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二十八  包み込まれる

 そうは言っても、荷物を持ち逃げした生方までが、千花ちゃんのところに現れるなど考えられない。自分の欲しい物を手にしている。取引相手の斉藤は収監された。その間に逃げてしまえば、なんの問題もないだろう。

「どうして、生方って男も千花ちゃんのところに現れると思うの?」

駒井は、私の質問に頷きながら

「祝ちゃんが疑問に思うのわかるよ。フィオさんが斉藤に襲われたのはそんな前の話じゃないんだ。」

マコトさんも頷いて、

「そうね、一年半くらいかしら?」

「そうです。さすがマコトさん。よく覚えていますね。」

「一年半!人を襲ったのに、たった一年半で務所から出てきたの!」

「祝ちゃん。せめて刑務所ってちゃんと言おうね。」

「どっちでもいいじゃん。ねえ、どうしてそんなに直ぐなの?怖い思いしてるのに、どうして!」

駒井は小さくため息をついて、

「わかるよ。被害者にしたら死ぬほど怖い思いをさせられて、たったそれだけ、って思うよね。」

「そうよ!」

「残念だけど、斉藤には傷害罪は適応されなかったんだ。斉藤は暴行罪で、収監された。最高でも二年以下の拘禁刑。傷害罪で立憲できたら十五年以下の拘禁刑まで課せられる可能性があったんだけど。」

「合成麻薬の入ってた袋もあったのに?たったそれぽっち?」

興奮している私の背中を。マコトさんがなだめるようにさすりながら、

「荷物は斉藤の物じゃないわ。それに幸いにも、警察がすぐに対応してくれたから、フィオさんに怪我もなく済んだ。傷害罪には当たらないわね。」

「そんな、、。フィオさんの心は恐怖という障害を負ったんじゃないですか!納得いかないです。」

「そうね。祝いの言う通りよ。それで、生方はどうして?」

駒井はもう一度座り直すと

「今、フィオさんはイタリアからこちらに向かっています。千花ちゃんのことを知らせたので。フィオさんは二週間前にイタリアに向かったそうです。その時、空港に向かうモノレールの駅で、男にトイレの場所を聞かれたって言うんですよ。」

「それって?えっと、どう言うこと?」

「トイレの場所を聞かれることは、特別なことじゃない。別に気にもとめずにそのままイタリアに向かったそうなんです。ただ今回の事件で、一年半前、斉藤にトイレを教えたことを思い出したと。斉藤の事件の時に警察から提示された生方の写真を見ていたから、不意に駅でトイレを聞いてきたのが生方だと思い出したそうなんです。」

「、、、え。」

「斉藤とイタリアで同じ様なことがあった後に事件に巻き込まれた。今回も生方にトイレの場所を聞かれた、そして事件が起きた。フィオさんは、生方は何かを確認しようとしたんじゃないかって言うんですよ。」

マコトさんも

「うん、そうかもしれないわね。フィオさんってハーフだけど、イタリアの血が濃い感じなの。綺麗で華やかな人。生方がフィオさんを組織の関係者かどうか確認する為に近寄ってきたとしても不思議じゃない。」

「ひどーい。千花ちゃんのお母さんを組織の人間だなんて。そんな風には見えませんよね!」

マコトさんに同意を求めたら、駒井が横から

「そんなこと言ってー。祝いちゃんフィオさん会ったことないでしょ。」

「あ、会ったことないけど、千花ちゃんのお母さんなら、絶対そうに決まってる!駒井のバーカ。」

「ちょっ、ちょっとー。僕、刑事さんで、しかも年上ね。バーカはないでしょ。」

駒井っていちいち頭に来る。マコトさんは

「祝。落ち着こう。腕だってまだ痛いんだかね。」

「だって。千花ちゃんとお母さんが可哀想、、、。」

「そうね。わかる。もしかしたら、生方の方が焦ったのかも。一年半前、麻薬を持ち逃げした。たまたまなのか、その場にいた華やかなで目立つ女性が自分の前に現れた。」

「チキン野郎なら、ビビりますね。」

「で、どうして警察も生方探しに動いたの?麻取が動くならわかるけど、コマちゃんたちが動くって、もしかして、、。」

駒井は苦笑いして

「マコトさんに隠し事できませんね。そうです、その通りです。」

私だけがわからず、置いてけぼりだった。

「何?何がその通り?」

マコトさんが私を見て

「野次馬の中に生方がいたのよ。」

「えっ。」

「そうです、マコトさんその通りです。フィオさんに連絡して、もう一度映像で確認したら、生方らしき人物が野次馬の中に写っていました。」

「やはりそうなのね。」

「それで駅からの防犯カメラもチェックしたんですが、斉藤の後を歩く生方が、しっかりと写っていました。斉藤の出所を知ったからなのか、元々千花さんの家を張っていたのかわかりませんが。経緯はともかく、千花さんの家の周辺にいたことは確かなので。麻取とは別に我々も動くことになりました。」

 声が出せなくなった。今まで経験した事もない事件が、この三日間で次々と目の前で起きている。

いかに自分がのんびり、平和に暮らしていたことを思い知らされる。

こんな腕になるほど頑張って、千花ちゃんと春吉さんを守れたんだと満足していたが、そんなことなかった。

 駒井は刑事だ。その駒井が、着替えも食事もままならないほど動かないといけない何かが、起きてるんだ。

春吉さんに言われた

『殺されるって明日お前の身に起きてもおかしくないって思えよ』

その言葉が、また思い出され、恐怖が私を包み込んでいた。


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