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99 .どっちでもいい

アイビーがエーリカとしていた話が興味深かったのだろう。

耳を傾けていたカディスが、ここで穏やかな会話に加わってきた。


「火とかの自然現象は想像しやすいとして、治癒ってどうやって想像するの? 薬ってこと?」


「それが……」


エーリカが、苦笑いを浮かべながら俯いた。


「私にはとても難しくて……カディス殿下が仰ったように、薬で風邪を治すとか傷口に薬草をとかイメージするんですが、想像力が足りないのか全く治ってくれないんです。だから、答えられません。すみません」


「別にそこまで落ち込んで謝らなくていいよ。それだけ難しいってことでしょ。使えるかもってだけで凄いんだから胸張ったらいいんだよ」


「しかし……」


「それに使えなくてもいいじゃないか」


カディスに呆れるように告げられ、エーリカは顔を上げた。


「僕たちの魔術と一緒でしょ。聖女になりたいのなら頑張ればいいだろうけど、なりたくないなら使えたらラッキーくらいでいいんだよ。君はセルリアン王国の国民になる。はじめから聖女がいない国だからね。いようがいまいがどっちでもいいんだよ。だから、やりたいことしなきゃ損だよ」


「……どっちでもいい?」


「そうだよ。どっちでもいい。エーリカ令嬢が聖女になれば救える命もあるだろうけど、1人なんだ。救えない命は出てくる。だから僕の見解としては、聖女も医者と変わらないだよ」


カディスを見据えたまま動かなかったエーリカは、ポロポロと泣き出してしまった。

慌てた様子でラシャンがハンカチを差し出し、フォンダント公爵は戸惑うようにエーリカの背中を撫でている。


どこに泣くポイントがあったのか。

聖女も医者と変わらないという言葉に、侮辱されたと感じたのか。


周りはそんなことを考えながら、この場をどうするべきかと悩んでいる。

すると、涙を拭いて顔を覗かせたエーリカは柔らかく微笑んでいた。


「泣いてしまってすみませんでした。とても嬉しかったんです」


全員静かにエーリカの次の言葉を待っている。


「『歴代一の聖女になる』と探されて、公爵家に引き取っていただいてからずっと『聖女様、頑張ってください』とたくさんの方から応援されました。でも、使える気配もなくて、聖女じゃなかったらどうしようと不安だったんです。『聖女になれるんだからいいじゃないか』『未来の聖女様だからこれくらい簡単にできないと』とか、私は何も変わっていないのに周りだけが凄い早さで変わっていって……私の名前はエーリカなのに、聖女としてしか見てもらえないんだって悲しかったんです。

でも、ヴェルディグリ公爵家に到着してからは、皆さん私をエーリカ・フォンダントとして見てくださっていて本当に嬉しかったです。その上で、カディス殿下から『聖女じゃなくてもいい』と言ってもらえて、私は私のままでいいんだって安心したら涙が出てきてしまったんです。こんな弱虫な私を温かく迎えてくださり、本当にありがとうございます」


座りながらだが深くお辞儀をするエーリカの肩を、ラシャンが優しく叩いた。

アイビーからは見えないが、顔を上げたエーリカの濡れている瞳には優しい面持ちのラシャンが映っていることだろう。


「殿下じゃなくて僕が伝えるべき言葉だったね。僕も殿下と同じ気持ちだよ。聖女になってほしいと思っていないし、聖女だから婚約したわけじゃないしね。これからやりたいことがたくさん出てくるだろうから、やってみたいと思うことは全部していいよ。その中から好きなものが見つかれば素敵だよね。やってみないと好きかどうか分からないからね。僕はそうやって騎士になる夢を見つけたし、アイビーは今探し中なんだよ。だから、エーリカ嬢も好きなことしていいよ。アイビーと一緒に探すのも楽しいと思うしね」


アイビーとエーリカの視線がぶつかるように、ラシャンの体が斜めになった。

アイビーは、エーリカを見ながら満面の笑みで頷く。


「実は私、冒険者になりたかったんです」


色んな所から「アイビー」と聞こえ、クスクスと笑った。

エーリカとフォンダント公爵は、瞳をまん丸にしている。


「でも、さすがに無理だと思いますので、お兄様が言われたように今探している最中なんです。あ、でも、何になりたいかとは別で、絵を描くことが好きなので絵は描き続けたいなと思っているんです」


「……王妃になるのでは?」


驚いたままのフォンダント公爵に尋ねられ、アイビーはカディスを見やった。

成人するまでの契約だから、王妃になる予定はない。

でも、それは秘密だから言えないし、王妃の生活がどういうものなのか分からなくて答えに悩んだのだ。


「僕としては、公式行事に出席してくれたら何をしてくれてもいいよ。そんな王妃がいてもいいと思うし、いざという時はレガッタやルージュを雇えばいいんだよ」


「それくらいでしたら、私は協力いたしますわ。公爵夫人の仕事だけでは、きっと暇ですもの。アイビーに会える機会が増えるのも嬉しいですしね」


「ありがとうございます、レガッタ様。でも、レガッタ様も好きなことを探してくださいね」


「もちろんですわ。でも、私はお兄様のお金で美味しいものを食べることが1番好きですのよ。だから問題ありませんわ」


「レガッタ。それは暴露しない方がよかったと思うよ」


レガッタが大袈裟に口元を隠し、周りから朗らかな笑い声が聞こえてくる。

かくいうアイビーも可笑しそうに笑っている。


「エーリカ様も一緒に探しましょうね」というアイビーに、エーリカは輝くような笑顔で頷いたのだった。






来週火曜日はカディス視点の1話のみの更新となり、レガッタの機嫌が悪かった理由が分かります。


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読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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