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十五  隠し味

 これからどうするのだろう。初めての事ばかりでわからなけど、簡単ではないことだけはわかった。春吉さんの

『殺されるって、あしたお前の身に起きてもおかしくないんだぞ』

その言葉が思い出されて、ゾッとした。

 奏さんは春吉さんが教えてくれた、あの部屋に泊まることになった。

クローゼットの中には一式お泊まりセットが入っていた。そして、マコトさんの部屋のクローゼとが移動しているに違いない。

「祝はどうする?あなたは自分のアパートに帰っても良いわよ。」

そんな事言われたって、なんだか怖くて帰れない。

「私もここにいます。」

「一人になるのが怖いんでしょ。」

もーバレバレだ。

「はい。」

「あら、素直ね。」

隠せるほど余裕はない。

 マコトさんは、奏さんを部屋に案内して、しばらく休みなさいと言った。奏さんは素直にそれに従った。眠れない日が続いていたのだろう。無理もない。

「それで、これからどうするんですか。」

「心配?」

「そりゃ、心配です。私、初めに話を聞いた時、もしかしたら親子以上の感情を持っていたのは父親の方なのかと。」

「初めは。」

「はい。よくある話じゃないですか。」

「よくあるね〜。」

「すみません。先入観でものを考えすぎでした。」

「そうね。危険な先入観だわ。」

「はい。すみません。でも、話を聞いているうちに、そうじゃないとわかりました。由美子さんって根に持ってるんですよね。」

「んー。そうね。」

「違うんですか?」

「大きくは違わない。」

「大きくは、ですか。」

「調べてみないと、なんともだけど。多分、寂しいだけなのよ。」

「だっ、だけって!」

マコトさんは、祝は真っ直ぐねって笑って

「由美子さんの児相に、建人さんが現れて、福子さんの生活も落ち着いて一緒に暮らせるようになった。普通は大好きなお母さんを取られたって思うのかもしれないけど。由美子さんにとっても建人さんは大きな安らぎだったんじゃないかしら。」

「安らぎ?」

「そう。奏さんが生まれた時、福子さんと同じことをすれば、建人さんの安らぎを自分もこのまま、ずっともらえるって思ったんでしょうね。」

「ずっと。」

「だから福子さんが亡くなった時、自分が代わりになると。」

「そっか、安らぎがなくならないように、、。でも、由美子さん、建人さんの子供なんだから、たとえ福子さんが亡くなっても親子の関係は変わらないんですよね。由美子さんが求めてる安らぎだって、変わらないんじゃないんですか?」

「変わらないわね。んー、由美子さんの私が代わりにって発言に、大人が考えるような意味は無かったのかも。」

「あ。」

「ただ、由美子さんは自分の感覚と違って、その姿はいつの間にか大人になっていた。建人さんからしたら大人になった由美子さんの口から、これからは私がお母さんの代わりって言われたのは、妻の代わりをすると言われたようで、怖かった。実際、そんなふうに振る舞っていた様だし。建人さんにとって由美子さんはあくまでも子供。それで、だんだんと距離を置くよになった。由美子さんもその距離を感じたんでしょ。血がつながらない由美子さんは見捨てられないように尚更必死になって、」

「それでストーカーに。」

「多分ね。このケースに限っては、もっと早くちゃんと話していれば、こんなにこじれなかったのかも。」

マコトさんは何かを噛み締めるよに話していた。

 程なくスマホがなって

「了解。そうね。由美子の寝ぐらを確認して。」

呼び捨てに、寝ぐらって。急にマコトさんが仕事人に見えた。

仕事人マコトは私を見て

「祝、仕事してみる?」

突然すぎる。怖くてアパートにも帰れない私に。大体、Pを知りたくてウロチョロしてただけの私に、雇ってやる、ここに住め!ってだけども急展開なのに、こんなストーカー女の案件でいきなり仕事するかって、突然にも程がある。

「マコトさん!私、まだ素人ですよ!」

「アラ、ここで働くことは決めたのね。」

「えっと、それは、」

「じゃあ、仕事してみよう。」

「無理です!」

 ってそんなことが通用する人じゃ無かった。またもや、私に構わず話は進んで行く。

「祝のアパートを明日貸しなさい。そこにあなたが由美子を連れて来て。」

「ち、ちょっと待ってください!ストーカーを私のアパートに近づけるなんて、そんなの怖すぎます。これから怖くて住めなくなるじゃないですか!」

「まだ、あのボロアパートに住むきなの?」

「確かにボロアパートですけど。私の家、、、え、どうしてボロって知ってるんですか!」

いやいやそこじゃない。

「もうここに住むんだから、良いんじゃないの?」

「え、いや、あっと、そうか、、、。でも仕事って。」

「大丈夫よ。祝を怖い目に合わせるようなことにならないから。」

マコトさんにそう言われると、すごく安心できた。

 夕食は、私がカレーを作って三人で食べた。ここに家賃も光熱費もタダで住まわせてもらう条件だから。途中でスマホが鳴って、

「お疲れ様。祝がカレー作ったから帰ってらしゃい。」

春吉さんからだ。程なくバイクの音がして春吉さんが姿を現す。

「お。祝のカレーはどんなかな〜。」

ニヤニヤして部屋に入ってきた春吉さんに

「ハルさん、ただいまと、初めましてでしょ!それから手を洗ってゴロゴロして来て!」

私は春吉さんの顔を見てホッとしたからか、軽くちを叩いた。

「あら〜、どういうこと?私の知らない間にすっかり仲良しね。」

「そんなんじゃないっすよ。祝が図々し奴ってだけ。」

「ハルさんほどじゃないですけどね。」

(なんだか、ずっと前からここにいるみたい。)

奏さんの話を聞いてあんなに怖いと思ったのに、落ち着いて、なんなら楽しくなっていた。

「奏さんですね。春吉と申します。とりあえず、飯食ってからで良いですか?腹ペコで!」

確かに春吉さんさんが口にしたのは、朝、チルでのココアだけだっただろうからお腹も空くよね。ご飯を大盛りにしてカレーをよそると

「おー。美味そうー。って、カレーで失敗するやつなんていないか。」

そう言われても頭に来るより、無事に帰って来て、美味しそうにカレーにがっついている春吉さんにホッとした。

「うん!美味いじゃん!祝、これめっちゃ好みだ!美味い!」

「へへへ。隠し味なんだと思います。」

「祝、わかるわけないだろ。隠し味は隠れてなんぼだ!わかったら隠し味にならないだろ!」

「何、その屁理屈。ただわからないだけでしょ。ふん!」

「俺は食べる専門。作らないんだから、隠れたまんまで問題なし!」

春吉さんとの掛け合いに、奏さんが声を出して笑った。

「ごめんなさい。こんなに楽しい食事は久しぶりで。ふふふ。祝さん本当に美味しいです。私には隠し味教えてください。」

奏さんて、笑うと本当に可愛い。よほど緊張していたんだ。

「もちろん。奏さんだけに教えてあげますね〜。」

「ありがとうございます。」

私は冷蔵庫に行き、中からコーヒー牛乳を取り出して

「これです!ほろ苦くて、でもまろやか。カレーをさらに美味しくしてくれるんですよ!」

「へー。すごい。今度私も入れてみます!」

奏さんがそう言うと、冷蔵庫に背中を見せていた春吉さんが振り返って、

「おい!それ俺のコーヒー牛乳だぞ!」

「ココア飲んだり、コーヒー牛乳飲んだりハルさんて、ほんと子供ですね!」

「ふざけんなよ、人のコーヒー牛乳使っといて!」

春吉さんのおかげで、私にとっても久しぶりに楽しい夕食になった。


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