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101 .嫉妬してくれるの?

今日もきっと来るだろうと思っていたカディスとレガッタは、イエーナとルージュと共にやってきた。

「学園は?」と問いかけそうだったが、イエーナとルージュがいるのなら、きっと正式に休みの許可を取っているんだろうと考えた。

だから何も聞かず、歓迎した。


4人の姿を見たフォンダント公爵は可笑しそうに笑い、クロームと共に王宮に向かった。

陛下に挨拶をしに行ったそうだ。

これからの話もするだろうと、朝クロームの予定を話してくれたチャイブが教えてくれていた。


エーリカをイエーナとルージュに紹介をして、アイビーたちは乗馬服に着替え馬舎に移動した。

今日の午前中は、馬に乗って遊ぶ予定になっている。


冬なので屋敷の中でお淑やかな遊びというものも考えたが、エーリカは平民時代が長い。

そこから、怒涛の淑女教育に聖女になるための修行をしている。

相当息苦しい日々だろうと思い、セルリアン王国にいる間はのびのびと体を動かしてもらおうという案が通ったのだ。


まぁ、同じく平民として生活していたアイビーが「わたしなら……」と提案して、ヴェルディグリ公爵家の誰も異を唱えなかっただけというのが裏側の話になる。


「あの、私、馬に乗ったことがありません……すみません……」


馬舎に着くなり、身を縮めたエーリカに謝られた。

アイビーたちは全員、萎縮してしまっているエーリカに首を傾げる。


「あ! もしかして、馬が苦手ですか?」


「まぁ! そうですの? どのように苦手ですの? とっても可愛いんですのよ」


「怖がらなくて大丈夫ですよ。馬は賢いですから、危害を加えたり、後ろに立たなければ問題ありません」


アイビー・レガッタ・イエーナが柔らかく話しかける。

ルージュは周りを気にせず、どの馬にしようかと吟味している。


「運動神経を心配しているなら、ラシャンに乗せてもらえばいいよ。ん? ルージュ! その馬は僕が目をつけてたんだよ」


「早い者勝ちです」


「ええ!? だったら、私はこの馬がいいです!」


「まぁ! イエーナがそう言うんでしたら、その馬がいいですわ! 1番穏やかなはずですもの」


「レガッタ。イエーナは運動神経皆無なんだから、奪ったら可哀想だよ」


「そうですけど……自覚していますけど……ひどいです……」


「私は絶対にこの馬にします」


「最近はルージュまでも遠慮が無くなったよね。僕、これでも王子なのになぁ」


プイッと顔を背け馬を撫でるルージュが可笑しくて、アイビーはクスクス笑った。

アイビーの楽しそうな表情にラシャンは頬を緩めた後、呆然としているエーリカに声をかける。


「エーリカ嬢、馬が怖い?」


「い、いいえ。馬は可愛いと思います。ですが、乗馬をしたことがないので、皆様の足を引っ張ってしまうかと……」


「そんな心配しなくて大丈夫だよ。どうせみんな好きなようにしか乗らないから。イエーナとルージュはゆっくり走らせる程度で、アイビーたちは3人で競走するんじゃないかな。エーリカ嬢はどうしたい? 僕の前に乗ってもいいし、乗る練習をしてもいいよ」


「ラシャン様はどうされるんですか?」


「僕はエーリカ嬢の側にいるよ。色んなことを一緒に体験して距離を縮めたいからね」


「ああありがとうございます。あの、私、馬に乗れるように頑張ってみます。それでも乗れなかったらラシャン様の前に乗せてください」


「うん、分かった。そうしよう」


優しく微笑んでいるラシャンと真っ赤になっているエーリカを眺めていると、馬を決め終えたカディスがアイビーの横にやってきた。


「ラシャンを取られたみたいで淋しい?」


「まだその気持ちはありません。ただエーリカ様は、自分の気持ちを押し殺してしまうのに慣れているのかなと思ってしまいまして」


「あれは慣れているっていうより、蔑まれるのを怖がっているだけだと思うよ。アムブロジアの貴族は、誰かを罵ることが好きな人が多いんだろうね」


「エーリカ様も笑えば問題は解決しそうですのにね」


「どういうこと?」


「可愛い子って、笑うだけで周りを骨抜きにできるじゃないですか。だから、何かを言われる前に笑えばいいのにって思ったんです」


カディスは、言い終わった後に自信有りげに頷くアイビーから視線を逸らした。

白けた面持ちをしているカディスを、アイビーは睨むように見る。


「ラシャンが、イエーナから馬を奪えたみたいだね」


「そうですね。エーリカ様の馬は、あの子がいいと思います」


「アイビー、視線が痛いんだけど」


「カディス様は、エーリカ様を可愛いと思わないんですか?」


「純粋っぽいから聖女はお似合いじゃないかなくらいだよ」


感情が全くないただの感想を述べられ、アイビーは観念したように小さく息を吐き出した。


「やっぱり美的感覚も歪んでいるんですね」


「なに? 可愛いって言えば嫉妬してくれるの?」


急にカディスに覗き込むように見つめられ、アイビーは瞳を瞬かせてしまった。

「歪んでいないよ」と怒り気味に返してくると思っていたのに、気持ちを見定めるように瞳の奥を覗き込まれたのだ。


そして、いつもとは違い、どこかカディスの瞳に熱っぽいものを感じる。

それが何かは分からないが、なぜか胸に緊張が走り息を止めてしまった。

澄んでいて輝いている青色が、アイビーが話せないように言葉を吸い込んでいるような錯覚さえしてくる。


「お兄様ー! アイビー! 行きますわよー!」


レガッタの大声に、カディスは何事もなかったかのようにアイビーから離れていく。


「レガッタ、大声を出すと馬がびっくりするよ」


「お兄様とアイビーが2人の世界だから悪いんですわ」


「アイビーが『目が痛い』って言うから確認していただけだよ」


「え!? アイビー、大丈夫!?」


カディスを威嚇するように見ていたラシャンが、慌てて駆けてくる。


「大丈夫? 見せて」


顔にラシャンの手を添えられ、ようやくアイビーの思考が戻ってきた。

息ができて、胸も苦しくなくなった気がする。


「お兄様、もう大丈夫です。ありがとうございます」


「本当に? 無理しちゃダメだよ」


「はい」


安心したように相好を崩すラシャンと一緒に、みんなを追いかけるように外に出た。






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