二十四 落ち着かない
好きになれない駒井の車で、病院に向かうことになった。外に横付けされた車の周りには、野次馬がてんこ盛りにいる。この街にまだ馴染みのない私が、パトランプが赤くクルクル回る車に乗せられたら、どう考えても連行される犯人だ。
「やっぱ、駒井の車に乗るのヤダ!」
「えーっ祝ちゃ〜ん。さっきオッケーしてくれたじゃん。」
「あんな人だかりの中、行きたくない!」
「で、でも。腕もげそうなんでしょ。ね、良い子だから。」
「もー。駒井ー!子供扱いするな!」
「あ、ごめんごめん。良い祝ちゃんだから。ね、乗って!」
本当に駒井の事は嫌い。睨む目にも力が入る。
「祝ちゃん怖い怖い。じゃあ、じゃあ、犯人に見えなければ良いでしょ!駒井に任せて。さあ、行きますよ。」
そう言うと、私の左側に立ち警察車両に向かった。と同時に大きな声で
「いや〜。ありがとうございます。おかげで犯人を捕まえられました。お嬢さん、お手柄ですよ。名誉の負傷、ちゃんと治療しましょうね。」
でっかい声で、棒読みのセリフ。わざとらしさ満点じゃん。マコトさんが痛た右腕の肩の辺りを野次馬たちから守るように、優しく抑えてくれたのが、温かくって気持ちよかった。その事だけが今の私には救い。
車に乗り込み、外を見ると、夢ちゃんが泣きながら立っていた。右腕は本当に痛かったけど、満面の笑顔でサムアップして、千花ちゃんの無事を伝えた。私の横でマコトさんもサムアップしてくれている。きっと夢ちゃんに伝わったよね。
病院は警察病院。
「やっぱり犯人扱いじゃん。」
車椅子に乗せられ救命救急センターに運ばれた。先に運ばれてきた千花ちゃんは点滴を、春吉さんは、腕の治療を受けている。痛いんだろうな、
「うーーー。も、もうちょっと、優しくしてよー。」
あの春吉さんが弱音を吐くなんて。マスク越しだけど美人の女医さんが
「これくらいで、騒がない。こんなの舐めときゃ治る!」
アレ、どっかで聞いたセリフ。女春吉だなって思ってたら、マコトさんが、
「ハル。お姉ちゃんの前ではかたなしね。」
って
「えー。この綺麗なお医者さん。ハルさんのお姉さんなんですか?」
「ふふ、そうよ。ハルの実のお姉様。」
「へ〜。あんなに綺麗なのに?」
春吉さんが、痛みの八つ当たりみたいに大きな声で
「祝!なんだよその疑問符はーー。痛ってーーーー。」
「だってー。」
美人の女医さんは、その通りと笑って、
「ハル、うるさい!ここは病院だよ。美人の私とハルが兄弟なんて、私だってびっくりだよ。で、マコトさん、その子は?」
「うちの新人。祝ちゃん。」
「祝ちゃんか。よろしくね。春吉の姉の夏乃です。」
「祝です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「ハルがこんなんで、ごめんね〜。世話がかかるでしょ。」
「いえ、私の方がご迷惑掛けてます。」
車椅子に乗ったままで頭を下げた。
「こんなってなんだよ。俺が祝の世話してやってんだぞー。」
「こんな怪我しといて何言ってんのよ。」
春吉さんの腕は、縫合が必要なほどの傷だった。それなのに、平気な顔して、千花ちゃんを守っていた。あの時の春吉さんを思い出してまた泣きそうになっていたのに、駒井が。
「本当っすよ。ハルさんがしっかりしてないから、祝ちゃんが、一人で頑張ってラリ、ラリアットを、ククク。」
「あー。駒井ー。」
「ごめんごめん。シー、シー。ね。」
駒井を睨んでたら、夏乃さんが
「何、何、駒井警部補。祝ちゃん、タイプなの〜。」
「違いますよ。僕は夏乃さん、一筋ですから。」
そんな駒井に、春吉さんが
「コマちゃんの見る目も、大したことねーなー。姉ちゃんよりも祝の方が素直で可愛いぞー。」
そういった春吉さんに、ヤバ、ドキッとした。夏乃さんは私に、
「ハルをちゃちゃっと済ませるから、少し待っててね。」
ちゃちゃってなんだよ!って春吉さんは甘える様に言っている。その腕を治療している夏乃さんの顔は、春吉さんが無事でよかったと、ホッとしているように見えた。
待っている間、ぐるっと見回したが犯人の姿はない。駒井に
「犯人は?」
と尋ねると、夏乃さんが、
「あいつは、CT。ふん〜犯人か。祝ちゃんがあいつを倒したんだね。やるじゃん。」
こちらを見てニヤッとした。笑った顔は春吉さんにどことなく似ていて、褒められると、なんだか誇らしい。
「そうなんですよ。ラリアットで!」
駒井のニヤつき顔はめっちゃ腹が立つ。
「あんなデカいヤツをラリアットで倒したの!その腕、打撲で済んでると良いけど。」
デカいヤツって、あの綺麗な顔には似合わないフレーズ。やっぱり春吉さんのお姉なんだ。
春吉さんの治療は意外とかかった。腕の縫合はすぐだったが、状況から上半身のレントゲン、CTが必要だそうだ。春吉さんが検査に言っている間に夏乃さんが腕を診てくれた。シャツの右腕は切れていたから、看護師さんが
「シャツの右袖、もったい無いけど、切っちゃいますね。」
リホームできる様にって、片口から綺麗に手際よく右袖を取り除いてくれた。現れた右腕は、警察官でこういった傷を見慣れているであろう駒井を驚かせるほど赤紫色に変色し、腫れ上がっている。
「内出血が酷いね。相手が大男だったし。それにしても、どんだけのスピードでぶつかったんだ。バイク事故で怪我したのとおんなじ破壊力だよ。指曲げられる?」
「はい。痛いけど、全部動きます。」
正直、自分でもこんなになってるとは驚いた。赤紫に腫れ上がった腕を見たら、急に痛みが増してきた。こんなになっちゃたけど、春吉さんと千花ちゃんを守ってくれた右腕に感謝もした。駒井は私の右腕をすごく神妙な顔をして見ながら、
「祝ちゃん。こんなに頑張ってくれたんだ。本当に腕もげそうだったんだね。それなのに、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
私を見た駒井の目には涙も浮かんでた。
「祝ちゃん。君はスゴイよ。こんなに頑張って二人を守ったんだね。」
嬉しいけど、ちょっと気持ち悪くもあった。だから、
「わかればよろしい。でもそんな顔しても貸し百、負けてやんないからね。」
夏乃さんは
「貸し百!良いね〜。祝ちゃん、しっかり返してもらいなよ。」
だって。指も動くけど、酷い内出血の為、私もMRIを撮ることになった。
ただ、夏乃さんも気がついていない様だったけど、私の右肩から上腕にかけて、痛みと内出血が和らいで来ている。
マコトさんが抱きかかえてくれた時に温かいと感じたその部分が。そのことに胸がザワザワして落ち着かない。




