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124 .青い薔薇のイヤリング

どうしてラシャンとカディスが渋い顔をしているのか分からず、アイビーはラシャンに問いかける。


「お兄様。お友達でも、男性から受け取らない方がよろしいんでしょうか?」


「ううん、受け取っていいよ。ただイエーナが馬鹿なことしたなぁと思っただけだよ」


ラシャンの言葉に、カディスが頷いている。


「レガッタからの青は、僕の婚約者だし問題ないんだよ。でも、クレッセント公爵家の黄色となると、五月蝿く言う奴らが出てくるんじゃないかな」


——あ! ルアンから教えてもらった話だ。王家と3つの公爵家は色があって、その色はその家の人たちしか使っちゃいけないって話。そっか。私が黄色を持つと、クレッセント公爵家と縁があるようになってしまうんだ。


「うふふふ。お兄様、私とイエーナが何も対策をしていないとお思いですか?」


「対策って言ったって、何もしようがないじゃないか」


眉間に皺を寄せるカディスに対して、レガッタとイエーナは顔を合わせてニヤニヤしている。

アイビーは、ラシャンと首を傾げ合った。


「ルージュに怒られるかもですが、ルージュからのプレゼントも同じデザインで真っ赤な手袋ですのよ」


「は? それ、スペクトラム公爵が許したの? 嘘でしょ?」


「お祖父様がどうだったかは聞いていませんわ。でも、ルージュは『アイビーにならいいわ』と言ってましたわ」


「はい。私も父に相談したら『あの可愛い子か。クロームは怒るだろうが、贈っても構わないぞ』って笑ってました」


「いや、色ってそんな簡単に贈るものでは……」


頭を抱えたカディスの背中を、困り顔のラシャンが撫でている。

たぶん、この場でカディスと同調しているのはラシャンだけだろう。

壁際に控えているカフィー以外の使用人、ルアンたちの顔色が悪い気もするが、気のせいだと思っておこう。

手袋は可愛いし、プレゼントを貰えたことは本当に嬉しいのだから。


「では、私からも皆様に、緑色の何かを贈るのはどうでしょう? お互いが持っているのなら、問題ないような気がします」


「うーん……アイビー、まずは父様に相談しよう。家門の色は厳重に扱うべきものだからね」


「ラシャンの言う通りだよ。まぁ、最終決定は当主にあるから、クレッセント公爵が許したのなら黄色は問題ないよ。世間からどう見られようとね。ただスペクトラム公爵家の赤は……」


「お兄様、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。あのルージュですわよ。何も考えずにプレゼントを合わせてくれるなんてことありませんわ」


悩むように瞳を伏せていたカディスが、勢いよくレガッタを見た。

そして、指を鳴らしてレガッタを指そうとして、横からラシャンに叩き落とされている。


2人は「何をするの?」「すみません。イラッとしたんです」と言い合って戯れはじめてしまった。

一昨日よりも昨日、昨日よりも今日というように、今もなお日に日に気安さが増している。


「お嬢様、そろそろ準備を始めませんと……」


遠慮気味にルアンに声をかけられ、アイビーは笑顔で頷きながら立ち上がった。


「あ、待って、アイビー。僕のプレゼントを先に受け取ってほしいんだ」


慌てて腰を上げたカディスが、駆け足気味で側までやってくる。

フィルンがカディスに渡した箱は、手のひらに乗るくらいの小さな箱だった。


「アイビー、誕生日おめでとう。普段からも着けてくれたら嬉しい」


手渡されたプレゼントを開けると、中には青い宝石で造られた小さな薔薇のイヤリングが入っていた。

カディスやレガッタの瞳を連想させる、とっても綺麗で視線を奪われてしまいそうな青色だ。


「可愛い……カディス様、ありがとうございます」


「きっと今日のドレスにも合うはずだよ。着けてね」


「はい。びっくりされるほど似合うと思いますので、楽しみにしていてください」


至極当然のことを伝えたのに、カディスに吹き出すように笑われた。

いつもなら怒るところなのだが、なぜか胸が擽ったく感じて、アイビーも「ふふふ」と笑ってしまう。


顔を合わせて笑っていると、突然カディスの顔を隠すように、横から手をぬっと差し込まれた。


「アイビー、僕も着替えに行くよ。一緒に行こう」


「はい、お兄様」


少しだけ不機嫌に見えるラシャンに、手を掴まれた。

握られたら握り返すのは反射的なもので、ラシャンの機嫌を治したいとかではなかったが、ラシャンが幸せそうに目尻を下げたので、握り返してよかったということだろう。

どうして機嫌が悪かったのか分からないが、とりあえず微笑みもつけておく。


アイビーには溶けた顔を見せたラシャンだったが、すぐにキツくカディスを睨んだ。


「殿下、今日アイビーをエスコートするのは僕ですからね。ダンスも僕が踊りますから」


「知っているし、ダンスは好きに踊ったらいいよ」


カディスは、肩をすくめてソファに戻っていった。

悔しそうにしているラシャンが不思議で仕方がない。


「お兄様、どうされました?」


「あ、ごめんね、アイビー。ただ僕より殿下と仲がいいように見えて寂しかったんだ」


「私もですが、カディス様もお兄様との方が仲がいいと思いますよ」


「アイビーは僕の方が仲がいいってことだよね?」


イエーナの「ラシャンと殿下の仲がいいはスルーなんですね」と、レガッタの「アイビーと仲がいいのは私ですわ」と、カディスの「僕とラシャンは、確かによく話すようになったよね」という、3人同時に発した言葉が耳に届く。

合っているか微妙だが、言いたいことのニュアンスは得ているはずだ。


ラシャンにも聞こえたはずなのに、3人の言葉には耳を貸さずに真っ直ぐにアイビーだけを見つめてくる。


「はい。お兄様は、私のたった1人のお兄様ですので、切っても切れない仲です」


誰よりも仲がいいと伝えてもよかったのだが、レガッタの「アイビーと仲がいいのは私ですわ」的な言葉があったので、誰と1番仲がいいと言うより縁は切れないにしたのだ。

誰も悲しくならない返答ができたはずだ。


「僕とアイビーは、ずっと仲がいいってことだよね?」


「はい、もちろんです」


「そっか、うん、そうだよね。僕とアイビーはずっと仲がいいんだもんね」


ラシャンの顔にも笑顔が戻り、カディスたちは呆れた視線を送ってくるだけだったので、さっきの回答で正解だったらしい。

「今日もまた可愛い貯金ができた。よかった」と、アイビーも花が咲くように微笑んだ。






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