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113 .女装

色々あったがラシャンの誕生日パーティーは成功に終わり、アイビーはぐっすりと眠った。

そして、半分まだ夢の中状態で起きたのだが、ルアンと一緒に起こしに来てくれたクレーブスを見て一気に目が覚めた。


「え? クレーブス? え? どうして侍女服を着ているの?」


静かに鬱々とした視線を向けられ、首を傾げてしまう。

どうしてそんな鬱屈しているような顔を向けられるんだろう。

その理由は、可笑しそうに笑っているルアンが教えてくれた。


「実は、クレーブスの正体を隠すためにと、執事長が決められたんです」


顔を温かいタオルで拭かれ、支度をするためベッドから降りる間もお喋りを続ける。


「シュヴァイが? 正体を隠さないといけないの?」


昨日、チャイブは毒林檎を潰すと言っていた。

もし壊滅させるのに日数がかかったとしても、正体を隠さないといけないほどじゃないような気がするのだ。

だって、クレーブスが協力をしてくれるのなら、そこまでの日数はかからないだろうから。


「はい。どこにネズミがいるのか分からないですから、全部解決するまでは女装させておくそうですよ」


——どこにネズミがっていうのは、チャイブがよく口にしていたから意味は分かるけど、全部解決ってどういうことだろ? 毒林檎を潰すだけじゃないのかな?


疑問を頭に浮かべていたアイビーには、ルアンの「私は、ずっともう一生クレーブスはこっちの姿の方がいいと思うんです」という言葉は届いていなかった。

だから、クレーブスが悟りを開くように瞳を閉じた姿も見逃していた。


気持ちを落ち着けたルアンに温かいタオルで体を拭かれながら、アイビーはワンピースに着替える。

着替えている間クレーブスは後ろを向いていたが、鏡台前に座るとルアン指導の下アイビーの髪の毛を梳かしはじめた。


「クレーブス、こんなことになってごめんね」


「全くだ」


「言葉遣い!」


ルアンの指導チェックにクレーブスは能面顔になったが、すぐに温かみがある無表情に戻り、「問題ありません」と言い直した。


ルアンの説明では、着替えと入浴の手伝いだけはルアンがするが、それ以外はクレーブスの仕事になるらしい。

だから、少しずつ仕事を覚えていってもらうとのこと。

チャイブが側にいる時もクレーブスは後ろに控えるらしく、丸一日アイビーと共に過ごすそうだ。


「それと、クレーブスは『カフィー』と名乗るようになります。お嬢様も『カフィー』とお呼びくださいね」


ルアンの言葉に、アイビーは勢いよく後ろを振り返った。


「それって、チャイブがそう言ったの!? クレーブスはそれでいいの!?」


アイビーは、クレーブスの髪の毛に視線を向けてから瞳を見つめる。


顔を見せてもらえる前は、目しか分からなかった。

だから何とも思わなかったが、髪の毛の色を知っている今「カフィー」と名乗らせる理由は分かる。


アイビーが男装していた時、もっと言うなら、バイオレットに探されていた時の色味と一緒なのだ。


年齢だけは違うが、クレーブスはアイビーよりも5歳ほど年上な程度。

バイオレットが探していたのは間違いなくアイビーだろうが、もしもの時にクレーブスを年齢が違うのは気のせいでゴリ押しできなくもない。


そう、アイビーの身代わりとして仕えさせると言われているのだ。


「ああ。お給料はもらえるらしいし、タダで探し人を見つけてくれると約束してもらったからな。その上、見つかった時、俺と探し人の安全も保証してくれた」


「お父様は騙さないと思うけど……でも、何が起こるか分からないのに……」


守ってもらうだけで危険だと分かっている。

でも、悪事から足を洗えるし、クレーブスは強いだろうと感じてお願いをした。

発案したのはアイビーだけど、護衛以上に命の危険があると思う身代わりをしてもらおうなんて考えていなかった。

そこまでの献身を望んでもいない。


「アイビー、気にするな。全部聞いて、俺が決めたことだ。きちんと契約書を交わしている。問題ない」


視線を真っ直ぐ合わせられ、頭を優しく叩かれた。

クレーブスの瞳に、迷いや後悔は感じられない。


だから、クレーブスが決めたことならと、アイビーも腹を括ることにした。

クレーブスを身代わりで差し出すようなことは、絶対にしない。

もしそうなってしまっても、クレーブスが危うくなる前に助け出してみせると、心に誓ったのだ。


「うん、分かった、クレーブス。これからよろしくね。それと、チャイブに相談してからになるけど、今日治せそうなら治そうね」


わずかに瞳を見開いたクレーブスは、朗らかに微笑んだ。


「そこまで焦らなくていい。それに、すぐに治るとも思っていない」


——チャイブは、どこまでクレーブスに話しているんだろ? 何も話していないのかな? 少なくとも、精霊魔法のことは話してなさそうだな。


隣から、ルアンのわざとらしい咳払いが聞こえてきた。

クレーブスと同時に顔を向けると、ルアンは腕組みをして怒り顔を携えている。


「お嬢様、『カフィー』です。間違えないでくださいね。それとカフィー。口調をどうにかしないと、またチャイブさんにお説教されますよ」


強めに注意されるが、話が終わるまで待ってくれていたルアンの優しさに笑みが溢れてしまう。

クレーブスもきっとそうだろうと思ったのに、クレーブスは小刻みに高速で顔を横に振っていて「チャイブは……チャイブだけは……」と掠れた声で呟いていた。


アイビーは怯えているクレーブスを見て、「チャイブってば何をしたんだろう? 虐めないでって後で言わなきゃ」と首を傾げていた。






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