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108 .ラシャンの誕生日なのに……

部屋の雰囲気が穏やかになり、楽しく会話をしていると、アイビーの侍女のルアンが声をかけてきた。

そろそろ準備をしないと間に合わないということで、アイビーは用意のため席を立った。


レガッタは、アイビーの部屋を見たいという理由もあり、アイビーと一緒に退席している。

たぶんというか確実に、お喋りはできるからと考え、ついて行った部分が大きいと思う。


「殿下、そろそろ話してください」


「急に何?」


イエーナに真剣に見つめられるが、カディスは何を話せと言われているのか分からず軽く問い返した。


「最近、殿下もレガッタも少し変ですよ。今まで強引なところはありましたが、ここまで自分勝手ではありませんでした」


「離れていた時間が長いのに、そんなこと分からないでしょ」


「自慢じゃありませんが、私はずっとレガッタを見てきたんです。だから、分かります」


「それは僕じゃなくて、レガッタに言ってあげなよ」


「殿下」


うやむやにするのは許さない、というように強めに呼ばれた。


部屋の中にいるのは、カディス・イエーナ・フィルン・ナンキンのみ。

フィルンのことは誰よりも信頼している。

ナンキンは、イエーナの不利になることは絶対にしないと思う。

イエーナもレガッタのことが好きだから、レガッタを裏切らないだろう。


カディスは、観念したように息を吐き出した。


「ねぇ、イエーナ。覚えている限りでいいんだけど、レガッタとの婚約話が浮上した時、どんな感じだった?」


「何がですか?」


「公爵の様子とか、陛下や王妃の反応とか、色々」


「そうですねぇ……お父様よりお母様が喜んでいました。王妃様には『レガッタを幸せにしてあげてね』と言われたくらいですね。陛下とは公式の場で挨拶したくらいです。それが、どうかしましたか?」


「別に。あんなに婚約破棄にならなかった理由は何だったんだろうって思っただけ」


「私の勘違いでしたから破棄されなくてよかったんですが、私もずっと気になっていました。お父様に『どうして私じゃないと駄目なんですか?』って聞いた時も、はっきりと答えてもらえませんでしたから」


イエーナじゃないと駄目というより、ラシャン以外なら誰でもいいからだろう、という言葉が浮かぶが口には出さない。

代わりに溢しそうだったため息は、ドアのノック音が阻止してくれた。


ナンキンが対応をし、やってきた侍女から何かを受け取っている。

そして、それをカディスに差し出してきた。


「手紙? 誰から?」


フィルンが横から受け取り、宛て名を確かめてる。


「差出人は書いてありません。ナンキン、誰からか聞きましたか?」


「はい。エーリカ令嬢からだそうです」


カディスは、片眉を上げて訝しげに手紙を見やった。

向かい側に座っているイエーナは、キョトンとしている。


「フィルン、読んで」


「かしこまりました」


手紙に目を通したフィルンは、少しも表情を変えない。

しかし、カディスの瞳は段々と冷めていく。

エーリカから手紙をもらう理由がなさすぎて、いや、それ以上にエーリカと関わる全てのことを疑っていて、この手紙も悪しき物のように感じているのだ。


「フィルン、何が書いてあるんですか?」


「言わなくていいよ。その手紙捨てといて」


「え? え? 殿下、いいんですか?」


「いいよ。ラシャンの婚約者と文通するつもりないからね」


「文通? え? ラシャンのために何か協力してほしいとか、ラシャンの情報が欲しいとかじゃないんですか?」


「あ、それもそうだね」


エーリカと関わらないようにしようと決めていたから、穿った見方をしてしまった。


レガッタも言っていたように、エーリカはラシャンに惚れているだろう。

フォンダント公爵も、エーリカをヴェルディグリ公爵家に嫁がせたいと強く思うようになったはずだ。

何も知らないイエーナから見て、さっきの発言なのだから、カディスがエーリカに対して警戒する必要はないのかもしれない。


フィルンから手紙を受け取り、書かれている文字を追いかける。

フィルンは表情を崩さなかったが、カディスは底冷えするような瞳を手紙に向けてしまった。


【親愛なるカディス殿下。

心温かく迎えてくださり、誠にありがとうございます。ラシャン公子様もお優しく、この国で頑張っていこうと決心できました。ですが、私はこの国やラシャン公子様について、まだまだ知らないことばかり。これから勉強いたしますが、滞在している間にラシャン公子様に好きになっていただきたいと思っています。厚かましいお願いで恐縮なのですが、どうかラシャン公子様についてお教えいただけないでしょうか。ラシャン公子様には内緒にしたく、パーティーの合間に休憩室にて内密にお会いできればと思っています。アイビー公女様にラシャン公子様の足止めをお願いしておりますので、隙を見て休憩室にお越しくださいませ。

エーリカより】


イエーナが言ってきた通りの内容だが、それだけではないような気がする。

それに、2人っきりになりたがる女性ほど警戒対象なのだ。

王子という価値がどれほどのものか、きちんと理解している。


「殿下、どうされました?」


イエーナに声をかけられ、冷めた気持ちを追い出すように息を吐き出した。

読み終わった手紙をフィルンに返す。


「イエーナ。今日1日、絶対にレガッタから離れないでほしい」


「エスコートしていますから、それは任せてください」


ナンキンにも注意しておこうと口を開きかけた時、チャイブが新しいお茶を持って部屋にやってきた。

揶揄う時以外は無表情なのに、微笑みながらサーブしてくれる。

嫌な予感しかしない。


「殿下、御前で申し訳ございませんが、フィルンとナンキンに伝えたいことがありまして、よろしいでしょうか?」


カディスが訝しげにチャイブを見るが、チャイブの面持ちからは何も読み取れない。


「いいよ」


「ありがとうございます」


一礼したチャイブは、フィルンとナンキンを連れて部屋の隅に行った。

小声で何かを話し、それを受けてナンキンだけが仰け反っている。

そして、フィルンは先ほどのエーリカの手紙を2人に見せている。

またナンキンだけが狼狽え、血の気を失ったようにしゃがんでしまった。


「どうしたんでしょうか?」


「さぁ? でも、何か注意しないといけないことがあったんでしょ」


「なるほど。ラシャンの婚約発表ですからね。多くの令嬢が発狂して、危なくなるのかもしれませんね。ナンキンは令嬢が苦手なんですよ」


「なんかさ」


生温かい瞳をイエーナに向けてしまう。


「どうされました?」


「あんなにバカだったのにスレていないんだなと思ってね」


「どういう意味ですか!?」


イエーナに文句を言われるが、カディスは聞き流した。

だって、3人のやり取りを見ていたら、チャイブの用事にエーリカの手紙が繋がっていると考えられる。

じゃないと、フィルンがカディスの許可なく、手紙をチャイブとナンキンに見せるわけがない。


折角のラシャンの晴れ舞台なのに、一体に何が起ころうとしているんだろうと、カディスは重たい息を吐き出したのだった。






金曜日から2話更新に戻ります。


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