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125 .誕生日パーティー

アイビーの誕生日パーティーが始まり、波のようにたくさんの来賓が押し寄せた。

初めての誕生日パーティーを純粋に祝うというより、未来の王妃に対して今から仲良くしたいとアピールするためである。

あわよくば、お祝いに来るだろうカディスとも挨拶できればという思惑もあり、開始から粘ろうとしていた人が多かったのだ。


ただそんな邪な考えは、開始直後に打ち砕かれた。

なぜなら着飾ったアイビーが可愛すぎて、天女を拝めただけでも来た甲斐があったと、胸を打たれたからだ。


心が洗われたとほのぼのしてした人たちは、数分後には歓喜していた。

有り難いことにアイビーの側からヴェルディグリ公爵と嫡男であるラシャンが離れる素振りはないし、カディスもレガッタもホストのような振る舞いを見せていて帰る気配を全く感じさせなかったからだ。


我先にと挨拶を争わなくても、順番に会話できそうな雰囲気に歪み合わなくてよくなった。

心に余裕がある分、誕生日パーティーを楽しめる。


始まりから誰の心にも優しい和やかな空気が、パーティー会場を包んでいた。


「アイビー様、お誕生日おめでとうございます」


「マーリー様、来てくださってありがとうございます」


マーリーの後ろには、もちろん取り巻きたちが控えている。

マーリーがカーテシーをする時に、マーリーに合わせて腰を折っていた。

個々にお祝いの言葉を述べるつもりはないようで、侍女かもしれないと思ってしまうほど、静かに後ろに立ったままだ。


「ドレスも可愛らしいですが、イヤリングが本当に素敵ですね。カディス殿下からの贈り物でしょうか?」


「はい。午前中に持って来てくださったんです」


「カディス殿下は、本当にアイビー様のことをお好きなんですね」


「少し照れてしまいますが、カディス様によくしていただいて、とても幸せです」


マーリーもだが、挨拶をする人ほぼ全員が、カディスが贈ってくれたイヤリングを褒めてくれる。

相思相愛をアピールするために、このイヤリングを選んでくれたのかもと考えてしまうほどに話題に上がるのだ。


カディスに抜け目がなくてさすがだし、一目で気に入るイヤリングをプレゼントしてもらえて嬉しいから役得だと胸が弾んでくる。

そして、カディスに負けないように、もっと婚約者役を頑張らないとと気が引き締まった。


——でも、仲良く一緒にいる以外に、何をすればいいんだろ? カディス様の誕生日に、緑の何かを送った方がいいのかな? 今から用意できるかな?


チャイブに相談してみようと、忘れないように心に留めておくことにし、笑顔で会話を続ける。

大勢の招待客が挨拶待ちをしているので、1組に割く時間は本当に短い。

マーリーとも「またお茶会をしましょうね」で終わり、次に待ってくれていた人たちが進んできた。


「アイビー・ヴェルディグリ公爵令嬢様、お誕生日、誠におめでとうございます」


深くカーテシーをしてくれているのは、肩までのジャスミンイエローの髪の女の子と、コルク色の髪を結い上げている女の子だ。

アイビーは誰だが分かり、飛び跳ねて抱きつきたい気持ちを抑えながら、愛々しく返事をした。


「来てくださってありがとうございます。チェスナット伯爵令嬢とターキッシュ子爵令嬢でよろしいでしょうか」


そう、アイビーのファンクラブの会長のキャンティと、副会長のシナモンである。

アイビーのために裏で動きたいから、表では仲良くしないでおこうと言われているため、今まで顔を合わせたことがなかった。

でも、会ってみたいアイビーは、大勢呼ぶ誕生日パーティーなら来てくれるかもと思い、招待状を送っていたのだ。

足を運んでくれたら分かるように、アイビーは貴族名鑑で2人の顔を確認していた。


「さようでございます。私がキャンティ・チャスナットと申します。そして、隣がシナモン・ターキッシュ子爵令嬢になります」


シナモン副会長がキャンティ会長の言葉に合わせて、もう一度深くお辞儀をしてきた。


「ご丁寧にありがとうございます。お二人とも黄緑色のドレスということは、私を意識してくださってのことでしょうか?」


「はい。心よりお祝いをお伝えしたくて、このようにドレスに黄緑色を入れさせていただきました」


「お二人の気持ちは物凄く嬉しいですし、お二人ともよくお似合いです」


「ありがとうごさいます。アイビー公爵令嬢様もそのドレス、本当にお似合いですわ。それと、殿下からのプレゼントだと思われるイヤリングも素敵です。近くで拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。どうぞ」


アイビーが顔を斜めにして右耳を差し出すと、扇子を広げたキャンティ会長が顔を近づけてきた。


「ダフニ公爵令嬢が、隣国のバイオレット・メイフェイア公爵令嬢に会いに行く手続きをされているそうです。詳しくは、また手紙を送らせていただきます。どうかお気をつけください」


「え?」


早口で囁くように話し終えたキャンティ会長は体を離し、にっこりと微笑んできた。


「本当に素晴らしい宝石ですね。カディス殿下がアイビー公爵令嬢様を、どれほど大切にされているのかよく分かりますわ。仲がよろしいようで、とても羨ましいです」


「ありがとうございます。私もカディス様に負けないよう、この関係を大切にしていきたいと思っています」


「私も婚約者ができましたら、アイビー公爵令嬢様たちを目標にさせていただきたいですわ。そのための秘訣をおうかがいしたい所ですが……独占できませんので、本日は諦めます。またの機会にお教えください」


「はい。恥ずかしいですが、惚気させてください」


可愛らしい笑みを向けると、キャンティ会長とシナモン副会長は一瞬顔を崩しかけたが、サッと令嬢の微笑みを浮かべて離れていった。

2人の必死に取り繕っている姿が愛らしくて、アイビーは「ふふふ」と小さく笑った。






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