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7 .2組の兄妹

夕方になり、カディスとレガッタがやってきた。

予想通りルージュの姿は見当たらない。


レガッタに尋ねると、「ダフニが五月蝿いのよ」と言われたと教えられた。


どういうことかと2人で考えていたが答えは見つからず、ルアンが淹れてくれたお茶の香りを嗅いだ途端に考えていたことは消え去った。


「どうして僕とレガッタだけ2個あるの?」


アイビーとラシャンの前には茶色いフラワーフルが、カディスとレガッタの前には茶色いフラワーフルと黄土色のフラワーフルがお皿の上に置かれている。


アイビーが、黄土色のフラワーフルを手で指した。


「こっちがお店で購入した分です。私たちは昼食で食べましたから。美味しかったですよ」


「そうなんだ。じゃあ、こっちは?」


カディスが、誰のお皿の上にもある茶色いフラワーフルを指す。


「それは試作品らしく、お店で働いている男の子がくれたんです。4つだったので、お父様がみんなで食べたらいいよって言ってくださったんです」


「まぁ! 公爵には後でお礼を言いますわ!」


体を跳ねさせそうなほど喜んだレガッタは、幸せそうにフラワーフルを見ている。


「この試作品は、全員に配られているの?」


「分かりませんが、私の可愛さがあったからいただけたような気がします」


「絶対にアイビーが可愛いから貰えたんだよ。あの子、渡せて嬉しそうだったしね」


アイビーとラシャンが「ふふ」っと微笑み合っていると、カディスが鼻から短く息を吐き出した。

「まぁ、いいか」と言いながら、お茶を口に含んでいる。


「お兄様、よろしいんですの? ライバルですわよ」


レガッタは瞳をらんらんと輝かせてカディスを見ているが、カディスは「あ、美味しい」とフラワーフルを食べはじめた。

レガッタも「私も」とフラワーフルにナイフを入れている。


「誰彼構わずプレゼントを貰われたら困るけど、今回のことは仕方がないよ。試作品だしね」


「チャイブにも注意されましたが、やっぱり知らない人だから貰ってはダメですか?」


「そういうことじゃなくて、下心がある人からのプレゼントを貰うってなると、気持ちに応えているって思われるかもしれないからね。お祝いじゃない限り受け取らないことを勧めるよ」


「ふらふらしているって意地悪を言われるってことですね」


「そうだね」


「もう! 私は、そういうことを言っておりませんわ。ライバルですのよ。嫉妬されませんの?」


食べているから頬を膨らませているのか、怒っているから頬を膨らませているのか分からないが、今日もレガッタの食べている姿はリスみたいで可愛らしい。


「しないよ。アイビーと僕の仲は誰にも邪魔できないからね」


「すごい自信ですわ……」


レガッタの声は、賞賛するような、どこか呆れているような声色を含んでいた。


——自信というよりも、契約だからだと思うよ。だって、私のために苦渋の決断をした家族や公爵家に迷惑がかかるんだから、契約を破るなんて私にはできないもの。絶対に不利になることはしない。そういうのが分かっているから、カディス様は焦ったりしないのよね。


アイビーは数回頷きながら、試作品のフラワーフルを食べて顔を蕩けさせた。


「うわー、試作品も美味しいですね」


「本当だね。僕もこっちのチョコ味の方が好きだよ」


そう言いながらもラシャンは、自分のフラワーフルの半分をアイビーのお皿の上に置いてくる。


「よろしいのですか?」


「うん、アイビーの美味しそうに食べる可愛い顔を見られるからいいんだ」


「ありがとうございます」


満面の笑みで食べているアイビーを見てから、レガッタは獲物を狙うようにカディスを見やった。

レガッタの視線に気づいているだろうに、カディスは素知らぬふりをして食べている。


「お兄様。可愛い妹がもう少し欲しいと願っていますわよ」


「そうなんだ。今度バーミに内緒で買いに行ってもらいなよ」


「お兄様。ラシャン様はアイビーにあげましたのよ」


「そうだね。ラシャンはお腹がいっぱいなんだろうね」


「お兄様。美味しそうに食べる私の姿を見たくないのですか?」


ジリジリとカディスに体を寄せようとするレガッタに、カディスは諦めたように息を吐き出した。


「レガッタ。あげるからきちんと座りなよ。落ちて怪我でもしたらどうするの」


「ありがとうございますわ、お兄様。嬉しいですわ」


澄まし顔だが上機嫌で体を弾ませているレガッタに、アイビーとラシャンはクスクスと笑い出す。

カディスが、お皿の上に残っていた全てを、レガッタのお皿に移動させている。

なんだかんだレガッタには甘いカディスである。


「美味しかった。ラシャンにアイビー、ありがとう」


「ありがとうございますわ」


カディスとレガッタにお礼を言われて、アイビーとラシャンは首を横に振った。

買いには行ったが待ち時間さえも楽しく、カディスが教えてくれなければ食べられなかったお菓子だからだ。


「平民街じゃなかったら、内緒で買いに行ってもらわなくて済むんだけどね」


「平民街だと、どうしてダメなんですか?」


「母上が嫌がるんだよ。絶対に損していると思わない?」


アイビーが大きく頷くと、カディスは愉しそうに頬を緩めている。


「僕は他にも食べてみたいものがあるんだよね」


「でしたら、今度は違うものを買ってきますよ」


「アイビー、ダメだよ。殿下は今アイビーを利用しようとしたんだよ。許せない行為だよ」


ラシャンがカディスを睨むと、カディスは肩をすくめた。


——美味しいものを食べられるなら、別にカディス様たちの分を一緒に買ってもいいと思うけどな。うーん……私がカディス様たちの分を買いに行くから、利用云々になるんだよね?


「では、今度一緒に行きませんか?」


「いいね、それ!」


「ダメですよ!」


乗り気なカディスは、ラシャンの注意する声を無視している。

レガッタが「お忍びですわね! どんな服を着ましょう」と顔を輝かせているので、きっとレガッタも行く気満々なんだろう。

フィルンは苦笑いをしているし、バーミは青い顔をしている。


——うん? やっちゃったのかな?


アイビーがチャイブを窺うように見ると、目が合った瞬間悪寒が走った。

微笑んでいるが、怒っているということだ。


アイビーは、酸っぱいものを食べた時のように顔に皺を寄せながら、なんとか視線を逸らしたのだった。






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