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128 .スペクトラム公爵家の裏側

「もうね、本当にお父様が情けないのよ。信じられないことに……」


言葉を切ったルージュは、辛そうに瞳を閉じた。

そして、小さく深呼吸をしてから、唇を震わせながら口を開いた。


「ダフニはお父様の子供なのよ。お母様がいるのに、お父様は愛人を作っていたの。最低でしょ。お祖父様は当初ダフニを迎え入れるのを反対したわ。お父様の醜聞が露見するのを恐れたからよ。でも、お父様は譲らなかった。だからお祖父様は、今後お母様だけを愛することを誓わせて……ダフニが小さい時に負った火傷を利用したの……」


時間が止まったような気がした。

それほどまでに空気が凍りついたのだ。


「それなのに……お父様もそれを知っているはずなのに……お祖父様が家族の誇りを守るために、わざと演技しているだけなのに、いつの間にかお父様は、お祖父様がそう言っているんだから使えるはずだって思い込んだのよ。お祖父様は、本気で殿下の婚約者にダフニを推したわけじゃないわ。あれは本当のことがバレないための演技なのよ。それなのにっ」


瞳から涙を溢し始めたルージュに、カディスがハンカチを差し出した。

そして、視線を彷徨わせてから、ルージュに問いかけた。


「ルージュ。もしかして、アイビーへのプレゼントをお祖父様が許したのって……」


「そうよ。アイビーを王妃として認めるって意味よ。アイビーの人気は高まったし、お父様とダフニが馬鹿なことをし始めたから、お祖父様としての意思表示をプレゼントに込めたのよ」


「馬鹿なこと? だから、ルージュが襲爵することになったの?」


ルージュがゆっくりと頷く姿を、みんな静かに見守る。


「私が公爵になるのはいいのよ。どうせお父様の次に継ぐ予定だったから。お祖父様もこれ以上お父様が気狂いしなければ、お父様に譲っていたと思うわ」


「何を……」


会話しているカディスの声には、動揺と困惑が滲み出ている。


「お父様とダフニは、殿下の婚約者の座を得るために、隣国を巻き込むつもりなのよ」


今度は、気がするじゃなくて、本当に時が止まった。

誰も瞬きすらできない中で、アイビーだけが「キャンティ会長が教えてくれた話かな」と考えている。


「どう協力してもらうつもりかは知らないけど、バイオレット・メイフェイアに会いに行くらしいわ。もうお祖父様はカンカンよ。お父様は『ダフニも私の子供です。父上の孫です。ダフニが生涯困らずに生きていく道を得ようとするのは、そんなに愚かなことですか? この子の幸せを考えてはいけないのですか?』って反抗したの。だから、お父様をとばして私が後継者になったし、アイビーへのプレゼントも利用されることになったのよ。お願いしに行った時はこんな話じゃなくて、笑いながら許してくれたのに……今となっては親子喧嘩の一部にされたの。ごめんなさい、アイビー。あなたの誕生日にこんな話をして、あんなプレゼントをしてしまって……本当にごめんなさい……」


ルージュに頭を下げられて、アイビーはゆるく首を横に振った後、柔らかく微笑んだ。


「ルージュ様。私はルージュ様に祝っていただけたこと、ルージュ様からプレゼントを頂けたことを、本当に感謝しています。とっても嬉しいんです。ルージュ様が私たちに話してくれたことも、不謹慎ですが喜んでいます。だって、ルージュ様とは唯一無二の友達になれているってことですから。だから、今日という日は幸せしかありません。それに、私、本当に友達が欲しかったんです。レガッタ様、ルージュ様と友達になれたから、この1年楽しかったんですよ。私と友達になってくださり、私の誕生日を祝ってくださり、本当にありがとうございます」


顔を上げたルージュはポロポロと泣いていて、「アイビーはバカよね」と小さく笑ってくれた。


「私から1つ言いたいことがありますわ」


流れかけた温かい空気を壊すように、レガッタが勢いよく立ち上がって腕を組んだ。

頬も膨らませていて、明らか拗ねている。


「アイビーへのプレゼントは、私とルージュとイエーナの3人で悩みに悩んで決めたものですわ。ですから、あのプレゼントには、私たちの気持ちが詰まっていますのよ。それを大人たちがどうしようが、知ったことではありませんわ。大事なのは、アイビーを想って私たちが贈ったということですわ。だから、あんなプレゼントと言うのは止めてくださいまし」


「そうですよ! 私たちの気持ちがこもっているんです! あれ、本当に高くて……お小遣いの大半がなくなったんです。レガッタに言われた時、冷や汗ものでした。でも、相手がアイビーだから止めなかったんです。ルージュもそうでしょう。大切な想いが詰まっているでしょう」


イエーナの真剣な顔にアイビーは吹き出し、レガッタとルージュは目を点にし、ラシャンとカディスからは呆れたような息が漏れた。


「イエーナ。ダサいよ、ダサい。レガッタの言葉まで安っぽくなった」


「僕は同じ公子として恥ずかしいよ。贈り物の値段は言うべきじゃないからね」


「待ってください。私も、ルージュを励まそうとしなければ言いませんよ」


「そもそも私は、あれくらいは出して当たり前と思っているわよ。だから、そんな葛藤もなかったわ」


「え? 嘘ですよね、ルージュ。私よりお小遣い多いんですか?」


「イエーナ、止めてくださいまし。私までなぜか恥ずかしいですわ」


「でも、ルージュより少なかったらお父様に抗議して、増やしてもらえるかもなんですよ。そうしたら、レガッタに美味しい物をもっと買えるかもなんですよ」


「まぁ! それは重要なことですわ! ラシャン様にもおうかがいして、合わせてもらいましょう」


「嫌ですよ。僕は言いませんよ。ただお小遣いで困ったことはありません」


「ラシャン様が答えないなら、私も言わないわ」


「どうしてですか? お小遣いの金額くらい、さくっと教えてくださいよ」


話題が変わったことで話しやすくなったんだろう。

一気に盛り上がった雰囲気に、ルージュは普通にお喋りしている。

まだ悲しそうな色は窺えるが、涙が止まっていることに安心する。


ふいにカディスと視線がぶつかり、カディスがイエーナを見て肩をすくめるから、アイビーは可笑しくて小さく笑ったのだった。


ルージュの衝撃の内容と、キャンティ会長が教えてくれたことを、アイビーはチャイブにだけ話した。

チャイブは、「あの男、マジで碌でもねぇな」と冷めた目をしていた。


ルージュの父親であるコロラド・スペクトラムは、小さい頃、母であるティールのことが好きだったらしい。

そして、外堀から埋めようとしたのか、婚約者になれなかった腹いせなのか分からないが、婚約をしていないのに「婚約をした」と周りに吹聴したことがあるそうだ。

「あの時のスペクトラム公爵の怒りも凄まじかったけどな」と溢していた。


昔の話はともかく、バイオレットに接触しようとしている以上、バイオレットともダフニともどう関係が変わるか分からない。

嫌な想像になるが、バイオレットとダフニが手を組む可能性もあるから、今まで以上にバイオレットとの手紙のやり取りは気をつけようという話になった。


ダフニに変な動きがあれば、ルージュが教えてくれることになっている。

キャンティ会長も、何か掴んだ時は手紙を送ってきてくれるだろう。


カディスがダフニを好きにならない限り婚約者役を代わることはないのだから、より一層、誰も2人の仲に割り込めないと思わせられるように頑張ろうと気合いを入れたのだった。






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