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三十六  強さとは

 グチャグチャの整理のついていない頭を抱えながら、病院での出来事がふと浮かんだ。

「そっか!だからマコト様、、じゃなかった、マコトさんは私をあの時止めたのですね!私が生方にラリアットしようとした、あの時!生方の記憶まで私が消してしまわないようにって!」

「まあ、記憶が消されるかって事より、斉藤にラリアットした時の祝の様子で、この子は『はふり』かなって。」

「病院で斉藤のそばに居たのも、私がラリアットするんじゃないかと思って。それで、ずっといてくれたんですか?」

マコトさんは、朱色の椅子に戻り、

「夕食の時、祝が誰かいるって感じて、それで夏乃さんが確認しに廊下を見に行ったでしょ。あの時、生方を見つけて、すぐに私に連絡くれたの。もしかしたら、また祝が体を張るかもって。」

「夏乃さんが、、。」

「ええ。彼女は病気や怪我を治療するだけじゃなくて、患者その人自身をよーっく見てるの。祝の怪我を見て、きっとこの患者はむってぽうな人だって分かったんでしょうね。だから、生方のことも、看護師のことも、斉藤がどの病室にいて、警察がどんな計画を立ててるかも、祝には伝えなかった。言ったら何するかわかないからね。ふふ、まさに名医!」

「、、、。」

私は、夏乃さんが救命救急センターでテキパキと治療をしている姿を思い出していた。何人も運び込まれた患者を治療しながら、患者の人となりも観察しているなんて。夏乃さん、なんて凄い人なんだろう。春吉ファミリー恐るべし。

「祝さん。お分かりになったかしら。人は考え、自分で解決する力を持っているのです。そして、夏乃さんの思いやり、お考えが、祝さんを助けてくれたのですよ。」

美佐枝さんは、まだ頭の中も心の中も整理できていない私の手をそっと握り、包み込むように話してくれた。

「そうよ。夏乃さんの優しさが無かったら、その細い右腕は、端微塵ぱみじんに吹っ飛んでいたわね。感謝しないと。」

「うっ。」

マコトさんの言葉に息を飲んだ私に、

「そんな脅す様なことをおっしゃらないで。」

って、美佐枝さんは言ってくれたけど、生方を見つけた時の私は必死になっていたから、やりかねない。

今この右腕はギプスでガッチガチに固定されていたかも。いやいや、ギプスができるくらい腕が残っていたら良いけど、ちぎれてどこかに飛んでいたかも。本当にそう思えた。

 『はふり』の事をまだちゃんと飲み込めたわけじゃない。かなり中途半端で宙ぶらりんのままだった。

私が落ち着いて『はふり』の事を考える時間を待たせようと思いやってくれたのだろうか、その後は、美佐枝さん手作りの宝石のような琥珀糖を三人で女子会のように、ワイワイ話をしながら楽しんだ。マコトさんは、

「祝を美佐枝さんに引き合わせたから、これからは祝も美佐枝さんのところに出入りして、色々と教わりなさい。」

と。

「はい。ぜひ、よろしくお願いします。」

そう頭を下げ、マコトさんと美佐枝さんの家を後にした。

 Pに戻ると、やっぱり不安になり、

「あの、、。本当に今まで通りでよろしいのでしょうか?」

そう尋ねた。私の前を歩いていたマコトさんがめっちゃ勢いよく振り返ると、

「祝。ここを追い出されたいの?」

マコトさんの美しい顔は、睨むとめっちゃ怖い顔。

「えー、いやです。置いてください。」

「じゃあ?」

「はい。今まで通りにします!」

「よろしい。」

マコトさんは笑顔の方が良い。やっぱり素敵。魔法の笑顔だ。

 美佐枝さんの所にいく前にしようとしていた洗濯を済ませちゃおうと、洗濯機に洗剤を入れながら、ふと気になって、

「あの、私が美佐枝さんのところに出入りさせてもらうこと、ハルさんにはなんて言いますか?美佐枝さんのことあまり知らないって、ハルさん言ってましたけど。」

「え。ハル、美佐枝さんと面識ないんだっけ?」

「はい。私にはそう言ってました。」

「アレ。そうだっけ?。」

マコトさんはちょっと考えて、

「女同士だから、美佐枝さんのことお願いしたってことで。よろしくね。」

「はい。わかりました。」

 洗濯機のグルグル回る様子は、まるで自分の頭の中みたいだ。

ただ、じーっと回転している様子を見ているとマコトさんが後ろから、そっと私の背中に手を置いて、

「祝、ゆっくりで良いんだよ。」

洗濯機を見ている目から涙が不意に溢れた。

「今日は、盛りだくさんだったもんね。」

マコトさんの声は、いつにも増して優しく穏やかなトーンで、淡い光が私を包んでいくようだ。

マコトさんの方に振り向けなかった。

泣いてる顔を見せたくないのか、どうしてなのかわからないけど。

振り向きたい、振り向いて不安な気持ちを受け止めてもらいたい。でも振り向けない。

だって、マコトさんは神様なんだもの。

マコトさんはそんな私の横に洗濯機が止まるまでただ、本当にただ何も言わずにいてくれた。

 夜、ベッドに横になり窓の外を見ると、

「あ、桜。」

初めてこの部屋から見た時は薄ピンクの蕾だけ。今日はまだ、三日目の夜。もう、桜が咲き始めたんだ。

「そう言えば。風があったかかったな。」

咲き始めの桜は、枝に一輪、二輪と咲くだけで、はかないものと思っていたけど。思っていたよりもずっと綺麗で、ずっと強く咲いている。

自分がこの場所にいて、神使職である意味を考える事さえ小さく感じるほどに。



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