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44 .解毒

陛下が、ハンカチを巻いている手に一度視線を落としてから、クロームを瞳に捉えた。


「公爵。解毒ができるということは、この毒が何の毒で、敵の目星がついているということか?」


「いいえ。全く見当がつきません」


「そうか。では、私がそこまで体調不良に見えたのだな」


「いいえ。私には、いつもの陛下との違いは分かりませんでしたよ」


怪しむように見てくる陛下に、クロームは至って冷静だ。

アイビーがクロームを見上げると、クロームは朗らかに微笑み、アイビーの頭を撫でて軽く抱きしめてきた。


これには、王家側の3人は呆然としている。

抱きしめられたアイビーも、どうして今抱きしめられているのか分からない。


アイビーの背中を優しく叩いたクロームは、姿勢を正した。


「今からお話しすることは、絶対に口外なさらないとお約束ください」


「いいだろう」


「君もね」


クロームは、カディスの後ろに立つフィルンに念押しし、きちんと頷かせている。


「まずは、陛下。辛いと思いますが解毒は明日行います。本日はもう一度、宮廷医に診てもらってください。魔道具に反応する毒が体内にあるんです。それが分からないようであれば宮廷医失格です」


「なるほど。分からなければ腕がない。分かっていても言わないのであれば敵ということだな」


「はい。そこから探ることができます。もしかしたら、陛下の体調を逐一報告しているかもしれませんからね」


「いい考えだ」


「次に解毒に関してですが……アイビーが行います」


「アイビーが? まさかその年で、もう薬師の適性があるのか?」


何かに思い当たったのか、目を大きく見開いたカディスが立ち上がった。

アイビーを注視しながら溢れた言葉は、本当に小さかった。


「……精霊魔法」


陛下は、呟いたカディスを見た後、勢いよくアイビーに顔を向けてきた。

アイビーは、愛らしく微笑んで小さく頷いている。


「なんと……ヴェルディグリ公爵家は素晴らしいな! 前公爵夫人が健在だというのに、アイビーも発現するとは」


陛下は声を上げて笑っていて、カディスは力尽きたようにポスンと腰を落とした。


「君が頑張っているのは知っていたけど、もう使えるようになっていたなんてビックリだよ」


「今も毎日頑張っています。楽しいですよ」


明るく言い切るアイビーに、カディスは目を点にした後、お腹を抱えて笑いだした。


ここまで笑うカディスを初めて見るヴェルディグリ公爵家側は目を丸くしていて、陛下とフィルンは久しく見る姿に目元を緩ませている。


「公爵、こんなにも素晴らしいことを、どうして秘密にするんだ? 発表して祝うべきだろ」


「いいえ。これ以上アイビーが狙われるのは困りますから。それに、いざという時の切り札にしておきたいのです」


「一理あるか」


「本当なら陛下にだってお伝えするつもりはありませんでしたよ。でも、アイビーが陛下を助けたいと言うものですから」


「そうか。私は今日アイビーに会っていなかったら、死んでいたということだな」


「そうなりますね」


簡単に言い切るクロームに、陛下がまた愉快そうに笑っている。


「幸運とアイビーに感謝しなくてはな。命の恩人を絶対に守り抜くと改めて誓おう」


「ありがとうございます」


話に一区切りついたからか、壁際に控えていたチャイブがアイビーの近くにやってきた。


「お嬢様。おうかがいしたいのですが、蝶々さんはお嬢様から離れても問題ありませんか?」


アイビーは、人差し指を頬にあて首を傾げた。

視線は、チャイブではなく斜め下を向いている。


「うーん、うん。半日なら大丈夫みたい」


満面の笑みで頷くアイビーを、チャイブは慈愛に満ちた瞳で見ている。


それを気に食わないクロームが、小さな子供のように2人の間に腕を差し込んで大きく上下に振ってきた。


チャイブは、呆れたように息を吐き出し、クロームの腕を軽く叩いている。

そして、睨んでくるクロームを無視して、フィルンに話しかけた。


「すぐに小さな鳥籠か虫籠を用意できますか?」


「可能です」


「では、用意をお願いいたします」


説明を待っている陛下とカディスに、チャイブは「私からで失礼いたします」とアイビーの能力について話しはじめた。


蝶々を具現化して、その蝶々が治療をすること。

すでに1人治しているから問題ないこと。


連日続けてアイビーが登城し陛下に会うのはおかしいから、蝶々を置いていくので宮廷医の診察後に隠れて治してほしいこと。


そして、捕まえない限り毒は続くのだから、今ほど体調が悪くなったら連絡をしてほしいことを伝えていた。


「そうか。ならば、私が退出した後に窓から蝶が入ってきたことにし、カディスが夜見せにくるという方がより自然だな」


「はい。見られた後は、可哀想だから逃してあげたことにしていただければと」


「いい案だ。誰も蝶の行方など気にはしないだろう」


綺麗に頭を下げるチャイブに、アイビーは誇らしい気持ちでいっぱいだった。

さすがチャイブ。とても頼りになる元師匠だ。


「では、早速」と腰を上げた陛下は、クロームとアイビーにお礼を言い、部屋を出ていった。


わざと10分ほど開けてから、フィルンが虫籠を取りに行き、アイビーはカディスの目の前で蝶々を手のひらから出した。


感嘆の息を漏らしたカディスは、初めて見る精霊魔法に顔を輝かせている。


アイビーは蝶々に「後で陛下を治してあげてね」とお願いをし、蝶々はアイビーの周りを1周すると虫籠の中に自ら入っていった。


優秀すぎる蝶々に、カディスが胸を高鳴らせていると見ていて分かるほど、カディスはお人形さんではなく少年に見えたのだった。






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