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三十五  『はふり』の力

 いきなりマコトさんにラリアット禁止と言われても訳がわからない。

「あの、、ラリアット禁止って?どういうことですか?」

マコトさんと美佐枝さんは顔を見合わせ頷くと、美佐枝さんが、

「祝さんは、『はふり』の力のことをどのようにお聞きになっていらっしゃるかしら。」

そう尋ねられた。

「どう、、とおっしゃられても、、。えっと、、何も聞いておりません。」

美佐枝さんは少し不思議そうに

「何もとは?」

「えっと、、言葉通り何も、、です。何も力のことは聞いておりません。私の方こそ、むすひ様、、いえ、美佐枝、、さんにお聞きしたいです。神使職、それぞれが持つ一つ力とはどのように授かるものなのでしょう?」

美佐枝さんは少し考えるような顔をして、

「私は幼き頃より自分の力を存じておりました。」

「え、、。そう、、なんですか!」

「はい。」

美佐枝さんは静かに答えたが、私の中では焦る気持ちが沸騰するよに湧き上がった。

「そんな、、私は、何も知りません。今も幼い頃も何もです。わ、私は自分の力が何であるか、、何も知らない、、。あ、と言う事は私は神使職に相応しくないということ、、そうでしょうか!その器にあらずということなんでしょうか、、。」

こちらに降ろされた時から、私はいずれ神使職になれるものだと思っていた。それが当たり前のことだと。まだ2センチ浮くことしか出来ないけど、あと一年の修行が明けたら元の世界に戻れる、そう思っていたのに。絶望ってこんな気持ちなの?今、一人で断崖絶壁に立っているようだ。そんな私に美佐枝さんが

「そんなことはありませんよ。」

そう優しく声をかけてくれる。でも、マコトさんは呆れたような声で、

「そっかー。知らないのねー。」

「、、はい。」

「知らないかー。やっぱり、そっかー。」

「、、はい。何も、、です。」

マコトさんは、ため息なのかどうなのか良くわからなかったけど、大きく一つ息を吐くと、朱色の椅子から立ち上がり、私の頭を幼い子にするように撫でながら、

「あと一年で修行が明けるというのに。祝は、ただただ幸せに包まれて、こちらの世界で生きてきたんだね。」

「、、、。」

そして私のアゴの下に手を置いて、

「盲導犬のパピーだったパピーウォーカーのところで、もう少し色々学んで盲導犬になると思うけどな〜。」

と。美佐枝さんは、

「マコトさん、アゴの下をゴロゴロされて嬉しいのは、猫でございます。盲導犬のパピーは犬ですよ。」

「ホントだ!」

そう言って二人は笑っていたけど、私は全然笑えない。笑える訳ない。

「祝ー。なんて変な顔してるの!」

マコトさんのその言葉に、不安が関を切ったように溢れ出す。

「だって、だってだって自分のことなのに全然わかんないです!私って一体何者なんですか?なぜこの場に居るのですか?なんかもー、あーー。誰の親指かわからない親指を自分の手に祝の親指だよって渡されて、訳も分からず、ああそうなんですねって言って自分の親指としてつけてるって感じです!ああーー私、どうしたら良いんですか!」

マコトさんは、私の顔をじーっと見て。

「、、。何言ってるのかさっぱりわかんない。まあ、琥珀糖でも食べて、少し落ち着きなさい。」

マコトさんは、左手で私の頬を挟んで口を開けさせると、右手でポイっと琥珀糖を口の中に運んでくれた。

甘くて、爽やかで、最後に少しほろ苦い琥珀糖。口の中に美佐枝さんの穏やかな優しさが広がっていくようで、少し涙が浮かんできた。

 そんな私を見て、マコトさんがゆっくりとした口調で話し出した。

「美佐枝さんは『むすひ』よね。」

「、、はい。」

「『むすひ』の力を幼いことから自覚していたのは、その名のため。」

「名のため?」

「そうよ。じゃあ、祝の名『はふり』はどうして名付けられたの?」

「それは、、向こうの世界で私の親が、、『はふり』と名付けてくれから、、でしょうか、、。」

「まあ、それはそうなんだけど、どうして『はふり』と名付けられたの?」

「、、どうして、、ですか?」

「そうよ。美佐枝さんは『むすひ』の力をこちらの世界でも使って、皆を助けているわね。」

「はい。」

「祝は?祝はこちらの世界で何をしたの?」

「わ、私がしたことですか?え、、、。私がしたこと?私、何かした?」

マコトさんにそう言われたけど、浮かぶものはなかった。

毎日楽しく暮らしていた。友達とも、バイト先でも楽しい時間。

就職が全然決まらなくて焦っていたけど、それもマコトさんに『P』に誘ってもらって解決してる。

じゃあ、自分でしたことって?アレ、まったく何も浮かばない。

マコトさんの言う通り、私はただただ幸せに包まれて、何もする事なく、今まで過ごしていたのかも。

困惑している私に、マコトさんがサラッと

「祝。斉藤の記憶を消したでしょ。」

「、、、はっ?」

「祝がラリアットして、斉藤の記憶を消し去ったでしょ。」

「、、、。えーーーー。私がですか!」

「そ、あなたが。」

何それ、意外すぎる。マコトさんは何言ってるんだろう。私が斉藤の記憶を消した?

いつもの魔法の笑顔で、まったく理解できない話をいつものめっちゃ綺麗な顔したマコトさんの口から飛び出してきた。

またもや理解できない。脳が混乱する。

いや、ダメだ、そうじゃない。考えなきゃ、思い出さなきゃ。

あの時、千花ちゃんの庭で、私は確かにラリアットを斉藤にくらわした。

斉藤は吹っ飛んで、転がって、イチイの生垣に頭から突っ込んだ。

気がついたら、マコトさんが斉藤の隣にいて、、斉藤を拘束して、、それで、その後、、。

そうだ、自分が誰だか分からない様子の斉藤を見てウソをついているのかマコトさんに尋ねた。

そしたら『さあ、どうかしらね』とマコトさんは意味深げに答えたんだ。

「あの時、私がラリアットした時、、。」

「そうよ。斉藤の記憶を消したのよ。『はふり』とは罪やけがれを清める力。斉藤が千花ちゃんや、千花ちゃんを自分の体を盾にしてまで守ろうとしたハルを襲った時、あなたは斉藤を罪深き穢れたものと認識したのでしょう。だからその罪、穢れを葬り去ろうと『はふり』の力を使って斉藤の穢れた記憶を消し去ったのね。」

「私が、消し去った、、。」

「ええ。」

思いもよらない。そんなこと想像すらしてなかった。

「じゃあ、じゃあ、私のせいで斉藤の記憶がなくなったって事ですね。そのせいで斉藤の組織を逮捕できなかったってことですね!私のせいで、、。ああーーー。もおーーー。何てことしちゃったんだろーーー。」

グチャグチャで理解が追いついていないけど、私が余計なことしなかったら千花ちゃんの安全はもっと保障されたのにと、自分が情けなくて、情けなさ過ぎて頭を抱えた。

「えー。そこ?祝、違うでしょ。祝は千花ちゃんとハルの命を守ったのよ。祝は一番やらなくてはいけないことをちゃんとしたの。『はふり』の力を使ってね。斉藤の組織の事はこっちの警察がする事なんだか良いのよ。」

「でも、でもです。」

自分のしたことが許せないでいる私に、美佐枝さんが、

「祝さんは神様の力をどうお考えですか?」

「神様の力、、ですか。」

「ええ。神様はどんな事柄でも解決してくださると?そう思っていらっしゃるの。」

「、、、。」

「祝さん。解決するのは人です。人が自分で考え行動し、解決をして道を進んで行くのです。その人々を神様は見守り手助けをしてくださる。斉藤の組織を放置していたのはこちらの警察。彼らが解決することなのですよ。」

美佐枝さんの言葉は、ストンと心に落ちてきた。出口に迷ってグルグルと回っているだけの私に、一本のまっすぐな道を示してくれたようだった。

でも、でもでもでも。自分が何者であるかも理解できていない私は情けなさすぎて、泣きたい。もー大泣きしたいよー。



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