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60 .フォーリッジ子爵家の裏の顔

薄暗い部屋に、ポルネオとシュヴァイと静かに泣いている男がいる。

男の体は固い椅子に紐で結ばれていて、纏っている白い服には汚れや血がついている。


「こやつが朝から侵入してきた奴か?」


「はい。直接お嬢様を狙ってきた者です」


怒りを滲ませているポルネオに対して、シュヴァイは相変わらず微笑んでいる。


「話したのか?」


「少し抵抗されましたが、簡単に口を割りました。手応えがなさすぎて面白くありませんでしたよ」


泣いている男は、シュヴァイが1歩近づいただけで、小さく悲鳴を上げた。


そんな男の腹に、シュヴァイは容赦なく蹴りを食い込ませた。

椅子自体が床に固定されているため、衝撃はどこにも逃げない。

男の体が、全てを受け止めることになる。


内臓を潰すような蹴りに、男は胃の中の物を吐き出した。


「汚いですね」


「はぁ……はぁ……助けて、ください」


「心配せずとも、貴方が壊れたら送り返してあげますよ」


「ひ、ひぃ」


今度は顔を蹴ろうするシュヴァイを、ポルネオは手をあげるだけで止めさせた。

男が縋るようにポルネオを見やる。


「ぜ、んぶ、話しました……助けてください……」


「殺さないという情けはかけているぞ」


冷たく言い放つポルネオに、男は打ちひしがれたように頭を垂らす。


「シシリアン侯爵家で間違いないんだな?」


男の頭が、小さく縦に揺れた。


「今回の件で、シシリアン侯爵家と繋がっている家門はあるか?」


「しり、ません……」


「シシリアン侯爵家の秘密を知っていたりするか?」


「言えば……助けて、くれますか?」


「内容による」


徐ろに顔を上げた男は、光がない怯えた瞳でポルネオを見ている。


「侯爵は、小さな子供……が好きでして、特に男の子が好きで……慰み者にしているんです。女の子は躾けた後、高値で売るそうです……主に孤児院から調達します」


「そうか。貴様の狙いは、公女ではなく公子だったのか?」


「いいえ……今回は、妖精姫の剥製が欲しいという理由です……」


「ほお。我が孫を剥製にすると」


怒りを抑えきれないポルネオのマナが体を巡り、勝手に身体強化してしまったのか、足下の床の石にヒビが入った。


「こ、こうしさまについては、公女様を攫った後に、誘き寄せると言っていた気がします……」


「貴様に仲間はいるのか?」


「……い、ません」


刺すように男を見ていたポルネオが、男に背を向けた。

歩き出すと、シュヴァイは付き従うようについていく。


「待ってください! 助けてください!」と叫ぶ男の声を背中に浴びながら、ポルネオとシュヴァイは地下に通じる階段を登り、林の中に出た。

屋敷に向かって歩を進めるポルネオとシュヴァイに、地下入り口横に待機している騎士が頭を下げる。


騎士の気配が遠くなり、シュヴァイが悔しさが滲む声でポルネオに謝罪をした。


「申し訳ございませんでした。あの女と関わりがあった奴らは、全員捕らえたと思っておりました」


「金を握らされて警備の弱いところを吐いたのかもしれん。気にするな」


「いいえ。父がいれば、私は叱られるだけでは済みません。半殺しにされていますよ」


怒っていたのが嘘のように、ポルネオは小さく笑った。


「アイビーの側にいて守ったんだ。矛先はチャイブに向くだろうて」


「それもそうですね。お嬢様が1人になる時間を作るとは、あいつは本当に愚弟ですよ」


「ああ、今回は本当にシュヴァイが側にいてよかった。アイビーに気づかれることもなかったしな」


「ええ、心得ております。健やかに育っていただきたいですから」


長年働いている使用人たちでさえ、シュヴァイの実力を知らない。

というか、フォーリッジ子爵家を歴代の執事の家門としてしか認識していない。


ジョイは年齢に勝てず昔ほどの鋭敏さはないが、物音を立てずに人を殺せるほどにはまだ動ける。


シュヴァイにおいては、実は魔術を使うチャイブよりも強いのだが、それをいつも人がよさそうな笑顔の下に隠しているのだ。


だから、アイビーがネピの実をとっている間にシュヴァイが侵入者の動きを封じたとは、アイビーは知る由もない。

ほんの一瞬の出来事だったのだから、僅かな空気の揺れを感じることはできなかったはずだ。


全員を信頼できる使用人にするなんてことは、大きすぎる公爵家では無理な話になる。

注意深くしていても綻びが出てしまうのだから、守っているのは騎士だけだという隙を見せることも敵を炙り出すには必要なのである。


「ローモンド侯爵家が潰れるのに、シシリアン侯爵家までなくなってしまうとは問題になるかもしれんな」


「仕方がありませんよ」


「そうだな。この際、目を瞑っていた不穏分子にも退場してもらうか」


かすかにアイビーとラシャンの楽しそうな声が聞こえてきた。

アイビーが何か作ると気づいたラシャンが、きっと押しかけたのだろうと容易く想像できる。


「まずは、あの男の仲間と根城を叩け。捕まっていると知ったら助けにくるかもしれんからな」


「かしこまりました」


険しい表情を顔から消したポルネオは、緩めた表情でアイビーとラシャンの輪に加わりにいった。

シュヴァイは小さく頭を下げて見送った後、チャイブがいる部屋に急いで向かった。


ちなみに、ラシャンは昨日から学園が長期休暇に入っている。


クロームは毎日泣きながら出勤をしていて、今日も「もう少しもう少し」と中々出発しなかったので、シュヴァイが馬車に詰め込んでいた。

その際、「侵入者を殺すなよ。死ぬよりも辛い苦痛を与えるんだからな」と言われている。


相当な怒りを携えている瞳に、シュヴァイは職場で八つ当たりされるだろう人たちを憐れに思ったのだった。






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