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31 .道化

「このパン、本当に美味しいですね」


「でしょ。僕は、朝食に必ず用意してもらうんだ」


「私もお願いしてもいいんでしょうか?」


「みんな、喜ぶと思うよ」


ほのぼの会話をしていても、テーブルの半分に漂っているギスギスした空気は伝わってくる。


アイビーはサラダを食べながら、まだ1口も口に運んでいないイエーナに話しかけた。


「イエーナさんは食べないんですか?」


「……後で食べるよ」


「この後は、街に遊びに行きますよ。今食べないと、お昼まで何も食べられませんよ」


「……僕は行かないよ」


「どうしてですか? 私たちのことが嫌いですか?」


じーっと凝視していると、イエーナは開きかけた口を閉じた。

こっちを見ていないが、圧は感じているようだ。


「私、思ったんですけど、イエーナさんって本当はレガッタ様のことが好きなんですよね? 友達の好きじゃなくて恋愛の意味で」


「は?」

「え?」


カディスとレガッタに勢いよく顔を向けられたが、アイビーの視線は耳が赤くなったイエーナを捉えたままだ。


こんなにも分かりやすいのに、どうして今まで隠せていたんだろうと思う。

だって、後ろに控えているナンキンが、目も唇も硬く閉じていて不自然すぎるのだ。

本人はきっとバレないようにと必死なのだろうが、逆に怪しさ満点で肯定しているのと変わらない。


「……好きじゃないよ」


「そういう嘘はいいんです。それに、イエーナさんはレガッタ様を可愛いと思っているって言っていたじゃないですか」


「アイビー、それは聞き間違いですわよ。イエーナは私を褒めませんのよ」


「ううん、レガッタ。そういえば『可愛い』って言ってたよ。僕も聞いたから」


「まぁ!」


さっきよりも赤くなった耳が熱いのだろう。

イエーナは、頭を抱えるように耳を隠して体を丸めている。


「言ってない! 言ってない! 私は言ってない!」


「どうして嘘ばっかりつくんですか? あ! もしかして、好きな子ほど虐めたいとかですか? あれはお勧めしませんよ」


「僕も、それはどうかと思うよ。やっぱり優しい人に惹かれるものだと思うから」


「そうですわね。私は優しい方が好きですわ」


イエーナが、ブルブルと震えている。

1度体が大きく揺れたと思ったら、突然跳ぶように立ち上がり、ドアに向かって駆け出した。


「チャイブ!」


アイビーが名前を呼んだ時には、イエーナはもうチャイブに捕まっていて、左腕を腰に回され、右手で顔を固定されていた。

もちろんチャイブのお腹に背中を合わせるように捕らえられているので、イエーナの情けない顔は丸見えだ。


「はな、はなせ!」


「申し訳ございません。もう本当に面倒臭いので、本音で話してしまいましょう」


「なっ! 面倒臭いって何!? おかしいだろ!」


「面倒臭いですよ。たった1つの嘘を守るために、愚かな行動を重ねているんですから」


図星だったのか、イエーナは唇を噛んで眉間に皺を寄せた。


「チャイブ、何か知っているの?」


「ただの予想ですよ。イエーナ公爵令息の視線は、いつもレガッタ殿下を追っていましたので分かりやすかったですから」


「まぁ! イエーナってば、本当に私のことが好きなのですね。でしたら、どうして色んな女の子にフラフラしましたの?」


アイビーたちはソファから立ち上がり、イエーナを囲うように並んだ。


イエーナが口を開こうとしないので、代わりにアイビーが思い付いたことを伝える。


「これもどうかと思う作戦ですが、まさか嫉妬してほしかったんじゃないでしょうか?」


「嫉妬してもらうよりも、告白する方が先なんじゃない?」


「私もそう思いますわ」


「違う、違う、違う。私は婚約を破棄して、夢を叶えるんだ」


顔を横に振って強く否定しようとしたんだろうが、チャイブが顔を固定しているため緩く髪の毛が揺れただけだった。


「夢って、動物の医者だっけ? 好きなレガッタより夢を取ったってこと?」


「それは酷いですわ。宰相のことは、私のせいではありませんのよ。私に冷たく当たる必要はありませんわ」


「レガッタ様と婚約していても、夢を叶える方法はありますもんね」


アイビーたちはイエーナの側にもう1歩近づき、目をガン開きにしてイエーナを見つめる。


3人から圧が強い視線を放たれ、イエーナは居心地が悪そうに「うっ」と声を漏らした。


「あの、私から説明をさせてください」


そろりと後ろに気配を感じ、振り返ると、ナンキンが両手を組んで思い悩むように眉尻を下げていた。


「ナンキン! ダメだ!」


カディスが、乾いた音が鳴るほどの強さでイエーナの口に手を当てた。


痛かったのだろう。

イエーナのくぐもった声がかすかに漏れている。


ナンキンはオロオロしているが、意を決したように唾を飲み込んで組んでいた手を唇に持っていく。

まるで神にでも祈っているかのようだ。


笑顔で話しをするように促すカディスは、神というよりおどろおどろしい人形の方が正しいのに。


「おぼっちゃまは、レガッタ殿下の肖像画を隠し持っているほど、レガッタ殿下のことを慕われております」


「まぁ!」


両手で口元を隠していても、声は盛大に出てしまうレガッタである。


モゴモゴと聞こえる雑音は、きっとイエーナが何か叫んでいるんだろう。

カディスに口を押さえられているのだから、無駄な抵抗だ。


「それなのに女の子と仲良くしている理由は、レガッタ殿下のためです」


「どうしてですの? イエーナが私を大切にしませんから、周りが調子に乗っていて鬱陶しいんですのよ」


「それは、レガッタ殿下がラシャン公子様に想いを寄せられているからと、ご自身が浮気をして婚約破棄にもっていこうとされているんです」


——え? レガッタ様って、お兄様が好きだったの? 全く分からなかったわ。






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