二十三 駒井刑事
春吉さんと千花ちゃんが救急搬送され、千花ちゃんの庭に、警察と鑑識、それとマコトさんと私が残された。
警察関係者は時間が経つほどに増えた。私だって腕がもげるほど痛かったけど
「あなたは少し残ってください。」
まるで私は犯人かってほど怖い顔で睨む警察官にそう言われた。
「私だって、病院に行きたいですー。」
マコトさんに駄々をこねたが、
「後で連れっててあげるから、少し我慢ね。」
マコトさんは私をなだめるように優しくそう言ったけど、納得できない。
ひっぱり出された大男は、腕に刺さった枝を救急隊に処置されていたが、その様子を見ていた私服の警官がスマホを耳に当てたまま、私を呆れた顔で見ている。
「マコトさん。私、あのおまわりさん嫌いです。」
「うん?おまわりさん?」
「あの、スマホ耳に当ててる。私を軽蔑した目で見てる。感じワル。」
「ああ、駒井ちゃんね。」
「マコトさん、お知り合いですか?」
「まあね。」
その感じ悪い駒井がスマホを切ると私の方に近づいって
「お嬢さん、ラリアットは得意技なの?」
「ふん。お嬢さんじゃありません。祝です。」
「祝、、、。珍しい名字だね?」
「名前です。新情 祝。」
「なるほど。では、えっと、祝さんで良いかな?」
「良いですよ。」
腕も痛いのに、犯人扱いにイラついて、ぶっきらぼうに答えた。
「プロレス好きなの?」
何よ!駒井ーー!なんで半笑いで聞くんだ。
「好きじゃだめですか。」
「ククク、だめじゃないよ。ククク。」
腹立つ!とうとう我慢できませんって感じで笑い出した。
「なんですか!何がおかしいんですか!」
「だって、ここで、一発ラリアットー。ってブッ、ハハハハー。」
目の前で、警察官駒井がお腹を抱えて笑い出した。腹立つ。めっちゃ睨んでたら、マコトさんが両手で私の頬を挟んで、
「祝。女の子がそんな顔しないの。」
って言いながら、笑ってる。
「もーーー。マコトさんまで笑わないでください。」
「ごめん、ごめん。祝は一人で頑張ったんだもんね。」
膨れっ面の私の頭をポンポンとしてくれたけど、駒井の野郎は、
「で、でも、こ、ここで一発ラリアットーー。て、ブッアハハハハハ。」
「何が悪いんですか!あんな大男、千花ちゃんもハルさんも倒れてて、私しかいなかったんですから、気合い入れないと立ち向かえないでしょ!そんなに笑わなくてもーーー!」
悔しくなって、泣いた。泣きながら駒井に訴えてやった。
「ああ、ごめんなさい。ごめんなさい。」
「あー。駒井ちゃん酷〜い。女の子泣かせたー。」
マコトさんが、周りの警官たちに聞こえるように大きな声で言ったので、その場にいた警察関係者がいっせいに振り返った。駒井はさらに慌てて、
「マ、マコトさん。そんな大きな声で、シー、シー。祝ちゃん、本当にごめんなさい。あんな大男やっつけるなんて、すごいメンタルなのかと、、、。違うね、そう、違う違う。祝ちゃんは普通の女の子で、必死になるために、そ、その、、、い、一発、、、ハハハハ。」
まだ笑ってる。反省のない奴。
「マコトさん。こいつもラリアット喰らわせわ良いですか!」
本気で言ったらやっとアホ駒井にも伝わったらしく、
「もう言わない。絶対に言いません。」
そんなこといてもぜんぜん納得出来なくて駒井を睨んでいたら、マコトさんが
「じゃあ、貸ね。駒井ちゃん、祝に貸し一つよ!」
やだ、そんなんじゃ足りない!
「貸し、百です!そうじゃなきゃ、市民をバカにしたって、所長さんにもマスコミにも言いつけてやる!」
「オッケー、オッケー。貸し百ね。百、百。もう絶対に約束します。」
駒井は、自分の口にチャックを占めるような仕草をしたけど、信用なんて全くしてない。してないけど大好きなマコトさんが抱きしめてくれたから、この場は納めることにした。
でも、どうしてラリアットをしたのがわかったのか、マコトさんが聞いてくれた。
「被害者の千花さんが、部屋の中から緊急通報してくれたんですが、男から取り上げられそうになって、スマホを窓から投げたんじゃないですかね。ずっと回線は繋がっていたので、この場所も特定出来たし、祝ちゃんの活躍も、聞こえてて。クク。」
「あ、笑ってる!」
「笑ってない、笑ってないから。あ、そうだ、録音してるので聞いてみますか?」
一般人にそんな事して良いのか不思議だったが、
「わかってると思うけど、マコトさんだから特別。」
マコトさんと一緒に、駒井の持っているスマホに耳を近づけると、確かに遠くでラリアットーって叫んでる。
「それで?祝を今、連れて行くの?」
マコトさんがチラリと駒井を見たから、
「マコトさーん。腕痛くてもげそうですー。」
駒井は困ったなーって顔してから。
「わかりました。こんだけ荒らされる程のことが起きたので、お話聞かない訳には行きませんが、とりあえず警察の車で病院に向かいます。」
私も駒井をチラリと見て、マコトさんに
「腕が途中でちぎれちゃうと困るから、私も救急車が良いです。もう一台救急車止まってる、あれに乗りたいですー。」
駒井は、頭をかき、私の顔の前で両手を合わせると、
「祝ちゃん、許して。あれは、大男が乗るから。」
「なんで!なんで犯人の方が救急車に乗れて、私は連行されるみたいに駒井の車なのよ!」
「チョ、ちょっとー。呼び捨てって。僕、一応刑事さんだし、祝ちゃんより年上なんだから、駒井さんて、ね。呼ぼうね。」
「ふん。所長さんどこかなあ〜。」
「あーーー。駒井でいいです。」
「じゃあ、救急車!」
そう言って救急車を指差したが、
「ごめんごめん。あれは乗れないの。もう一台呼ぶから、許して。」
「救急車をタクシーみたいに呼ぶなんて、駒井ヒドーい。」
「それは、祝ちゃんが言うから。」
「犯人を駒井の車に乗せたらいいじゃん!」
「そう言う訳にはいかないんだよ。」
「どうして。そんなに重症じゃないでしょ!」
犯人の大男を見てそう言ったが、駒井は
「ラリアットの傷はね。」
「あー。マコトさん、駒井まだ言う!」
「違う違う、わかりやすく言っただけ。傷は大したことなさそうなんだけど、どうも記憶が曖昧なんだよ。警察車両に載せるのはやめた方がいいんじゃないかって。僕が言ったんじゃないよ。救急隊の人たちの意見だから。ね。そっちのプロの意見だから、尊重しないと。ね。」
「え。頭を打ったって事?」
「頭に大きな傷はなさそうだけど、まあ〜頭だから。」
「ウソかもしれないじゃん。」
「確かにね。だから警官が同乗して救急車でね。もう良いかな。出発すると思うから、ね。ね。」
「、、、ふん、良いよ。」
「ありがとう、わかってくれて。じゃあ祝ちゃんのことは、僕が送るから、ちょっと待ってて。」
駒井は、そう言って救急車のところに走っていった。
確かに、記憶が曖昧に見えたけど、脳震とうで一時的なんじゃないかと思える。
でもマコトさんの
「これで、千花ちゃんもお母さんも安心できるはね。」
そのつぶやきが気になって仕方なかった。




