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127 .ルージュの報告

レガッタが予想した通り、ルージュが閉幕ギリギリの時間に姿を見せた。


「遅くなってごめんなさいね。アイビー、お誕生日おめでとう」


「ありがとうございます、ルージュ様。まさかレガッタ様の言う通りだったとは驚きました」


「レガッタ様? 私がこの時間に来るって知っていたの?」


「知っていたというより、パーティーが終わればゆっくりとお茶ができるから、それを狙って来られるんじゃないかという予想ですね」


アイビーは可笑しそうに笑みを溢すが、ルージュは呆れたように小さく息を吐き出した。


「お茶がしたくてじゃないけど、まぁ、してもいいわね。アイビーは疲れていないの?」


「運動をするとかじゃなければ大丈夫です」


「運動だなんて、イエーナが絶対無理よ」


「それもそうですね」


2人で顔を合わせて笑っていると、ルージュが笑っている姿が珍しいのか、アイビーを注目していた人たちが騒ついた。

それに気付いたルージュが笑いを消し、軽く咳払いをしている。


「レガッタ様たちと一緒にいるわ」


「はい、また後でゆっくりお話ししましょう」


頷いて去っていくルージュの背中を見送り、アイビーはパーティー終了時間まで、たくさんの人たちと会話を繰り返したのだった。


「着替えを持ってきたらよかったですわ」


温室に移動し、椅子に座った時のレガッタの一言目である。

もちろん着替えられるアイビーもラシャンも着替えていない。

時間も時間だし、待たせるのは申し訳ないからだ。


「誰もパーティーの後にお茶をしようなんて考えないからね」


「そうですよ。普通は解散ですよ。でも、私としては休憩できて助かりました」


テーブルにぐでっと上半身を預けるイエーナを、カディスが「だらしないね」と突っ込んでいる。


「アイビー、プレゼントは入場時に預けているわ。中の物は気にしなくていいわよ。許可はもらっているから」


「レガッタ様、ありがとうございます」


「ってことは、お祖父様が許したんだね。明日、矢が降り注ぎそうだよ」


レガッタは「私が話した通りでしょ」というように勝ち気な顔をカディスに向けるが、カディスはわざとらしく遠くを見て気付かないフリをしている。

怒るレガッタ、聞こえないフリをするカディス。

疲れているはずなのに、元気な兄妹である。


ルージュが、紅茶を口に運んでから話し出した。


「すぐにバレることだから、みんなに話しておきたいことがあるの」


それぞれ崩していた姿勢を正し、ルージュに顔を向けた。

ルージュは、カップの中の紅茶を見つめていて、視線が上がりそうにない。


「どうしたんですの、ルージュ」


レガッタの言葉に、アイビーも首を傾げながらルージュの言葉を待つ。


「お祖父様がいつまで元気か分からないけど、私が正式にお祖父様の後を継ぐことになったわ」


アイビーは純粋に「ルージュ様、すごい」と驚嘆したが、空気がなぜか重たく、お祝いを述べられそうな雰囲気ではない。


ルージュの声に緊張が含まれていた気はするが、重大発表だからだと思った。

でも、ルージュは俯いたままで、ラシャンたちは戸惑っている。

アイビーにはどうしてなのか分からず、口を閉じていることにした。


「えっと、ルージュ。それは、小公爵も賛成しているの?」


カディスの問いに、ラシャンとイエーナは頷き、レガッタは心配気な表情を見せている。


「お父様が納得していなくても、お祖父様が決めたことよ。公爵家が持つ爵位を継がずに、小公爵であり続けたのにね。でも、私が爵位を継ぐ時は、どれかを継ぐと思うわ。確か伯爵があったはずよ」


「スペクトラム公爵は、どうしてルージュを選んだんです? 女性が当主になることも多くなったと習いましたが、それでもまだ少ないはずですよ」


「お祖父様は瞳の色だって言っていたわ」


「確かに小公爵はスペクトラム公爵家の色を持っていないからね。ルージュの方が適任といえば適任だね」


「でも、殿下。持っていない人も当主になっていますよね。いくら象徴とはいえ、瞳の色で全てが決まるなんて時代遅れじゃないですか」


「ラシャンがそう言いたい気持ち、僕も分かるけど、この色は抑制力にもなるからね。持っていた方が確実に便利だよ」


「崇める人は一定数ですよ。全員ではありません。それに、能力も大切です」


「そうだね。だけど、崇めていない人たちもみんな、無意識にこの色には勝てないって擦り込まれているようなもんでしょ。持っていれば、まとめ上げやすくなる。抗議や反発は少ない方が楽だよ」


ラシャンとカディスの白熱している議論に、イエーナが「待った」をかけた。


「そういう話、どうでもいいです。私たちはみんな色を持っていますから。今はスペクトラム公爵家の周りが騒がしくなるって話ですよー。小公爵も周りからも何か言われるでしょうし」


「それは家門と娘のために、我慢するしかないでしょ」


——お兄様たちの会話でどうして空気が重たくなったのか分かったけど、ルージュ様本人の気持ちはどうなのかな? 決まってしまったことだからとしても、嬉しいとか嫌だとか絶対にあると思うの。今もモヤモヤしているかもしれないし。吐き出せる場所があるならいいけど、心に溜めたままなら今吐き出した方がいいんじゃないかな?


「ルージュ様は、公爵になりたくないですか?」


アイビーの質問に、ラシャンたちはピタリと口を噤んだ。

ルージュはやっぱり俯いたままだ。


「そうですわ。お兄様たちのうるさい言葉なんて気にしなくていいですわ。ルージュはどうしたいんですの?」


「もう決まったことよ。私がどうしたいとかの問題じゃないわ」


「じゃあ、ルージュ様はどう思われているんですか? 嬉しいとか、嫌だとか、あると思うんです。どんな気持ちを言われても私たちは笑ったりしませんし、誰かに話したりもしません。ムカつくこととかあったら言っていいんですよ」


喜んで報告されたわけじゃないから、憤っている何かがあるんだと思う。

だって、報告をされた時から視線が全く上がらない。

表情に変化がない。

ルージュの性格上、どうでもいいように見せようとすることは多々あるが、それは本当にそう見せているだけだ。

ルージュは優しいし、話していて楽しいし、よく笑ってくれる。

笑顔が似合う可愛いらしい女の子だ。


「ほら、ルージュ。私は、イエーナのことで散々文句を言ってましたでしょ。何を言っても覆らなくてイライラしていましたが、吐き出すだけで楽になりましたわ。私たちの前でくらい素直に吐き出しても誰も怒りませんわよ」


「そうですよ、ルージュ様。全部吐き出してしまいましょう。ここでなら誰も言い返したりしませんから」


唇を引き結んだルージュを見て、カディスがフィルンに目配せをした。

軽く頭を下げたフィルンは使用人たちを全員下がらせ、みんな、声が届かないと思う位置から見守ってくれている。


「ルージュ、もう言っちゃいなよ。あの家、絶対息苦しいでしょ。お祖父様は頑固というか狡賢いというか自分勝手というか。野心が多くて嫌になるよね」


カディスの物憂気な言い方に、相当スペクトラム公爵が苦手だと分かる。


「……そんなことないわ」


小さく呟き、ゆっくりと顔を上げたルージュの瞳は潤んでいた。






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