68 .祝福祭
昨日の聖夜祭と同じく、祝福祭の今日も街は賑わっている。
ただ今日は昨日と違い、アイビーたちはお祭りに参加しない。
朝からドレスを着て、各家庭に必ずあるという初代両陛下の像に新年の祈りを捧げる。
ヴェルディグリ公爵家には専用の部屋があり、初代両陛下の像の横には、ネピの実とアイビーが作りクロームの魔術で保存された雪うさぎが飾られている。
「『去年はありがとうございました。今年もよろしくお願いします』ってお祈りするんだよ」
お祈りが初めてだというアイビーに、ラシャンが両方の手のひらを合わせてやり方を見せてくれた。
家族と出勤している使用人全員で一斉に祈りを捧げた後は、ネピの実を使った料理を食べる。
本当に昨日今日とネピづくしである。
朝食が終わると、クロームとラシャンと共に、両陛下に挨拶をするため登城をする。
毎年クローム1人で済ませていた行事なのだが、今年は婚約者役をしているアイビーを連れていかないわけにはいかず、それならばとラシャンが同行を希望してきたのだ。
「今日のアイビーも可愛すぎて誰にも見せたくない」
「お兄様も最高に可愛いですよ」
「アイビー、私はどうかな?」
「お父様は最高にカッコいいです」
キャッキャしている3人のやり取りを、馬車の中で何度も見せられてげんなりしているはチャイブだけだ。
挨拶をするだけでパーティーではないので、ルアンはついてきていない。
ルアンがいれば、げんなりするどころか鼻血を出しそうな勢いで悶えていただろう。
挨拶の順番によって大体の時間が決められているので、貴族たちは同じ時間帯に一斉に登城しない。
順番待ちをする待合室としてホールが開放されているが、3つしかない公爵家の1つであるクロームたちは待ち時間すらないので利用しない。
さくっと挨拶をして、さっと帰るのだ。
一直線で謁見室に通され、部屋の壇上には両陛下が鎮座していた。
カディスとレガッタの姿は見当たらない。
煌びやかに着飾った王妃に「ヴェルディグリ公爵家は毎年謙虚ね」と言われて、クロームが「きちんと弁えていますから」と返すと、王妃は面白くなさそうな顔をしていた。
本当に短い時間の会話で終わり、馬車に向かって歩いていると、廊下の先からカディスとレガッタがやってきた。
「まぁ! アイビー、とても可愛いですわ。まさしく妖精ですわ」
「レガッタ様も、白色似合ってますよ」
アイビーとレガッタが、挨拶代わりに褒め合うのはいつものこと。
今はもう2人が褒め合い終わるのを待ってから、周りは口を開くようになっている。
「王子殿下、王女殿下、今年もよろしくお願いいたします」
クロームに倣って、ラシャンとアイビーも頭を下げる。
「師団長、ラシャン、アイビー。こちらこそよろしく」
「よろしくお願いしますわ」
頷くカディスたちと微笑み合い、見送ってくれるそうで馬車止めまで一緒に向かうことになった。
アイビーの隣は争奪戦で、今日はレガッタとラシャンが勝ち取っている。
「アイビー、どのクラスかの通知は届きました? 私、Aクラスでしたわ」
「私もAクラスでした! 嬉しいです!」
「本当ですの! やりましたわ!」
アイビーとレガッタは、飛び跳ねるように喜び、手を取り合った。
「レガッタ、学園ではお淑やかにね」
忠告するように伝えるカディスに、レガッタは渋い顔をしている。
「分かっていますわ。誰かに報告されたら怒られますもの」
「報告されるんですか?」
「お母様は口うるさいんですのよ。学生の間くらい好きにさせてほしいですわ。アイビーも気をつけてくださいましね。どこに目や耳があるか分かりませんから。1のことを10にして騒ぐ人も多いんですのよ。そういう人がお母様に報告したら、本当に大変ですから」
——目や耳って……レガッタ様がチャイブと同じこと言ってる。平民・貴族・王族関係なく教え込まれることなのね。
プリプリ怒りだしたレガッタに、キョトンとしながらラシャンと顔を合わせた。
どうやらラシャンも、急に頬を膨らませたレガッタが不思議だったようだ。
苦笑いしているカディスが、何があったのかを説明してくれた。
「先日、レガッタが僕の分のケーキを食べたんだよ。それを誰かが伝えたみたいでね。昨日までレガッタはおやつ抜きだったんだ」
「私、お兄様に確認して食べましたのよ。それなのに、本当に酷いですわ」
「あげた僕にも責任があるから、一緒に我慢したじゃないか」
アイビーは、顔を大きく伸ばしながら瞳を瞬かせた。
随分前に「母上は太りたくなくて食べられないから、周りが食べていると不機嫌になる」とカディスから聞いている。
レガッタのケーキ事件もそれに結びつくのなら、王妃であるカメリアは小さな子供みたいだと驚いたのだ。
でも、食べすぎると太ってしまう。
ブタさんになったら可愛くなくなっちゃうし、食べすぎるとお腹が痛くなったり、吐いてしまうことだってある。
それらを気にしての罰だったのかもしれない。
だとすると、レガッタを想っての注意になる。
可愛い貯金は一瞬でなくなっちゃうから、どれだけ可愛くても気を抜けないのだから。
うんうんと頷いていると、隣から小さな笑い声が聞こえてきた。
見上げると、ラシャンが目を細めている。
「アイビー、急に百面相をしてどうしたの?」
「可愛い貯金について考えていました」
「なにそれ?」
「どれだけ可愛くても不細工には一瞬でなれる、というチャイブの教えです」
「あいつはまた」とクロームの怒りを抑えているような声が聞こえた。
挨拶だけなので、チャイブは馬車にて待機している。
この場にいたら、クロームに殴られていたことだろう。
「アイビーが不細工になったら教えてあげるよ」
「殿下! アイビーが不細工になることはありません!」
「はい。私、頑張ってますから。それに、カディス様の美的感覚はおかしいですから当てになりません。ですので、遠慮させていただきます」
言い返したラシャンも、アイビーの言葉にキョトンとしたレガッタも、1拍置いた後に声を上げて笑いだした。
カディスは眉間に皺を寄せながら、澄まし顔のアイビーを見ている。
「あー、まぁ、いいや。アイビーの思い込みに付き合う必要ないからね」
「思い込みではないですよ」
「はいはい」
頬を膨らませてそっぽ向くアイビーを、鼻で小さく笑ったカディスだったが、レガッタに背中を叩かれて顔を歪めた。
「アイビー、私ならいつでもお兄様を叩けますから、何でも言ってくださいましね」
「はい。レガッタ様、ありがとうございます」
わいのわいのやっている子供たちに、大人たちは「この平和が続きますように。はぁ、可愛い」と思いながら頬を緩めていたのだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
68話をもちまして、第1章完結となります。
ストックに追いつかれそうでヒヤヒヤしました。
無事に完走できてよかったです。
第2章は、7月中に投稿を開始できればと思っています。
アイビーとカディスの関係を恋愛に近づける何かを起こしたいなぁと思っています。
少しお時間をいただきますが、楽しみに待っていてもらえたら嬉しいです。
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めちゃくちゃ感謝していますm(_ _)m




