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31 .怒る侍女長

昼下がり、アトリエになった部屋の中を探索していたら、チャイブが呼んでいると侍女が伝えにきた。

王女殿下を乗せた馬車が、正門を通ったそうだ。


侍女にお礼を言い、王女殿下を出迎えるため、午後から側で仕えてくれているルアンとエントランスに向かった。


廊下を進んでいると、先の方から怒鳴っているだろう声が聞こえてくる。


「喧嘩かな?」


「侍女長が1人で怒っているんじゃないでしょうか」


「どうして?」


「んー……今、王女殿下が来られることを知ったとかだと思いますよ。私もチャイブ様に口止めされておりましたから、誰も報告をしなかったんだと思います」


「そうなんだ」


——チャイブと喧嘩しても、絶対侍女長が負けると思うのにな。チャイブを怒らせたら血の雨が降るんだから。


チャイブが注意する時によく「俺を怒らせたら血の雨見せるからな」と言われていたが、実際に血の雨を見たことはない。

ただ、それを言う時のチャイブは、魔王と錯覚するほど恐ろしいのだ。

半泣きになって謝ったことは何度もある。


エントランスに着くと、ルアンの予想通り、侍女長がチャイブに詰め寄っていた。

だが、チャイブは素知らぬ顔で、話に耳さえ傾けていない。


アイビーが到着したことに気づいた侍女長が、目を吊り上げながらアイビーに近寄ってきた。


「お嬢様! どういうことでしょうか!」


「なにが?」


「はい? 今の状況を理解されていないのですか?」


蔑むように鼻で笑われ、見下すように見られる。


ルアンが鬼の形相で抗言しようとしていることに気づき、アイビーが可愛らしい笑みをルアンに向けた。

それだけで、ルアンは骨向きにされたように体を揺らしている。


アイビーは笑顔を消し、いまだにアイビーを見下げたままの侍女長に顔を戻した。


「今の状況って、もうすぐ王女様が来られること?」


「そうです。分かっていて、どうして私に何も言わないのですか? 社交界を勉強していないお嬢様が対応できるとお思いですか?」


——たしかに社交界の勉強はしていないわ。チャイブは「あれは経験しかない」と教えてくれただけだもんね。でも、遊ぶだけなのに社交界を知っていないとダメなのかな。カディス様に会った時は、誰も何も言わなかったけど。分からないから、後でチャイブに聞かないとだな。


それよりもと、アイビーは気になったことを尋ねてみた。


「どうして侍女長に言わないといけないの?」


「それさえも分からないのですか? 全く自由気ままに過ごされすぎではありませんか」


「分からないわ。私の執事はチャイブで、侍女はルアンよ。侍女長は侍女たちを統括するお仕事でしょ。私を手伝うお仕事はないはずよ」


侍女長に、盛大なため息を吐かれた。


斜め後ろにいるルアンから再び怒りの熱が伝わってきて、自分のために怒ってくれているということが嬉しくてむず痒くなる。


ただ、先ほど同様、もしルアンが抗議しそうなら、笑顔で止めないといけない。

侍女が侍女長に刃向かったら、罰を与えられるかもしれないし、アイビーの侍女じゃなくなってしまうかもしれない。

優しくしてくれるルアンが、アイビーのために叱られるのは嫌だ。


「そうです。侍女たちを教育し、指示を出し、管理をすることが私の仕事です。ですので、急な来客、しかも王族となれば準備の指示を出すのも、人員を配置するのも私の仕事になります。ここまで言えば分かりますか?」


「侍女長の言ったことは分かったわ。でも、チャイブとルアンがいれば大丈夫なの。他の侍女たちの手を借りないから、侍女を貸してほしいと侍女長にお願いしないのよ。それでも侍女長に言わないといけないの?」


「当たり前です。この屋敷で起こること全てを把握しておく必要がありますから」


「そうなのね。分かったわ。次からは伝えるようにするわ」


微かに馬車の音が聞こえはじめ、王女殿下の到着を教えてくれている。

アイビーは、足早に侍女長の横を通り過ぎようとした。


「まだ話一一


侍女長の腕が伸びてきたような気がして振り向いたら、数メートル先にいたはずのチャイブと目が合った。


チャイブが戦っているところを見たことはないが、強いという確信はアイビーの中にある。

だが、瞬間移動並みの速さでアイビーと侍女長の間に入ってきたチャイブに、アイビーさえも瞳を瞬かせた。


ルアンや侍女長は、息を飲み込んでいる。


「お嬢様。急ぎませんと、お出迎えできませんよ」


「うん、急ぐわ」


固まっている侍女長を無視して、チャイブはルアンの肩だけ軽く叩き、アイビーの後ろを追ったのだった。






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