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4 .学園生活

学園に入学してからというもの、アイビーはレガッタとルージュと3人で行動をすることが増えた。

はじめは1人で行動をしようとしていたルージュに、ことある毎に「ルージュ様、ご一緒してください」と誘い、なんとか絆されてくれたのだ。


クラスメートたちに関しては、最初こそアイビーの可愛さに挨拶さえままならなかったが、今となっては普通に会話するようになっている。


気さくに誰とでも話すアイビーの好感度は高く、「アイビーを見守る会」という会が発足したらしい。

見られることには慣れているので、害がないのなら勝手にどうぞだから、今のところ放っておいている。


「アイビー。あなた、本当に血を濃く受け継いでいるのね」


「魔術の才能があって羨ましいですわ」


魔術を扱うことができるできない関係なく、初等科には魔術学が組み込まれている。

これは、マナの扱い方、魔術の仕組みや魔法陣の作り方、精霊の在り方を習う授業になり、1年かけて魔術師を発掘する期間になる。

大体の魔術師は、入学当初は魔術を扱えなくても、魔術に触れていく中で2年生に上がる頃には覚醒している。


すでに精霊魔法を使用できるアイビーにとって、マナの扱いは容易く、授業初日から魔術を使うことができた。

担当の先生から「無詠唱できるようになりそうですね」と喜ばれている。

もちろん家族には報告済みで、お祝いされているのは言うまでもない。


「レガッタ様もルージュ様も、発現する可能性はまだまだありますよ」


「そうね。使えないより使える方がいいから、希望は捨てないでおくわ」


「私は絶対に使えるようになりたいですわ。そうすれば魔術師団に入って、婚約破棄して、自分の足で立ってってできますもの」


アイビーは「王女様が魔術師団に入れるのかな?」と意気込むレガッタを悩ましげに見てしまい、応援の言葉を投げることができなかった。


それに、隣でルージュが肩をすくめていたから、きっと同じことを考えたんだろう。

レガッタが魔術を使えたとしても、望み通りに婚約破棄も魔術師団入団もできないんじゃないかと。


どうすればいいのか分からない気持ちが湧き起こり、苦い思いをつれてくる。


苦しさが邪魔をして励ますことはできなかったが、「魔術を教え合えられたら楽しそうですよね」という遠からず近からずの言葉は伝えることができた。


魔術学の授業が終わり、食堂に向かう途中で大きな集団を見かけた。


「固まって歩くなんて邪魔ですわ」


「どうして周りの方たちが、隅に避けるんでしょう? 集団が2列か3列になればよろしいですのに」


「無理よ。力を誇示したいだけなんだから」


そう、こんな気さくに会話ができるほど、3人は仲良くなっている。


ルージュは最初の印象が完全に彼方遠くにいってしまったほど、きちんと会話をしてくれる。

ただ今だに笑い声を聞いたことはなく、たまに小さく微笑んでくれるだけだが、見られた日は飛び跳ねたくなるほどの幸福に満たされている。


動物好きのアイビーにとって、リスと猫に似ている可愛い2人と一緒にいられる時間は楽しくて、学園に嬉々として登校しているのだ。


大きな集団も食堂に向かうようなので、一定の距離を保ちながら眺めていると、集団にダフニを発見した。

今日も、彼女は身を縮こませている。


アイビーは、横目でルージュを確認して視線を戻した。


ルージュが気づいているのかどうか分からないが、あえて教えることはしない。

世間話として2回ほどルージュにダフニの話を振ってみたが、ルージュは冷たい硬い声で短く答えるだけで話に花は咲かなかった。


好きではないんだろうと結論付けてからは、ルージュにダフニの話はしていない。

ルージュとお喋りできる話題を探しただけなのだから、気持ちを沈ませてしまう名前をわざわざ出す必要はないのだ。


食堂に着くと、空いている席を探さず、一直線で王族専用スペースに向かった。


王族が生徒の中にいる時のみ作られる空間だそうで、この特別席がなければ近くに座ろうとする人たちが席の奪い合いをして喧嘩が起こるんだそうだ。

「本当に貴族も平民も変わらないんだなぁ。あ! でも、貴族の方がタチが悪いんだったわ」と、激しい喧嘩をしている場面を想像して顔を顰めてしまったのだった。


専用スペースにはすでにラシャンとカディスが座っていて、いつも5人で一緒に昼食をとっている。


「ラシャンたちは明日から休みなんだよね?」


「はい。4日後は母上の誕生日ですから、全員でお墓参りに行ってきます」


「僕も婚約者として行こうかな」


「それでしたら、私は親友として行きますわ」


ルージュは何も言わないが、呆れたような瞳を向けている。

当たり前になりつつあるこの空間が嬉しくて、アイビーはいつもニコニコ顔だ。


アイビーの今までの当たり前は、チャイブが側にいるということだけ。

だから、無くなる心配がなさそうな当たり前が増えることが、どうしようもなく幸せなのだ。


変わらない日々でしか手に入らないもの。

気づかれにくい、とても尊い宝物だ。


「何を言ってるんですか。サボる口実にしようとしないでください」


「分かったよ。残念だけど諦める。その代わり、頼みたいことがあるんだ」


「嫌ですよ」


すかさずラシャンが断るが、カディスは全く気にせず話を続ける。


「最近、城下にできた花の形をしたお菓子を買ってきてほしいんだ」


「食べたいならフィルンに買いに行ってもらえばいいじゃないですか。僕たちは領地に行くので、街中を移動しませんよ」


「フィルンにも買いに行ってもらうよ。でも、1人1つしか買えないんだよ。レガッタに取られたら、僕は食べられないからね」


「まっ! お兄様、酷いですわ。私、いつもいつも取りませんわよ」


拗ねながら抗議したレガッタを、カディスはジト目で見ている。


「じゃあ、フィルンが買ってきてくれる1つを、僕が食べていいんだね?」


「それも酷いですわ。半分こがいいですわ」


——毎日誰かに買いに行ってもらって、交代で食べればいいんじゃないかな?


そんな正論を思いながら、アイビーも花の形のお菓子に興味が湧いてきた。


「お兄様、私も食べてみたいです」


「うん、絶対に買いに行こうね」


途端に意見を変え満面の笑みで頷くラシャンを、カディスとルージュが白い目で見る。

これももう定番の景色になりつつあった。






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