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6 .公爵家はすごい

ヴェルディグリ公爵家の3名が落ち着き、ジョイが冷めてしまったお茶を淹れ直してくれた。


「お嬢様。甘いものはお好きですか?」


アイビーは「はい」と言いかけた言葉を飲み込んだ。

公爵家に来る道すがら、チャイブから「使用人や騎士に敬語は使うなよ」と言われていたからだ。


「うん」


ジョイは「それはよかったです」と、机の中央に飾られている色とりどりのスイーツを取り分け、目の前に置いてくれる。


祖父母を見ると、2人して頷いてくれたので、マカロンを掴んで1口食べた。

口いっぱい広がる甘さに、目尻が下がっていく。


幸せそうなアイビーを見て、祖父母は顔を溶かすほど相好を崩している。


「このままお茶を楽しみたいところだが……チャイブ、戻ってきた理由を話しておくれ」


頷いたチャイブが、ムスタヨケルの街でバイオレット・メイフェイア公爵令嬢に探されていたこと、偽名や誰にも話していない関係を知られていたことを説明した。


「なるほど。それは緊急事態だな」


「はい。これ以上隠れ住むことは困難だと判断いたしました」


「正しい決断をしてくれた。早急に王都にいるクロームに連絡を取り、状況を伝えよう」


「仕事を放り出して、大泣きしながら来そうですね」


「あやつは働きすぎだからな。よい休暇になる」


祖父のポルネオに「夕食時に屋敷の皆を紹介しよう」と微笑まれ、アイビーは祖母のローヌと手を繋いでサンルームを後にした。

ジョイもついてくるようだ。


ポルネオとチャイブは、クロームに連絡を取るために今から動くとのことだった。

早急にと話していたが、「速達にすると色んなことを勘繰る輩が出てくるかもしれませんから、通常の報告書に手紙を混ぜるのはいかがでしょう」というチャイブの声が、部屋を出る時にチラッと聞こえていた。


「アイビーちゃんの部屋の準備は済んでいるかしらね」


「終わっている時間でしょう」


2人の楽しそうな声に、ローヌを見上げる。


「私のお部屋ですか?」


「ええ。あなたの部屋よ。洋服も既製品になってしまうけれど用意させているわ。新しい生活に慣れたら、お洋服を作りましょうね」


すれ違う使用人たちが、体をビクつかせた後に頬を染めたと思ったら、慌てて頭を下げてくる。

横に広い階段を登り、2階の廊下を歩いていると、1つの部屋の前で1人の侍女が頭を下げて待っていた。


「ご用意は済んでおります」


「そう、よかったわ」


待っていた侍女は、アッシュブロンドの髪を頭の上でお団子にしていて、ローアンバーの瞳をしている。

薄い唇の右下にあるホクロが特徴的だった。


「アイビーちゃん、あなた付きの侍女になるマラガよ」


ローヌの言葉に、マラガは深くお辞儀をしてきた。


「マラガと申します。アイビーお嬢様にお仕えでき、嬉しく存じます。何なりとお申し付けください」


「うん、ありがとう」


アイビーが笑顔を返すと、マラガは頬を赤く染めて目をハートにした。

キラキラしい瞳で見つめられる。


「可愛らしくて、心臓が止まりそうです」


ローヌとジョイが賛同して頷いている姿に、アイビーは自分の可愛さを再認識したのだった。


アイビーにと用意された部屋は淡い色彩で、上等だと思う物で揃えられていた。

見たことがないほどの大きなベッドに、開いた口が塞がらなかったものだ。

アイビーの反応に満足しただろうローヌとジョイは、「夕食時にね」と部屋から去っていった。


——何をして時間を潰そうかな? マラガに公爵家のことを聞いてみようかな?


新しい街に身を寄せる時に、必ずしてきたことだ。

その町の特徴や風習を蔑ろにしてはいけない。

自分の考えを押し付けてはいけない。

郷に入っては郷に従えなのだ。


「お嬢様、入浴はお好きですか?」


「分からないわ。ごめんなさい」


「いいえ、謝らないでください。しかし、分からないとは、どういうことでしょうか?」


「貴族はお風呂に入るって習ったけど、私はシャワーしか知らないの。シャワーと入浴は違うでしょ。だから、分からないの」


「そうでしたか。では、体験されてみませんか?」


「いいの?」


「もちろんでございます。今日からは、お好きな時に入れますよ」


「嬉しい。1度でいいから入ってみたいと思ってたの」


大きな街には大衆浴場はあるが、アイビーは表向き男の子として育っている。

入りたいと言っても、チャイブを困らせるだけだと分かっていた。

入りたくても言い出せなかったのだ。


マラガに連れられて行った浴室は、何十人入れるんだろうと思うほど広く、壁一面には花が飾られていた。


他人に洗われるという行為は少し恥ずかしかったが心地よく、温かいお湯は隠している緊張を解してくれるようだった。


「入浴はいかがですか?」


「大好きになったわ。ありがとう」


微笑んでくれるマラガに、アイビーは満面の笑みを返す。


この時点で「貴族って別世界だなぁ」と思っていたアイビーだが、入浴後も目を見張っていた。

用意された服がゴワゴワしていなかった。

柔らかくて肌触りがよく、滑らかだったのだ。

しかも、水分補給に水ではなく果汁水を飲んだ。


そして夕食は、並べられた料理やフルーツが光って見えるほど豪華だった。


お金に困ったことがない生活をしていたはずだが、お金の使用量は天地ほどに違うんだと実感したのだった。






ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


明日以降、平日に基本2話ずつ投稿していきます(後書きを書いている話がその日の最終投稿分になります)。

お昼の12時に1話、12時10分に1話の予約投稿になります。


アイビーの物語は始まったばかりです。

どうなっていくのか、楽しみにしていただければ幸いです。

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