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28 .意外な参加者

王族御用達の避暑地グルーミットまでは馬車で7日、プテレヴィでは1日半ほどかかる。

襲撃対策として、毎年移動方法を変えているそうだ。

馬車とプテレヴィの半分ずつで移動することもあるらしい。


今年はプテレヴィのみでの移動となり、「グルーミットで過ごせる日数が増える」とレガッタがはしゃいでいた。

でも、その数分後に苦いものを食べた時のように顔を歪ませていた。


「父も私も断ったんだ。でも、王妃様がどうしてもと……」


顔を逸らしながら集合場所に現れたのは、イエーナだった。

朝、仮病まで使ったのに無理矢理馬車に押し込まれたらしく、向かってしまったのならと腹を括ったそうだが、やっぱり顔を合わせるのは気まずいのだろう。

それでも、挨拶をしないわけにはいかないので、おずおずとカディス・レガッタ・アイビーがいる場所にやってきたのだ。


アイビーは、ここまで身の置き場がなさそうにしているイエーナを怒る気になれないが、手助けしてあげたいとも思わない。


「本当にお母様の執念が恐ろしいですわ」


レガッタが、不機嫌を隠さずに鼻を鳴らしながらイエーナから顔を背けた。

イエーナはイエーナで、どんよりした雰囲気を纏いながら斜め下を見ている。

アイビーとカディスは、視線だけを合わせて乾いた笑みを浮かべたのだった。


そんなこんなでどうなるのかと心配しながらグルーミットに向かって出発したのだが、移動中イエーナを見かけることはなかった。


グルーミットには夕食時につき、今日はそれぞれで食事をとることになった。

アイビーはカディスとレガッタに誘われて3人で食べ、明日からの予定を相談し、遊んでいる風景を想像して楽しかった。

でも、その場にイエーナがいないことに、少しだけ心苦しくなった。


その気持ちの正体が分からず、就寝前にチャイブとルアンに胸の内を聞いてもらうことにした。


「どうしてこんな気持ちになるのかな? 今までのイエーナさんのことを考えると、カディス様やレガッタ様との仲が上手くいかないのは仕方がないと思うの。でも、なんだかモヤモヤするの。このまま無視していいのかなって」


「そうでしょうね。ある意味、虐めですしね」


チャイブにさらっと言われて、アイビーは勢いよく体を起こした。

ベッドに寝転んでいて、後は「おやすみ」を言うだけの状況だったのだ。


「気づいてなかったんですか? 居心地が悪いから放っておくというのも正解かもしれませんが、いないものとして扱うなら虐めだと思いますよ」


ルアンがいる時のチャイブは敬語を使う。

もう慣れてもいいのだが、こういう相談に近いものの時は師匠時代のタメ口で話してほしくなる。


「いない者として扱っているわけじゃ……」


「挨拶しない、声をかけない、誘わない。どこがどういない者として扱っていないんですか?」


「違うわ。ただ、レガッタ様の前でイエーナさんの名前を出していいのかどうか……」


「レガッタ殿下に押しつけるんですね。周りからの評価を気にしたお嬢様が決めた行動ですのに」


アイビーは、開きかけた口を閉じて、唇を引き結んだ。


「……チャイブの言う通りだわ」


肩を落とすと、チャイブに少し乱暴に頭を撫でられる。


「確かにこの状況を作り出したのはイエーナ公爵令息の行いが悪すぎたせいですが、そもそもレガッタ殿下とイエーナ公爵令息は話し合ったことがあるんでしょうか?」


「どういうこと?」


「カディス殿下の話だと、イエーナ公爵令息は性格をわざと変えていらっしゃるんですよね? だとしたら、それはどうしてなのか真剣に問われたことはあるんでしょうか? もし何か理由があってのことだったら、話し合いで解決できるかもしれませんよね?」


「そうね。でも、お互い顔も見たくないって思ってそうなのに、話し合いなんてできるのかな?」


「やってみなければ分かりませんよ。それに、レガッタ殿下とイエーナ公爵令息は変わらず婚約者のままなんですよ。どんなに嫌だとしても1度話し合ってみるべきなんです。声をかけない誘わないだと、2度と埋めることのできない溝ができたままになりますしね。その状態でパーティーではパートナーをし、結婚をするのは苦痛でしかないと思いませんか?」


「そうだけど……」


——私が何かしていいのかな? レガッタ様に笑っていてほしいんだったら、嫌な思いをするかもしれない話し合いなんてしない方がいいと思うのよね。

でも、イエーナさんを無視し続けているこの状況はよくないっていうのは、何となく感じるのよ。良い子ちゃんになりたいからとかじゃなくて、自分が虐めているかもっていうモヤモヤじゃなくて、こう、このままで本当にみんなが楽しめるのかなみたいな。

うん、そうだわ。きっとそこが引っかかっているのよ。


俯いて考えていたアイビーが、力強く頷いてから上げた顔には気合いが入っている。


「私、やってみるわ。レガッタ様とイエーナさんを仲直りさせられるとは思わないけど、お互いの気持ちを吐き出させることはできると思うの。嫌な気持ちを思い出のまま溜め込むのはよくないし、イエーナさんに旅行中1人がいいかどうかも確認できるしね。きっとイエーナさんのことが分からなさすぎて、どんよりしちゃうんだわ。だから、まずはイエーナさんに謝ってもらうの。悪いことをしたんだもの。レガッタ様に誠心誠意謝ってほしいわ。話し合いはそこからよね」


「これからの方針が決まってよかったですね」


「うん。ありがとう、チャイブ」


今度は髪の毛を整えるように、柔らかく微笑んだチャイブに頭を撫でられた。

優しい手つきに、アイビーの頬が緩む。


「あ! もう1度だけ殴ってもいいかな?」


「ダメですよ。きっともう心はボロボロでしょうからね」


「そっか。じゃあ、何かで勝負をして勝つことにする」


「そうしてください。お嬢様なら余裕で勝てますよ」


軽く頭を叩いてきたチャイブの手を掴んだアイビーは、眠りに落ちるまでその手を離さなかった。






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