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117 .腹を割って話した方がいい

久しぶりに学園に登校すると、周りからラシャンの婚約について質問責めに合いそうになった。


誘拐事件があってからラシャンは教室まで送ってくれ、帰るまではレガッタとルージュと行動を共にしている。

そのおかげで、いつ話しかけようかというヒソヒソ話と視線を受けるだけでよかった。


だが、イエーナだけは過去の気安かった行いが仇となったらしく、お昼休憩時に会った時は屍化していた。


「ラシャンの好みなんて知りませんよー……」


スプーンを口に運ぶ動作も鈍く、はっきり聞こえるほどため息が大きい。


「なにそれ? 知ったところで、今更どうするのって話じゃない」


「ですよねぇ……殿下もそう思いますよねぇ……ラシャンの相手が隣国の理由なんて、私が知っている訳ないじゃないですか……本人に聞きに行けばいいんですよ……」


「お兄様は、イエーナ様みたいに囲まれたりしなかったんですか?」


「してないよ。殿下が側にいる時は、誰も近づいてこないからね」


「何言ってんだか。僕よりラシャンの方が怖がられているじゃないか」


「カディス様は自信満々の態度がアレですが、お兄様は麗しくて優しいですのに」


「僕には欠点がないから自信があっていいんだよ」


レガッタたちは、ラシャンを擁護するアイビーの言葉に呆れたように首を振りかけていたのに、カディスの怒りに一拍固まった後、声を上げて笑い出した。


「お兄様ってば、アイビーとは本当に楽しそうに言い合いされますわ」


「仲がいい証拠ですよねぇ」


「取り繕わなくていいのは、いいことよね」


「殿下って憎らしい部分が多かったんですけど、今は可愛らしいんだと思えるようになりましたよ」


やいのやいの口々に話し出すレガッタたち4人を睨んだカディスに、アイビーは更に鋭い視線を向けられた。


「アイビーのせいだからね」


「違いますよ」


「アイビーじゃなかったら、誰のせいだって言うの?」


「カディス様が怒りんぼすぎるんです」


「可愛く言っても非難は非難だよ」


「私が可愛いのは不可抗力ですし、非難していません」


どんな話題でも楽しいお喋りになる日々が過ぎ、ラシャンの婚約の話題が落ち着きはじめた頃、バイオレットから手紙が届いた。

いつもならチャイブが持ってくるが、今回はカフィーが持ってきた。


カフィーにはアイビーのこれまでの人生を隠すことなく話したので、平民時代があることも、バイオレットに探されていたことも、精霊魔法が使えることも、カディスとの婚約は契約中だということも知られている。


頭の黒いモヤを精霊魔法で治すと伝えた時、カフィーは珍しく驚いた顔をしていたが、「そういえば木と話していたな」とすぐに冷静さを取り戻していた。


秘密を打ち明けたと同時に治してあげたかったが、もし今の記憶がこんがらがったり消えてしまったりしたら毒林檎を追えなくなるということで、保留になっている。

謝るアイビーに、カフィーは「気にするな。少しくらい遅くなったところで何も変わらない」と微笑んでくれていた。


カフィーから手紙を受け取ったアイビーは、ホットミルクを飲みながら読みはじめる。

途中、首を傾げたり唸ったりとしながら読み終わり、手紙を机の上に置いた。


「うーん……アムブロジア陛下もお兄様の婚約者を変えられないって言っているってことは、お兄様の婚約に関してはもう大丈夫って思っていいのかな? どうしてエーリカ様じゃないといけないのってまた書かれているけど、どう答えればいいのかなぁ。それに、やっと最強のモブキャラを仲間にできたのって何だろ? エーリカ様には悪いと思っているけど、バイオレットさんが助かる道がそれしかないって意味も分からないし」


「チャイブさんがもうすぐ来ると思いますよ。それから考えられてはいかがです?」


「来られないから、カフィーが持ってきたんじゃないの?」


「来る途中で執事長に会いまして、すぐに終わる用事だからとチャイブさんを連れて行かれたんです」


「そっかー。だったら、チャイブと相談しながら決めよう。バイオレットさんの手紙は、いつも難しいんだよね」


クッキーの美味しさに頬っぺたを落としていると、悩むように目を伏せたカフィーが話し出した。


「なぁ、お嬢様」


アイビーに声をかけたのに、視線は斜め下のままだ。


「なに?」


「今回の手紙、俺も読ませてもらいましたけど、一度バイオレットと腹を割って話した方がいいような気がしますよ。向こうはお嬢様のことを仲間? というか信頼しているような感じが滲み出ていますから。このまま嘘をついたままですと、変に拗れるんじゃないでしょうか。想像するような悪い子じゃないと思いますよ」


「その方がいいのかな? バイオレットさんの目的が分からなさすぎて、まずは情報収集みたいになっているんだよね」


「懸念する理由も理解できますけど、きちんとぶつかった方が目的が明らかになる場合もあります」


「一度、チャイブに話してみる。確かに私は探されていたけど、その理由は全部想像でしかないもんね。もしかしたら、ものすっごくいい子かもしれないもんね」


「いや、それはないですよ。いい子なら駆け引きみたいなことをせずに無条件で陛下を助けてますし、見つけたエーリカに親身になってますよ」


「でも、カフィーは悪い子じゃないって思うんでしょ?」


「まぁ、そうですね。なんとなく『ただ馬鹿な子』な気がするだけです」


「そう思ったことないなぁ」


今までのバイオレットの手紙を思い返し、「やっぱりよく分からない子って感じだな」と無意識に呟いていた。


「手紙は書けたか?」とやって来たチャイブを交えて3人で、バイオレットへの接し方をどうするかの話し合いをした。

真逆の意見を言うチャイブとカフィーの間で、アイビーは頭を悩ませた。


話し合いは夜にクロームを巻き込むほど発展し、その結果、今までと変わらずバイオレットに合わせた内容を手紙でやり取りをするで落ち着いた。

カフィーの意見に一理あるかもしれないが、アイビーに危険を冒させる理由にはならないとのことだった。


だけど、バイオレットのことがもう少し分かって、悪女じゃないと判明したら歩み寄ってみようということになった。

その時は、会って話し合う方がいいだろうとのこと。

文字だけだと意図したことが伝わらず、真逆の気持ちを読み取られるかもしれないという不安があるそうだ。


アイビー自身もバイオレットが伝えたいだろうことが手紙から分からないので、疑っていることを謝る時は会って謝罪しようと決めたのだった。






火曜更新分の2話は、バイオレット視点になります。


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