第五話 今の戦い
地面に展開された漆黒の魔法陣に飲み込まれ――次の瞬間、俺たちは暗くて広大な洞窟の中に居た。
上層とは比較にならない程広い、巨人が探索でもするのかと言いたくなるような洞窟――否、ダンジョン。
ここが、今俺たちが探索している場所――第892階層なのだ。
「今の内に準備するか」
一部例外を除いて、侵入者が入るまで、その階層には魔物が一切湧かないという特性がある。
故に、たった今、ここ第892階層に敵となる魔物の数はゼロ。
だが、そう遠くない内に、壁や地面から産み出される。
「【亜空よ、開け】」
まず、《空間収納》という収納系魔法を使って、中から5本の剣を取り出す。
この時、魔法名である《空間収納》を唱えていないが――ぶっちゃけこれは気分次第だ。唱える時もあれば、唱えない時もあるって感じ。
ただ、魔法名を唱えた方が気持ち綺麗に魔法陣を展開できるので、余裕がある時は基本唱えている。
そうして取り出した5本の剣の内、1本の禍々しいオーラを出す漆黒の剣は右手に持ち、残り4本は宙に浮かせ、まるで自身を守るように配置する。
「よし……【この身の枷たる傷を癒せ。一刻でも多く闘い抜き、果てへと至らん為に――《常闘不堕》】」
魔物が産み落とされる気配を感知しながらも、俺は冷静に4つ目の固有魔法――《常闘不堕》を発動させる。
これは自己回復に特化した魔法で、発動中は欠損すらも自動で即座に治癒してくれる。ただし、他者には行使できない為、この回復能力をロボさんたちに与えることは出来ない。
「「「ガルゥウウウ!!!!」」」
直後、狼の遠吠えのような声が響き渡る。
前方を見てみると、そこには体長7メートル程の、頭が3つある犬――ケルベロスが、群れを成してそこに居た。
戦うだけなら、《屍山血河》も発動させているが――あれは今の俺でも、あの魔法のデメリットである判断能力の欠如――狂戦士化を受けてしまう為、下層へと続く道を探している時には、あまり使いたくない。
使うのは、魔物に取り囲まれてキツくなった時だけだ。
「さあ、やるか。【強化せよ】」
俺は単純な強化魔法――《身体強化》で身体能力を上げると、突撃した。
そして、上へ跳ぶと、漆黒の剣――《世界を侵す呪剣》で、ケルベロスの頭部を斬り裂く。
「ギギャアア!!!」
大げさかと言いたくなるほどの断末魔を上げながら、斬られたケルベロスはのた打ち回る。
そして、俺の周りを浮遊する白金の剣――《浮遊する聖剣》を4本、追撃に向かわせた。
「ギャアアァ!!!」
急所である頭部を執拗に攻撃され、ケルベロスは為す術も無く斃れ伏す。
刹那、両脇から2頭のケルベロスが牙をむき出しにして襲ってくる――が。
「【■■■■■■■■■■■■】――死ね!」
独自の言語――言うなれば、龍言語で紡がれたアルフィアの魔法が産声を上げ、右のケルベロスを焼き尽くす。
俺が、余波ですら熱いと思えるようなそれを生で喰らったケルベロスが耐えられる筈も無く、真っ黒々のボロ雑巾になって、崩れ落ちた。
「キュキュ!」
時を同じくして、右側ではスライム形態のルルムが、《強酸生成》の技能で生み出した液体を、ビームのように放出して、ケルベロスを後ろに仰け反らせていた。
「【壁よ】」
俺はその場に小さな《結界》を展開すると、それを蹴り上げ、ルルムのお陰で一瞬無防備となったケルベロスに肉薄し――頭部を纏めて斬り落とした。
「ふぅ やっぱこれは偉大だなぁ」
そう言って、俺は《世界を侵す呪剣》に付着した血を振り払う。
割と瞬殺してしまったが、ケルベロスは結構強い。レベルは1200前後、身体能力値は平均13000もある。
そんな、勝てなくはないけど一方的にボコれる程では無いケルベロスを安々と倒せたのは、この《世界を侵す呪剣》によるものが大きい。
自身の身体能力を可視化する……という能力を参考にして創った魔法――《鑑定》で確認してみると、こんなのが脳内に表示される。
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【名前】世界を侵す呪剣
【等級】神話級
・呪武具であり、装備時は常に体力と魔力を消費し続け、更に強力な精神汚染を受ける。
・装備時は常に筋力、防護、俊敏が3倍になる。
・斬撃時、対象に精神汚染を与える。
・24時間に1回、死の斬撃を放つことができる。
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とまあ、こんな感じだ。
デメリットはかなり大きいが、それさえ何とか出来れば、身体能力を3倍に引き上げられる為、かなり重宝している。
因みに、身体能力を引き上げる系の武具は結構あるが……そういう系の効果は重複してくれないんだよね。
残念。
だが、それを可能にする数少ない武具が、今俺の周りで円を描くように浮いている、《浮遊する聖剣》なのだ。
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【名前】浮遊する聖剣
【等級】幻想級
・アンデッド系に対する威力増強。
・剣技を学習させ、動かす自動形態と、任意で動かす手動形態をいつでも切り替えられる。
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剣自体の性能を見れば、もっと良い物が沢山あるが――やはり、デメリット無しで使えるのは結構大きい。
あと、さっきから表示されている等級――これは、物の性能を表しているようだ。
現状判明しているだけでも、上から順に、
《神話級》
《幻想級》
《伝説級》
《叙事級》
《秘宝級》
《遺物級》
《希少級》
《一般級》
……と、なっている。
《神話級》より上があるかは分からないけど……多分この感じからしてあるんじゃないかな〜と思っている。
「ご主人様よ。どうかしたのか?」
「いや、何でも無い」
おっと。この修羅の世界でぼーっとしてしまうとは。気が抜けすぎだろ俺……
さっき、今までの軌跡に思いを馳せたからだろうか。
「今日は早めに終わらせた方がいいかな」
そう言って、俺は奥の方から突撃してくる5頭のケルベロスを見やる。
俺は皆に視線で「後ろの警戒を頼んだ」と告げると、即座に詠唱を始める。
「【幻想へと堕ちろ、永劫に。我が幻想叶えし贄となれ――《幻想世界》】」
そして、彼我の距離が1メートルにまで縮んだところで、1つ目の固有魔法が発動する。
直後、5頭のケルベロスが唐突に動きを止めたかと思えば――バタリバタリと地面に倒れ込んだ。
「おおう。相変わらずえげつないのう。それ」
「まあ、決まれば必殺みたいな感じだからね。これ」
そう言って、俺は悠々と奴らへ歩み寄ると、次々と惨殺していく。
《幻想世界》は対象が望む世界を夢として見せる魔法で――こいつらの場合は、恐らく俺たちを殺戮している光景だと思う。
詠唱の短縮が出来ないという欠点があれど、それが気にならないぐらい強いから、ほいほい使っちゃうんだよね。固有魔法。
「さて……と。一先ず周辺のは片付いたかな?」
そう言って、俺は周囲の気配を探る。
……うん。この辺は大丈夫そうだな。
「それじゃ、探索するか。前回右をやったから、次は左――!?」
言葉を途中で切り上げた俺は、左奥を見やる。
「空間の歪み……? すまん、先に寄るところが出来た!」
そう言って、俺は皆を置いて駆け出した。
「こんなの初めてだぞ……」
だが、あの感覚。間違いない。
何者かがこの階層に転移したな?
「魔力的に、ダンジョンによるもの……あ!」
そして、俺は見つけた。
2頭のケルベロスが牙を剝き出しにする目の前で、地面に倒れ伏す人間の姿を――
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