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13 .停学

クロームの誕生日は、珍しく仕事を休むというクロームに合わせて、ラシャンとアイビーも学園を休んだ。

朝から一緒に庭を散歩し、昼からは家族だけの誕生日会を催した。

祖父母からは洋服を、ラシャンからは手袋を、アイビーからは昨日作ったバターたっぷりのお菓子を贈っている。

号泣して喜んだクロームは、アイビーのお菓子に保存の魔術をかけ、1ヶ月部屋に飾った後食べたそうだ。

さすがに、満悦半分恐怖半分のアイビーであった。


時間軸はクロームの誕生日の翌日に戻り、休み明けに登校したアイビーはクラスの微妙な空気に首を傾げた。

いつもは明るい表情が多いクラスメートたちの面持ちはどんよりしていて、コソコソと声を潜めて話している。


——何かあったのかな? レガッタ様とルージュ様が登校してきたら聞いてみよう。


自席に座り、鞄を片付けていると、クラスメートが2人近づいてきた。

気まずそうに顔を俯かせながら話しかけられる。


「アイビー様、おはようございます」


「おはようございます」


「あの、その……」


「どうされました?」


困惑した顔を見合わせたクラスメート2人は、意を決したように話しだした。


「あの、ルージュ様のお話なんですが、本当なんでしょうか?」


「ルージュ様? 何かあったんですか?」


「昨日の放課後なんですが、ダフニ公爵令嬢を階段から突き落とされたそうでして、ルージュ様は今日から1ヶ月停学になるそうなんです」


「本当は退学になるところを、ダフニ公爵令嬢が『足を捻っただけだから』とルージュ様を庇われたため停学になったらしいです」


アイビーは目を瞬かせながら、言われた言葉を理解するのに数秒かかった。

そして、だからみんなヒソヒソ話をしているのかと納得した。


話しかけてくれた2名は、比較的ルージュとも会話をしていたから、ルージュが心配でアイビーなら何か知っているかもと尋ねてきたんだろう。


「そうなんですね。私、今初めて知りました。でも、本当にルージュ様がそんなことをされたんでしょうか?」


「私もルージュ様はされていないんじゃないかと思うんですが、実際に目撃した人がいるそうなんです」


「いるんですか?」


「私たちも噂で聞いただけなんですが、その人物が叫んだから周りが気づいて、すぐにダフニ公爵令嬢は運ばれて手当てを受けることができたそうなんです」


「全て人伝で聞いた話ばかりですので、アイビー様が真実をご存知ならと思ったのですが……」


「ごめんなさい。本当に何も知りませんわ」


3人で暗い顔をしていると、レガッタが明るく登校してきた。

クラスの異様な雰囲気に瞳だけキョロキョロさせながら、一直線でアイビーの元にやってくる。


「何かあったんですの?」


アイビーが先ほど聞いた話をレガッタにすると、レガッタは悩むように視線を落とした。

だが、すぐに何事もなかったように微笑んできた。


「いくら考えても、ルージュに聞かなければ真相は分かりませんわ。それまでは無闇矢鱈に噂しないようにいたしましょう」


「そうですね」


レガッタの声でその場はおさまったが、学園全体では今回の噂に輪をかけて「日常的にダフニはルージュに虐められている」という話が駆け巡った。


ルージュが登校して来ないから昨日の話は真実で、本人が目の前にいなければ怖くないのだから何でも口から出すことができる。


ラシャンとカディスと共に昼食をとる頃には、ダフニは天使のようにルージュは悪魔のように囁かれていた。


「尾鰭がつくことは理解できますが、酷すぎます」


アイビーだって、噂話が人を介するほど大きくなっていくことは知っている。

噂話が好きな人たちが多いのが常なので、原型を留めない噂を聞いたこともある。


「私も腹が立ちますわ。だって、あの陰湿そうなダフニが天使とか、目が腐ってるとしか思えませんもの」


レガッタがアイビーに同意してくれ、アイビーもレガッタの言葉に賛同し、拗ねながらお互いの言葉に大きく頷いた。

カディスは、特に関心がないようで知らぬ顔だ。

ラシャンは、アイビーの気持ちを憂いさせている噂に怒っているのだろう。険しい顔つきをしている。


「アイビー、僕が全員黙らせてあげるよ」


「ラシャン、本当にできる力があるんだから、軽々しく言わない方がいいよ」


「殿下、僕は軽々しく言ってません。本気です」


カディスは白けた瞳をラシャンに向けた後、面倒臭そうに息を吐き出して会話に参加してきた。


「真相も大切だけど、僕はそれよりも噂が大きくなるのが早い気がするんだよね」


「確かにそうですね。誰かが意図的にばら撒いているんでしょうか?」


「ルージュを蹴落としたい誰かってことですわね。お兄様の婚約者のアイビーなら分かりますが、どうしてルージュなのでしょう?」


「可愛いアイビーを蹴落とせないからじゃないかな」


「ラシャンはアイビーのことになるとバカになりすぎだよ」


睨み合っているラシャンとカディスは戯れているだけにしか見えないので、アイビーは気にせず話を続ける。


「もし噂を意図的に大きくしているのだとしたら、昨日の噂も嘘の可能性がありませんか?」


「ルージュが停学になったのは本当だから、ダフニが落ちたのは事実なんじゃないかな。突き落としたんじゃなくて手が当たったとかかもしれないけどね。まぁ、不細工に腹が立って、ついやっちゃった可能性は高いよ。そうしたい気持ち、僕はよく分かるから」


「その理由ですと、ルージュ公爵令嬢はバカじゃないから、目立たない家の階段を選びそうな気がしませんか? 彼女、感情の制御上手ですよね」


「ラシャン様、私もそう思いますわ。ルージュならバレないようにするはずですわ」


「では、やっぱり昨日の噂も、大きくなりすぎている噂も怪しいってことですよね?」


アイビーの言葉に、3人とも真剣な顔で頷いている。


「僕とラシャンで軽く周りに聞いてみるよ。どこに罠があるか分からないから、アイビーとレガッタは何もしないようにね」


「うん、そうだね。最終的な狙いはアイビーかもしれないからね。動いたらダメだよ」


真っ直ぐ見てくるカディスとラシャンに、アイビーは柔らかく微笑んだのだった。






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