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45 .ラシャンの誕生日

両陛下と対面した次の日の朝、カディスから手紙と宮廷料理人が作ったと思われるスイーツが届いた。


手紙には、昨日の夜に蝶々が問題なく陛下を治してくれたことと、お礼の言葉が綴られていた。

初日にもらったたった1行だけの簡素な手紙に比べたら、随分と丁寧に書いてくれている。


尊重されつつも仲が良くなれたような気がして、手紙を読む頬がわずかに緩んでしまった。


それからというもの、どこか穏やかになったカディスと数回会い、レガッタとは1回お茶会をした。


そして、やってきたラシャンの誕生日。


アイビーは早めに起きて身支度を整えると、ラシャンを起こしに行った。

誰よりも先に「おめでとう」を伝えるためだ。


アイビーの誕生日は毎年チャイブが祝ってくれていたけど、アイビーがチャイブを祝ったことはない。

「年をとりたくないから、俺の誕生日はないんだ」と、チャイブは誕生日を教えてくれなかった。


だから、アイビーにとっては、大切な人の誕生日を初めて祝える日になる。


音を立てないようにゆるゆるとラシャンの部屋のドアを開け、アイビーは顔を覗かせた。

ベッドには盛り上がりあり、部屋の中はとても静かだ。


そろりそろりと足を忍ばせ、ベッドの側に到着し、寝ているラシャンを見ようとした。

だが、ラシャンは布団に潜って眠るタイプのようで、頭の先しか見えていない。


——お兄様は、絶対眠っている顔も綺麗だと思ったのに。見られなくて残念だわ。


少し肩を落としそうだったが、ふるふると顔を横に振って、ラシャンを起こすために気合いを入れ直した。

息を大きく吸い込んだアイビーは、声を張り上げる。


「おにーさまー! おきてくださーい!」


途端に飛び上がるように布団から顔を出したラシャンは、慌てた様子で顔を左右に動かしている。


「え? え? アイビー?」


アイビーは、1発で起きたラシャンに数回瞬きをしてしまった。

チャイブの寝起きは悪く、男の人は全員、何度も声をかけないといけないと思っていたのだ。

それなのに、ラシャンは1回で起き、忙しなく目を白黒させている。


「あれ? 本当にアイビーだ。おはよう」


柔らかく微笑んでくるラシャンに、アイビーは今度こそしょんぼりした。


「お兄様、ごめんなさい」


「どうしたの?」


「もっと優しく起こせばよかったです」


「ううん、気にしないで。起こしてくれてありがとう」


優しいラシャンに胸がいっぱいになったアイビーは、どうにか気持ちを伝えたくて、ベッドから降りようとしているラシャンに飛びついた。

後ろに倒れつつも抱き留めてくれたラシャンは、クスクス笑っている。


「お兄様、誕生日おめでとうございます」


「嬉しい。ありがとう」


少しの間抱き合っていたら、アイビーの叫んだ声が廊下に漏れていたのか、様子を見にきたクロームに覆い被された。

「おもーい」と言いながらラシャンとアイビーは笑い、クロームは和やかで幸せな朝に涙目になっていた。


アイビーは、用意が終わったラシャンをアトリエに案内し、早速プレゼントを渡した。

抱きしめてくるほど喜んでくれるラシャンに、アイビーも嬉しくなり柔らかく抱きしめ返す。


絵はラシャンの部屋に飾ってくれるようで、ラシャンは侍女に指示を出していた。


温かい朝の時間が終わり、パーティーが始まる前にアイビーはアトリエに身を隠した。


パーティーには使用人を総動員しているが、チャイブとルアンはアイビーの側にいる。


賑やかな喧騒を遠くに聞きながら昼食を食べ、アイビーは窓から見える庭の景色を描いていた。


「お嬢様、誰かが来ます」


「え? 隠れなきゃ」


と言っても、アトリエに隠れる場所なんてない。


部屋を隈なく見渡していると、チャイブによってルアンの後ろに隠された。

ワンピースのスカートが侍女服からはみ出さないように、手に持たされる。


「ルアン、決して動かないように」


「はい」


チャイブの足音は、掃き出し窓に向かっている。


「あ、そこの人。ラシャンの妹って、どこにいるか教えてくれない?」


とても明るい声が聞こえてきた。

ラシャンと同じ年くらいだろう男の子の声だ。


「本日のご招待客様でいらっしゃいますね。公子様のお祝いにお越しいただき、誠にありがとうございます」


「そういうのはいいから、ラシャンの妹に会いたいんだよ」


「大変申し訳ございませんが、お嬢様は本日どなたにもお会いになられません。どうしてもと仰られるなら、ヴェルディグリ公爵様をお通しください」


「あのさ、本当にそういうのはいいの。一目見るだけでいいんだよ。妖精姫の再来っていう顔を見たいんだよ」


「申し訳ございません」


「まぁ、どうせこの部屋にいるんでしょ。じゃなきゃ、この部屋に使用人が2人いるっておかしいもんね」


小さな物音が聞こえてきたと思ったら、次は鋭い声が耳に届いた。


「離せよ。俺の権限で使用人の1人くらい殺せるよ」


「いいえ。私を罰せられるのはヴェルディグリ公爵家だけですよ。私より、イエーナ・クレッセント公爵令息様。あなた様の方が、このようなことをしているとバレたら困るんじゃないですか?」


チャイブが放った言葉に、アイビーは1人で大きく頷いていた。






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