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130.カディスの好きな人

「ん? あれ ?カディス様の話って、好みのタイプっていうより好きな人がいるみたいに聞こえたんですけど……まさか、いるんですか!? 誰ですか? 私、婚約者役をしてていいんですか?」


「あー、うん、いいよ、いい。むしろ、やってもらわないと困る」


「問題ないのならいいですけど」


「問題ないよ。アイビーじゃなきゃダメなんだから」


「分かりました。私以上に可愛い子っていませんもんね。これからも頑張りますね」


「あー、そうだね。僕も頑張るよ」


馬車が止まり、ドアがノックされてから開けられた。

顔を見せたチャイブが、不思議そうに馬車内を見渡している。


「何かありましたか?」


「ないよ」


肩を落としているカディスをカフィーがチラッと見てから降り、苦笑いしているフィルンと、ニヤニヤし出したチャイブを睨んだカディスが後を追った。

最後にアイビーが降りようとしたら、チャイブではなくカディスが手を出してくれている。

外に出た瞬間からラブラブを見せつけないとと、カディスの手を取り、微笑みながら馬車から降りた。


「早速ラキテキルルから。と言いたいところだけど、やっぱりね」


カディスが呆れ顔で見ている視線の先から、大きな馬車と小さな馬車の2台が近づいてくる。


「もしかして……」


「どう見てもクレッセント公爵家の馬車だね。中にはきっとレガッタ・イエーナ・ラシャン・ルージュが乗っているんだと思うよ」


「お兄様とは、お土産を買って帰ると約束していますよ」


「いらないよ。絶対に乗っているから」


アイビーたちが乗ってきた馬車の隣に停まった馬車から、元気よくレガッタ・イエーナ・ルージュ、そしてラシャンが降りてきた。

小さい馬車からバーミたち使用人が姿を見せる。


「まぁ! お兄様にアイビー、奇遇ですわね」


「アイビーもここにラキテキルルを買いに来たんだね。僕もレガッタ殿下に誘われて、もう少し買おうと思って来たんだ」


「いい天気ですからねぇ。買い物日和ですよね。楽しみです」


「ラキテキルルの球根を買うのよね? だったら、可愛い鉢も必要ね」


ニコニコ顔の4人を順番に見てからカディスに視線を向けると、カディスも横目でアイビーを見ていた。

目で「仕方ないね」「そうですね」と会話し、同時に吹き出す。


「レガッタ、追いかけてきたんでしょ」


「違いますわ。偶然にも行き先が同じだったんですわ」


「分かった、信じるよ。でも、僕とアイビーは今日デートだからね。別々に見て回ろうね」


「まぁ! お兄様ってば意地悪ですわ」


「追いかけてきていないんでしょ?」


「そうですわ。でも、偶々会えた妹や友人を蔑ろにするのは、よろしくありませんわ」


「素直に、一緒に買い物したいから来たって言えばいいのに」


ぷくっと頬を膨らませるレガッタに、カディスは呆れながらも柔らかく微笑んでいる。


「まぁ、いいや。みんなでラキテキルルの球根と鉢を買って、聖夜祭と祝福祭の飾りでも見よう」


「そうですね。贈る用じゃなくて、誰の花が1番大きく咲くか勝負してもいいですしね」


「まぁ! アイビーは天才ですわ! とっても楽しそうですわ!」


「きっとアイビーの花が1番大きいだろうね」


「育てるだけですから、私でも勝てそうですね」


「しまったわ。球根について調べたことなかったわ」


わいのわいのしながら、アイビーの隣をカディスとラシャンが歩く。

レガッタを真ん中に、ルージュとイエーナは後ろをついてくる。


「アイビーは、何色の花が欲しいとかある?」


カディスに問われ、考えたことがなかったアイビーは悩みながら答えた。


「どの色のお花も綺麗ですから、特にこの色がというのはありませんが……カディス様がくださったイヤリングのバラがとても可愛かったので、青色の他の花も見てみたいなとは思っています」


「嬉しいよ。じゃあ、アイビーに渡すラキテキルルは、青色に咲いてくれたらいいな」


「去年は青色に咲いたラキテキルルはありませんでした。私も青色があったらいいなぁと思います」


「僕は緑色があったらいいなって思うよ」


「殿下」


ラシャンの声は威嚇するように少し低かったのに、カディスはニッコリと効果音が付きそうな笑顔をラシャンに向けた。


「ラシャンも緑色がいいんじゃないの? エーリカ令嬢に贈るにはピッタリな色じゃないか」


「エーリカ嬢は何色でも喜んでくれますよ。それに、欲しい色を咲かせるって無理ですから」


「まぁね。でも今年は無理でも、来年以降もあるからね。やっと咲いたねって言い合えるのもいいんじゃないかな」


「あればいいですね」


——ん? そんなに青色も緑色も難しいのかな? 確かに去年は赤色とオレンジ色が多くて可愛かったけど、咲かないわけじゃないんだよね? だったら、いつかは見れそうな……


カディスとラシャンの会話の意味を考えていたアイビーは、「あ!」と思い至った。


——そっか。さっき聞いたんだった。カディス様には好きな人がいる! カディス様とその人が上手くいけば、成人を待たずに婚約破棄になるから、私とカディス様が贈り合うことはなくなって、その色の花が咲いてもすぐに報告もできなくなるんだ。だって、今みたいに毎日会えなくなるもんね。それにカディス様と、こんな風に遊ぶことも話すことも少なくなるんだよね。


時には言い合い、時には笑い合っているカディスがいなくなる日常を想像し、弾んでいた胸が萎んだ気がした。


——あれ? なんか寂しいな。うん、寂しい。


「アイビー? どうしたの?」


ラシャンに覗き込むように尋ねられ、俯いていたことに気づいた。

カディスと今みたいに話せなくなることを想像して寂しくなったとは、なぜか言いづらくて、微笑みながら首を横に振った。


「ラキテキルルを何個買おうか悩んでいたんです」


「好きなだけ買うといいよ」


「はい。チャイブやカフィー、ルアンにも渡したいですし、ジョイにも贈りたいです」


「ジョイにだったら、お父様にお願いしたら届けてくれるよ」


「相談してみます」


「アイビー、着いたよ。この店で買うみたい」


カディスに声をかけられ、ラシャンと一緒に足を止めた。

後ろからレガッタの「あのお花、可愛いですわ」という楽しげな声が聞こえてくる。


道案内をしてくれたチャイブが開けてくれたドアから、順番に中に入った。

そして、用意されていたラキテキルルを全員で真剣に眺め、勝負用の1つをそれぞれ選んだのだった。






これにて、第2章完結となります。

色んなことが詰め込めれた第2章でした。

みんな頑張った、と褒めてあげてください。

まだ1文字も書いていない第3章ですが、カディスにやきもちを妬かしたり、アイビーの気持ちに進展があったり、他にも色々起こる予定です。

投稿予定は未定ですが、楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

リアクションもブックマーク登録も、とても感謝しています。

皆様、本当にありがとうございました。

第3章にて、またお会いできますように。

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