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118 .バイオレットの憂鬱

セルリアン王国はこれから年末になるのだが、アムブロジア王国では新年を迎えた。

新年を祝う宴は王宮や貴族の屋敷で催され、バイオレットも連日パーティーに参加する忙しい日々を送っている。

今日も今日とて、アムブロジア王国フライヤー侯爵のパーティーに参加している。


「やぁ、バイオレット公女。よく来てくれたね」


「食通で有名なフライヤー侯爵にお誘いいただいて、ずっと楽しみにしておりました。招待してくださり、本当にありがとうございます」


主催者と簡単に挨拶を交わし、次から次へと近寄ってくる人たちと談笑し、休憩をするためにお手洗いに逃げた。

会場の端に椅子やソファが並べられ、休憩室も用意されているが、1人にはなれない。

座った状態でのお喋りに変わるだけだ。

一息つくには、誰にも話しかけられない場所に行くしかない。


あー、マジで疲れた。

社交シーズンって、秋だけで十分じゃない?

年始なんてものは家族で過ごせばいいのよ。

もうさ、数日前に会ったとか、昨日ぶりとかの人ばっかなのよ。

話すことも底を尽きるってーの。


このまま逃亡してしまいたいが、そんなことは許されない。

人付き合いを蔑ろにすると、あっという間に悪い噂まみれになってしまう。

誰かに悪意を向けていないと面白くないという人が、この国にはあまりにも多すぎる。

嫌なことだから関わりたくない。

そのためには、噂される方にもする方にもならないように立ち回らなければいけない。


後1時間だけ頑張ろうと決めて、会場に向かって歩き出した。

気合いを入れたはずだが、足取りは重く、歩く速度は亀並みに遅い。


ん? なんか言い合ってる?

新年を祝うパーティーなんだから、喧嘩したら今年の運悪くなるよ。

馬鹿な人、多いよねぇ。

運気を上げる行動しなきゃなのに。

まぁ、もう何回お祝いしてんのって感じだから、祝賀って感じしないよねぇ。


会場に戻りたくない気持ちが強く作用してしまったのか、争っているような声の方向に足が向いてしまった。

柱や木の陰ではなく、人気がない廊下の奥に数名の背中が見える。

バイオレットは物陰に隠れ、覗き込むように様子を窺い、小さく息を吐き出した。


またエーリカじゃん。

あの子たちも、何回もエーリカに絡んで暇人だよねぇ。

虐められるヒロインってテンプレだけど、こういう現場を見ると気持ちが重たくなるわ。


あ! エーリカが珍しく言い返している。

そうだ、そうだ。もっと言い返してやれー。


って、エーリカってば、ラシャンとの婚約発表をするために、セルリアン王国に行ってから明るくなったよね。

まぁ、私にはこっちのエーリカのイメージしかなかったから、ビクビクしてた今までのエーリカが意外だったんだよね。

向こうで何があったんだろ?


「お前たち、何をやっている!」


ん? ソレイユ殿下が助けに?

無理に決まってんのに、何やってんの。


あーあ、ほら、立場が弱すぎる殿下なんて怖いわけないじゃない。

貴族の序列を気にする人たちなら、はじめからエーリカを虐めようなんてしないよ。

しかも、その子ら、王妃派閥の家の子供たちだから。

殿下が助けられる訳ないじゃん。


このままだと耳が腐ると思い、ひっそりと立ち去ろうとしたが、女の子たちの悲鳴が聞こえて足を止めた。


は? は? 嘘でしょ。

あのバカ王子、ナイフなんて危険なもの出してんじゃないわよ。

エーリカは確かに汚い悪口を言われてたけど、暴力を振るわれてはいなかった。

もちろん殿下に対しても、遠回しに蔑むだけで彼女たちは手を出していない。

それなのに、ナイフとか狂ってんじゃないの?

正当防衛にならないからね。

どっちが悪いってなったら、ナイフ振り回した方が悪くなるからね。


突然のことに理解が追いつかなくて、止めに入るかどうか決められず右往左往している間に、エーリカを虐めていた女の子たちは青い顔をして足早に去っていった。


「エーリカ、大丈夫だった?」


「えっと、殿下……どうして……」


「僕は、ただ君を守ろうとしただけだよ」


「そ、ぅですか。ありがとうございます。でも、今後は放っておいてください」


「どうして?」


「殿下に守っていただかなくても大丈夫だからです」


「でも、僕は君が心配なんだよ」


怖いわー。

もう確実に片鱗を見せてるよ。


「それに、君みたいに中途半端な子、僕じゃないと助けたりしないよ」


「そんなことありません。もしこの場にセルリアン王国の方たちがいらっしゃったら、助けてくださいました。そして、私も彼らを全力で助けたいと思っています」


「無理だよ。だって、君は名ばかりの聖女じゃないか。優秀なバイオレットの足元にも及ばない」


「メイフェイア公爵令嬢は天才だと思います。天地ほどの差があることも知っています。だとしても、そんなことを気にするような方たちではありません。私の友人たちを貶さないでください」


なんとなくだけど、セルリアン王国の人たちは優しい人たちだったってことかな?

まぁ、アイビーって抜けてるイメージがあるだけで、性格悪そうには思わないしな。


ってか、ラシャンはあの見た目で性格もいいってことかー!

カディスといいラシャンといい、隣国は宝庫すぎる!






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