた。

「おねえちゃん、カギ、カギ早くして、早く早く!」

「うん、大丈夫よ。もうカギかけたから。」

「ホント?本当に大丈夫?」

「うん。心配しないで。さ、ソファーに座ろうね。」

そう平静を装って声をかけたけど。心の中では驚きを隠せなかった。

小学生?三、四年生くらいかな?こんな幼い子がここに?終止符屋に来る?しかもすぐにカギをかけて欲しいなんて、そん風に思う?

一気に疑問が浮かんだんだけど、それよりも

「さ、こっちの大きなソファーに。」

そう背中に触れた時、

「うう。」

「えっ。ごめんなさい。痛かったの?」

「うんん。大丈夫。何でもない。」

彼女はそう言ったけど、明らかに痛がっていた。

それに、確かにまだ寒い日はあるけど、厚手の長袖のブラウス、膝丈スカート、厚手のタイツ。不自然に襟元を隠すようなスカーフ。

駆け出しの『P』スタッフの私だけど、流石に気がつく、違和感てんこ盛りの見た目。

「お名前、教えてくれるかな?」

「、、、。」

あー。話さないか。どうしよう。聞かないことには話、進まないよね。どうするか、、、。

「えっと。私の名前は祝。あなたは?」

「、、、。リコ。」

「そっか、リコちゃんね。」

「うん。」

よし、良い感じ。

「私は、新情祝です。リコちゃんは何リコちゃんかな?」

「、、、。」

んー。そう簡単じゃないってことね。

「えっと、そっか。まだそこまでは話したくないんだね。大丈夫、うん、大丈だよ。」

「、、、。」

「リコちゃんはここにどうやって来たのかな?電車に乗って、、は、来ないか。えっと、歩いて?」

リコちゃんは小さく頷いた。彼女の目はちゃんと私を見ている。もう少し聞いても応えてくれるかもと思ったけど、まっすぐな視線が何を求めているかを考えて。

「リコちゃん。今、私ここに一人なんだ。助けてくれる人を呼んでも良いかな。」

そう話すと彼女はいきなり立ち上がり、逃げるような不安な目をした。

「大丈夫。大丈夫。呼ぶのは私の友達。すっごく信用できる人。悪い奴が大っ嫌いな人。リコちゃんの話をちゃんと聞いてくれる人。」

リコちゃんは私をじーっと見て、小さな声で、

「本当、、。」

「本当よ。それから、もう一つ聞いても良いかな?」

そう尋ねると小さく頷いた。

「ここに、この場所に来たくて来たのかな?それとも、たまたま通りかかって、それで、呼び鈴を押したのかな?」

そんなに難しいこと聞いていないと思うけど、リコちゃんは固まってしまった。

「あ、えっと。大丈夫、ごめんね、変なこと聞いたのかな。うん、いいよ、そのままで。えっと、じゃあ正義の味方を呼ぶね。」

リコちゃんは、また小さく頷いた。

 私はまず、マコトさんにメッセージを送った。病院に行くって言ってたから、電車の中か、病院だったら電話には出ないと思ったから。簡潔に今起きてることだけを知らせた。

でも、きっと直ぐには戻ってこない。

そう考えながら通りを見れるモニターに目をやると、そこには同じ服装の人物が何かを探して行ったり来たりしている姿が映っている。

「まさか、コイツら。」

マコトさんを待っている間、一人は流石に怖い。ヨシ。私は決意して、はじめに思いついた正義の味方に電話をかけた。

「駒井!直ぐきて!今すぐ!集合!」




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