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59 .雪うさぎ

寒さで目が覚めたアイビーは、いつもより白く感じる窓の外に視線を向けた。


「わぁ! 雪だわ!」


「夜中から降っていまして、王都でも珍しく積もっているんですよ」


起きたばかりでルアンを呼んでいないアイビーは、誰もいないと思っていた。

だから、一驚し肩を跳ねさせた。


恐る恐る声が聞こえた方に体を動かすと、ルアンが毛布を手に持って立っている。


「ルアン、おはよう。びっくりしちゃった」


「すみません。驚かせるつもりはなかったんです。寒いかもと思い、毛布をお持ちしたんですが遅かったみたいですね。もう少し眠られますか?」


「ううん、目が覚めちゃったから起きるわ。外で遊びたいの」


「外でですか?」


「うん。雪が降るとね、チャイブがいつも雪うさぎを作ってくれたんだ。雪うさぎ可愛いんだよ。これくらいの大きさでね。赤い実で目を作るんだけど、赤い実が見当たらない時は石だったりしたの。でも、赤い目の方が可愛いの。だから、雪が降っている間は赤い実と細い葉を探して、止んだら雪うさぎを作ろうと思うの。たくさん作って、みんなを驚かせるんだ」


両手を使って一所懸命説明していたアイビーが、動かしていた手からルアンに視線を戻すと、ルアンは真っ赤になって涙目で悶えていた。

鼻息が荒く、体全体で息をしていて心配になる。


「ルアン、大丈夫?」


「もう少しで鼻血が出そうでしたが大丈夫です」


興奮しただけで鼻血を出されたことがないアイビーは、ルアンの言葉がよく分からなかった。


鼻血といえば、殴られたり顔面から転けた拍子に出るものだ。

持っている毛布を握りしめていただけのルアンから出ることはないのに、と奇怪で仕方がない。

後でチャイブに聞こうと思い、首を傾げるまでで留めておいた。


普段よりも着こまされたアイビーは、足取り軽く部屋を後にする。

玄関ホールに到着し、ルアンがチャイブを呼びに行ってくれる。


午前中アイビーの側にいるのは、チャイブの役目になる。

部屋で待っていてもよかったが、はやる気持ちから玄関ホールまで来てしまったのだ。


アイビーがホールにある椅子に座って静かに待っていると、執事長であるシュヴァイが足早にやってきた。


「お嬢様、おはようございます。お1人ですか?」


いつ会ってもシュヴァイは、にこやかに微笑んでいる。


「おはよう。今ね、外に行くためにチャイブを待っているの」


「チッ、愚弟め」


何か聞こえたような気がしたが、シュヴァイの口は弧を描いたまま固定されている。


「今、何か言った?」


「いいえ。何も話していませんよ。お嬢様は今日も可愛いなぁと、見惚れておりましたから」


どうやら気のせいだったらしい。

笑みを深めたシュヴァイが、閃いたように手を叩いた。


「お嬢様、よろしければ私にお供をさせていただけませんか?」


「でも、チャイブがもうすぐ来るよ」


「あんな奴放って、私とデートしましょう。それに、すぐにお嬢様を追いかけて外に来ますよ」


「うん、そっか、そうだね。早く外に行きたかったの。ありがとう、シュヴァイ」


「いえいえ。早速、出発いたしましょう」


笑顔で大きく頷いて、椅子から立ち上がった。


にこやかに微笑んでいるシュヴァイと外に出ると、辺り一面銀世界に様変わりしていた。

もうすぐ雪が止むのか、太陽が顔を覗かせている場所はキラキラと輝いていて、とても幻想的だ。

雪の絨毯はまだ真っ白なままだから、歩いて足跡をつけるだけで楽しくなってくる。


「お嬢様、寒くないですか?」


「うん、シュヴァイは寒くない?」


「はい。寒くないですよ。散歩は楽しいですか?」


アイビーは「うん」と笑って、シュヴァイにも雪うさぎの話をした。

すると、シュヴァイは「そういうことでしたか」と、赤い実がなっている一角に案内をしてくれた。


「わぁ! すごいね!」


「この実はネピの実といいまして、聖夜祭と祝福祭の時にジュースやお酒にしたものを飲むんですよ。なんでも精霊が大好きな実なんだそうでして、お供え物として飾る実は各家庭で育てるのが習わしなんです」


「そんな大切な実をいただいてもいいの?」


「大丈夫ですよ。雪うさぎを見て喜んでくれると思いますから」


「そうなんだ。じゃあ、精霊さんの分も作るね」


赤い実がなっている低木に向かって「少し分けてください。ありがとうございます」と手を合わせているアイビーを見て、シュヴァイは細くしていた目を線にするほど顔を溶かしている。


1粒1粒丁寧に摘んでいると、ドサッという音が聞こえ、アイビーは顔を動かしてから首を傾げた。

確かに音が聞こえたのに、雪が積もっている花壇と木しか見えない。


「ねぇ、シュヴァイ。音しなかった? 何かあったのかな?」


「木から雪が落ちたんじゃないでしょうか。あ、お嬢様。赤い実は私が持ちましょう」


シュヴァイが広げた白いハンカチを自身の両手の上に乗せて、アイビーの横にしゃがんできた。

アイビーは、小さい手から零れ落ちそうになっていた実を、ハンカチの上に移動させる。


「クローム様にお願いをして、雪が溶けない魔法陣を作ってもらいましょうか」


「お父様、そんなことできるの?」


「クローム様は天才ですからね。お嬢様のお願いなら必ず叶えてくださいますよ」


「うーん……うん。お願いしてみる」


「とても喜ばれると思います」


朝食の席で「雪で作った物を保存しておきたい」とクロームにお願いをしてみたら、シュヴァイが言ったようにクロームは幸せそうに頬を緩めながら請け負ってくれた。


「絶対に作るよ」と言ってもらえたアイビーは、張り切って雪うさぎ作成に取り掛かった。






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