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17 .ルージュは友達

カディスとラシャンが1ーAに通うようになって、アイビーとカディスのハグと、アイビーとラシャンの頬にキスし合う光景は日常的なものになった。


キスは必殺技なので乱用しないよう、ラシャンを泣かせてしまったあの1回だけで終わらせようと思っていたのに、期待した瞳を向けられると見て見ぬ振りができず頬にキスをするようになったのだ。


当然の如く家族団欒の場でラシャンが自慢をし、家族全員と朝夕の2回することになっている。

チャイブには、「ここぞという時に使う武器がなくなって残念だな」と呆れたように言われた。


そして、今は新しい必殺技を編み出すために、ルアンと協議を重ねている。

完成したら誰より先にチャイブに試して、撃沈させてやると目論見中だ。


学園でのアイビーたちのスキンシップは、はじめの頃は悲鳴のような声が乱れ飛んでいたが、10日ほど過ぎた今では温かい瞳を向けられるようになった。


そのおかげもあってか、学園の噂話はルージュからアイビーの行動に眉を顰める話に変わり、いつの間にか目の保養だと沈静化した。


騒がれなくなってよかったが、ダフニが姿を現さないのでヤキモキしている。

再来週にはルージュが戻ってくるから、それまでには何か進展させておきたい。


「うーん……もしかして、このまま何も起こらないんでしょうか?」


「そうかもしれませんわ。バーチメントやシャトルーズにも動きはありませんし」


「思い通りに事を運べたから、今は様子見で、落ち着いた頃にってことでしょうか?」


「あり得ますわね。でも、もしかしたらルージュが登校してくるのを待っているのかもしれませんわ。ルージュを徹底的に排除したいのかもしれませんから」


「ダフニさんは、そこまでルージュ様が嫌いなんですか?」


「まぁ、仲良くしているところは見たことありませんから、あの2人はお互いに嫌いだと思いますわ」


度々、アイビーとレガッタは教室で内緒話をしている。

王女と公爵令嬢が、ヒソヒソと喋っているのだ。

クラスメートたちは興味津々にしているが、王女と公爵令嬢が相手だからか、絶対に近づいてこようとはしない。

だからこそ、遠慮せずに内緒話ができている。


そして今日もまた、2人は声を潜めて話している。


「レガッタ様、キャンティ会長より手紙が届きましたの」


「この前、調べてくださった方ですよね?」


「はい。あれからも調べていてくださったそうです」


「まぁ! 優しくて素晴らしい方ですわ」


「はい。何かお礼を贈ろうと思っています」


「解決した暁には、私からも贈らせてくださいましね。それで、何を教えてくださったんですの?」


「それがですね、ダフニさんとレネットさんが、コソコソと2人で会っているそうです。声が聞こえる距離にはバレそうなので近づけないらしく、密談内容は分からないと謝罪されました」


「十分な情報ですのに、謙虚な方なんですね」


「そうですよね。周りに人がいないのに小声で話しているということは、よからぬ話をしているって証拠ですもんね」


「そこにバーチメントがいないってことも重要ですわ。ルージュの件には関わっていないってことですもの」


「私もそう思います」


——そもそも、私に直接注意をしてきた人だもんね。ルージュ様とも面と向かって話したみたいに言っていたし、狡いことはしなさそうだわ。


情報が少しずつ集まってくるが、何をしたいのかに辿り着かず、頭を悩ませている。

しかも、アイビーに接触してこない。

カディスやラシャンの前にも、姿を見せないそうだ。


モヤモヤが消えず、答えが見つからないまま、ルージュの停学が解けた。


アイビーが登校すると、ルージュは教室で1人でいた。

停学前と変わらない朝の光景だが、唯一違うのは皆遠巻きにルージュを見ている点だ。

アイビーは周りの視線を気にせず、ルージュに声をかける。


「ルージュ様、お久しぶりです」


「……久しぶりね」


「お休みは、のんびり過ごせました?」


怪訝そうにルージュに見られ、アイビーは指を頬に当てながらキョトンとした。

盛大につかれるため息にも心当たりはない。


「私と話さない方がいいわよ」


「嫌ですよ」


「あなたねぇ」


「ルージュ様との会話は楽しいですのに、どうして我慢しなきゃいけないんですか」


「ヴェルディグリ公爵に怒られるわよ」


「お父様は怒りませんよ。私がすることは、全部許してくださいます」


もう1度大きく息を吐かれ、「それもそうね」とまるで何かを諦めたように言われた。

そこに、元気よくレガッタが登校してきた。


「あら、ルージュ。顔色がいいですわね。父君と旅行していたと聞きましたが、気分転換できたようで何よりですわ」


「え? 旅行ですか? いいなぁ」


「旅行じゃないわよ。アムブロジア王国にいる縁戚のパーティーに出席させられただけよ」


「お2人でですか?」


「母も一緒よ。たくさん買い込んでいたから、何か見繕って渡すわ。私は、その、お土産を買ってもと思っていたから」


「私たちがルージュを避けると思ってらしたの? 友達なのに酷いですわ」


「そうですよ。私もレガッタ様も、ルージュ様を信用しているんですから」


「……そうね。嬉しいわ」


俯かれてしまったから表情は分からないが、ルージュの掠れた声は耳に届いた。

アイビーは、レガッタと顔を見合わせて、口元を綻ばせたのだった。






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