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35 .ヒステリックな侍女長

疲れて寝坊をしてしまった昨日とは違い、アイビーは朝早くに目を覚ました。


ルアンを呼ぶには忍びない時間だが、本邸で1度遠慮をしてマラガに怒られている。

1度失敗したことは2度と失敗しないように心掛けているので、心を凍らせてルアンを呼ぶベルを鳴らした。


身を縮めていたが、ルアンは元気よく部屋に入ってきてくれたので、凍らせたはずの心はホカホカと暖かくなり、アイビーは弾む声で「おはよう」と言えたのだった。


ルアンに手伝ってもらった支度が終わり、朝ご飯の時間までチャイブと庭を散歩することにした。


庭の一角に色とりどりのシクラメンが咲いていて、思わず「可愛い」と声に出してしまった。


アイビーの声が聞こえたのだろう。

手入れをしていた庭師が、シクラメンを摘んでアイビーに渡してくれた。


「ねぇ、チャイブ。このお花を、お兄様のお部屋にも飾っていいと思う?」


シクラメンの花を抱えるアイビーの姿を、すれ違う使用人たちは目尻を下げながら見ている。


もちろんアイビーは、声に出したり頭だけを動かしたりして挨拶をしている。


「お嬢様がされることは何でも喜ばれますよ。しかしラシャン様だけですと、クローム様たちがラシャン様を羨ましがられますよ」


「でも、お父様たちのお部屋にも飾れる量はないわ」


「後で私が庭師に伝えときますよ。ですので、そのお花は全部お嬢様の部屋に飾られたらいかがでしょうか?」


「分かったわ、そうする。でも、私が伝えに行くわ。私のお願いだもの」


「かしこまりました。訓練前にもう1度行きましょう」


「うん」


元気よく返事をした直後、アイビーは大きく首を傾げた。


廊下の先から、鬼婆かと思うような顔で侍女長が歩いてくる。


機嫌が悪い人とは関わりたくないので、そのまま横を通り過ぎようと思っていたのに、通せんぼをするように侍女長に進行方向を阻まれた。


「お嬢様、一体どういうことでしょうか?」


「なにが?」


「はぁ。本当にどうして、こんなにも会話ができないのでしょう」


盛大に息を吐き出されるが、アイビーにはため息も言葉の内容も意味が分からない。

不思議そうに侍女長を見つめたままだ。


その姿が侍女長の癪に障ったのか、先ほどよりも瞳を鋭くしている。


「公爵家の恥晒しという言葉が難しすぎたほど、お嬢様に理解力がないことは分かりました。よろしいですか? 公爵令嬢たる者、花を抱えて歩くなど言語道断です。言語道断って分かりますか? やってはいけませんということです。下の者を使えないガサツな今のお嬢様は平民以下です。しかも、その花は庭の花ですよね?」


「うん、そうだよ。庭師の方が摘んでくれたの」


「本当に頭の中が空っぽなのですね。公爵家の庭の景観を損なうことをしてしまっているんですよ。お嬢様のせいで公爵家が馬鹿にされるんですよ。世話になっている身で、よくそんなことができますね。性格が悪い証拠ですよ。全く、何も分かっていないお嬢様の言うことを聞く庭師には、罰を与えないといけませんね」


アイビーは「なるほど」と思いながら、どうしても納得できないことがあり「うーん」と小首を傾げた。


「どうして侍女長が庭師に罰を与えるの?」


「はい? お嬢様、どこまで会話が理解できないのですか?」


「私がどうこうじゃなくて、侍女長は侍女を統括する人だよね。もし庭師を怒るんだとしても、それは侍女長の仕事じゃないでしょ」


「私は、このお屋敷を任されているのです。侍女だけではなく、全ての人間を教育する義務があるんです」


「そうなんだ」


「まぁ、呑気なお嬢様に、私の仕事は到底理解できないと思います。責任の重さが違いますから」


言い終えた侍女長に、胸に抱えていたシクラメンを勢いよく引っこ抜かれた。

全部を一気に剥ぎ取った侍女長は尖った瞳で花を見た後、その視線をアイビーに向けてきた。


「もう2度と勝手なことはいたしませんようお願いします。自由にしたいのなら公爵家から出て行かれたらよろしいかと」


侍女長は冷たく言い放つと、花を握り潰すように持ち去って行ってしまった。

すれ違い様にチャイブを睨んでいたが、チャイブは侍女長を見る素振りさえ見せていない。


アイビーは、花を抱えていた手を見ている。


「お嬢様、どうされますか?」


「お花……」


チャイブは、アイビーの目の前に屈んで、アイビーの手を取った。


「お花は、また摘んでもらえばいいですよ」


「うん、そうだね」


「先にあのババアをどうにかしましょう。ヒステリックは鬱陶しいだけですからね」


「私に対しては無視すればいいと思っていたけど、親切な庭師さんを助けてあげないとね」


柔らかく微笑んだチャイブは、立ち上がり様にアイビーの頭を撫でた。


チャイブの手の重さが心地いいアイビーは、頬を緩ませながらチャイブを見上げる。


「行きましょうか」


大きく頷いたアイビーは、その足で食堂に向かったのだった。






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