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30 .言い合い

カディスと共にレガッタを迎えに行き、その足でイエーナが滞在している部屋を訪れた。


ちょうど朝食が運ばれてきたので、時間ピッタリに来られて少し焦っていた心が軽くなった。

朝食の量を不審に思ったイエーナに逃げられてしまったら、イエーナの部屋に来た意味がなくなってしまう。

だから、朝食より早くか、朝食と同時に訪ねたかったのだ。


「この部屋で食べますの? お兄様の部屋ではありませんし、アイビーの部屋ですの?」


今日から思う存分遊べると胸を弾ませているレガッタは、朝からスキップをしそうなほど機嫌がいい。


「殿下、すぐに支度を終わらせます」


「うん、大丈夫だよ。ズカズカ入っていっちゃって」


カディスの言葉に首を傾げていたレガッタだったが、ドアが開いて見えた人物に目を見開かせカディスに詰め寄った。


「お兄様、どういうことですの? ナンキンが出てきたってことは、この部屋はイ――


「ナンキン、どうしたの? 誰が来たの?」


イエーナの従者であるナンキン・ジョーンミエルがドア付近でまごまごしていたからか、イエーナが顔を出した。

イエーナのレモンイエローの瞳がゆっくりと左から右に動き、廊下にいる人たちを隈なく見ている。

確認が終わったっぽいイエーナは何も言わず、すすすと後退し、姿を消した。


「ナンキン。イエーナと一緒に、僕たちもイエーナの部屋で朝食をとるから」


「は、はい。かしこまりました、殿下」


動揺を隠せずにいるナンキンのシトラス色の瞳は、お辞儀の際に隠れてしまった。

あんなにも焦点がブレていそうなほど狼狽えている瞳を、初めて見たかもしれない。

サラッとしたパンプキン色の髪は、ナンキンが顔を上げると綺麗に元の位置に戻った。


ナンキンが大きく開けたドアから部屋に入ると、イエーナは顔を隠すようにクッションに顔を埋めてソファに体を預けていた。


「丁度いいや。動かないって駄々を捏ねられても鬱陶しいから、ソファテーブルに準備して」


「鬱陶しいなら、どっか行ってよー」


「イエーナさ、これを機に言葉遣い戻しなよ。それ、許されるの学生の間だけって分かってるんだから」


イエーナの隣に腰を下ろすカディスを見ながら、アイビーは向かい側のソファに座った。


「そうなんですか? でも、お兄様は言葉を崩されないですよね?」


「ラシャンは、『僕は殿下の友達ではなく臣下ですので』って、頑なに崩さないだけだよ」


最後に部屋に入ってきたレガッタは、唇を尖らせながらもアイビーの隣に腰をかけている。


「うん? 今の言い方ですと、お兄様には言葉を崩してほしいのに、イエーナさんには言葉を正してほしいんですか?」


「そういう意味じゃなくて、そもそもイエーナは誰に対しても気軽に話すような性格じゃないんだよ」


「え? 嘘ですよね?」


「嘘だよ。私は女の子となら誰とでも仲良くなれる天才だからね」


口を挟んできたのに顔を見せないイエーナの頭を、カディスが横から殴った。

パーではなくグーで打ったのだ。


鈍い音が聞こえ、イエーナは両手で頭を押さえた。

その際に、クッションは床に落ちている。


「いった! 本気で殴った! 信じらんない! 痛い!」


「うるさいよ。イエーナがレガッタを悲しませたこと、僕は結構怒っているんだよ。それだけで済んで感謝してほしいくらいだよ」


「それは……でも、それなら……破棄すればいいんだよ……」


「そう思うなら、きちんと抗議してくださいまし! 私だけでは聞く耳を持ってくださらないんですよ!」


レガッタが、前のめりになりながらローテーブルを両手で叩いた。

準備されている食器類が、ガチャンと音を立てる。


「私はちゃんとしてるよ! 何のた……っ、私からも父には話してる。文句を言うだけのレガッタと一緒にしないでよ」


「私が文句を言うのは、全てイエーナのせいですわよ!」


「知ってるよ! でも、それだけじゃないか!」


ヒートアップしそうな言い合いを止めるために、アイビーはわざと大きな音を鳴らすように手を叩いた。


「朝ご飯も美味しそうです。早速いただきませんか?」


「うん、食べよう。アイビー、この白いパンはスープによく合うよ」


トゲトゲしい空気を払拭するように柔らかく話すと、意図に気づいただろうカディスが優しく言いながらアイビーのお皿にパンを置いてくれた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


「ほら、レガッタ様も食べましょう」


腰を上げているレガッタの腕を掴んで座るように促すと、レガッタは唇を引き結びながら大人しく腰を下ろしてくれた。

軽くレガッタの腕を叩き、顔を背けているイエーナを見やる。


——さっきのイエーナさんの言葉が引っかかるんだけどな。どうしてあんなこと言ったんだろう?


カディスに視線を移すと、肩をすくめられた。


これは自分が頑張らないとと意気込みながら、ポタージュにカディスが取ってくれた白いパンをつけて1口食べる。

美味しさに心が緩んでしまったことは言うまでもない。






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