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51 .アイビーの誕生日

1月21日。アイビーの誕生日であり、婚約パーティーが行われる日。


アイビーが目覚めると、祖父母とクロームとラシャンが並んで立っていた。

ドア付近にはチャイブとルアンもいて、アイビーは目を瞬かせる。


「せーの」


「「アイビー、11歳おめでとう」」


ラシャンの掛け声で、全員からお祝いを言われた。

目を見開いたアイビーの瞳には、嬉しそうに幸せそうに微笑む家族が映っている。

穏やかな笑顔から、愛情が漂ってくる。


すぐに「ありがとうございます」とお礼を伝えたかったのに、つっかえる喉と熱い目頭が邪魔をしてきた。


「アイビー、プレゼントがあるんだよ。ほら、こっちこっち」


近づいてきたラシャンに手を引かれ、ベッドから降りた。

クロームたちに囲まれながら案内された場所は、アイビーの部屋の近くにある1室だった。


「アイビー、開けてみて」


クロームに肩を掴まれ、前に押し出すようにゆるやかに促された。

家族全員を見上げると、みんな口を弧にして楽しそうにしている。


ゆっくりとドアを開けたアイビーは、本日3度目の驚きに顔を伸ばした。


「これ……全部、プレゼントですか?」


部屋に家具は一切なく、中央にリボンがかかったプレゼントが山のように盛られている。


「そうだよ。11年分の贈り物だよ」


「じゅ、ういちねん、ぶん?」


不思議そうにクロームを見上げると、潤んでいる瞳と目が合った。

同じように涙を溜めている祖父母に両側から手を取られ、プレゼントの山に向かって歩いていく。


「アイビー。実はな、アイビーがここにおらずとも、毎年アイビーの誕生日は祝ってたんだ」


「贈ることはできなかったけれど、いつか渡せる日がくると思って毎年用意していたの。やっと渡せるわね」


両側にいる祖父母を見上げると、慈しむように見られていて、呼吸の仕方を忘れてしまった。

機能が停止したというより、何かに邪魔をされて喉を塞がれているような感覚だ。

だから、声が出てきてくれないでいる。


「アイビー、僕のから受け取って。今までのは絵本とかもあるから今のアイビーには必要ないかもしれないけど、今年のは絶対に使ってもらえると思うんだ。絶対の絶対にアイビーに似合うと思うんだ」


自分の誕生日の時よりも舞い上がっているように見えるラシャンは、照れたように微笑みながら長方形の箱を山の中から選び、アイビーに差し出してきた。


だが、アイビーは受け取ることができない。

なぜなら、微笑んでいるラシャンも、ラシャンが大切そうに持っている箱も、滲んで見えなくなったのだから。


「アイビー!?」


ぼたぼたぼたぼたと勢いよく泣きだしたアイビーは、ドア付近に立っているチャイブ目掛けて走り出し、チャイブの足にしがみついた。


「うわーん!」


チャイブに頭を撫でられた後、両脇に腕を入れられて抱き上げられた。

チャイブの首にしがみつき、声を上げて泣き続ける。


公爵家に帰ってきてから温かくて幸せな日々を過ごしていたが、母親の話や母親を想う顔を見るたびに胸が痛んだ。


母親が亡くなったことは、チャイブは流行り病のせいだと口を酸っぱくして言ってくれるが、どうしても自分のせいだという気持ちが拭えなかった。


母親以外の家族については「いつか会えるよ。でも、遠い空の下にいるから、そのうちな」と教えてもらえなかった。


それは、母親を殺したのは自分だから嫌われて捨てられた、ということを隠す嘘なんじゃないかと、どこかで思ってしまっていた。


「どうしようもない理由がある」と話すチャイブのことを信用しているのに、落ちない黒い点が存在していたのだ。


家族に会えて、笑顔を向けられて、温もりを与えられても、染みついた黒い点が見えなくなっていただけで存在していた。


温もりを与えられれば与えられるほど、優しくしてくれる家族から自分が母親を奪ったんじゃないか、自分ではなく愛されている母親が生きていた方がよかったんじゃないか、という気持ちを消せなかった。


——嬉しい。嬉しい。嬉しい。生まれてきてよかったんだ。


ずっと祝ってもらえていたと知って、ようやく黒い点がなくなった。


自分は邪魔な存在ではないと分かって、心も体も軽くなった。


母親の話をされても、きっともう自分が母親の代わりに流行り病で死ねばよかったんじゃないか、と胸を痛めないだろう。


自分は母親と同じように愛してもらえていると、何も疑わずに胸を張ることができる。


大声で泣き続けたアイビーは、疲れたのかそのまま眠ってしまった。






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