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98 .魔法について

「と、まぁ、今ので分かっていただけると思いますが、自分の気持ちをはっきりと伝えてくる子たちでして、いつも我が家は賑やかなんです。しかも、ここにクレッセント公子とスペクトラム公女も加わりますから、耳が6つあったらいいのにと思うことが多いんですよ。いや、これからはエーリカ令嬢もですから7つですね」


エーリカも騒いでいいという含みを入れたんだろう。

クロームは可笑しそうに話した。


「それを言うのなら、耳が必要なのは従者たちじゃないか。師団長は滅多に会わないのに酷い話だよ」


分かりやすかったからその場にいた誰もが気づき、茶化すようにカディスが乗ったのだが、フォンダント公爵は考えるように視線を下げた。

すぐさまクロームが口を開く。


「すみません。エーリカ令嬢にも楽に過ごしてほしいと思ってのことだったんですが、少し失礼だったようですね」


「あ、いいえ。そうではなくて……私もここでエーリカが元気に楽しく過ごしてくれれば嬉しいと思っています」


苦笑いを浮かべるフォンダント公爵を見たエーリカは、申し訳なさそうに俯いた。

これ以上エーリカのことを深掘りしない方がいいと思ったのか、はたまた、ただ単に気になっただけなのか、カディスがフォンダント公爵に問いかける。


「フォンダント公爵、師団長の言葉のどこに引っかかりがあったの? 言いたくないなら言わなくていいけど、話せるなら教えてほしい。両国間のことだからね。できれば、ラシャンの婚約に不安の種を残しておきたくない」


この場でフォンダント公爵に突っ込めるのは、カディス・レガッタ・クロームのみ。

カディスが尋ねなければクロームが投げかけようと思っていたのか、クロームは小さく頷いていた。


「ただ……気になっただけです」


「何を?」


「皆様と仲がいいスペクトラム公女は、どちらの公女なのだろう……と」


そこに引っかかったの? というように、セルリアン王国側の人間は訳が分からなくてフォンダント公爵を見つめた。


「私たちと仲がいいのはルージュですわ。ダフニとは友達ではありませんの」


「レガッタ、言葉を選んで」


「選びようがありませんわ」


「それでも選ぶんだよ。もしフォンダント公爵に関係ある人が、あのブサイクと縁があったら失礼になるだろ」


「殿下。アイビー以外可愛くないのは認めますが、さすがにこの場でブサイクはよろしくないですよ」


「ラシャン、君は間違っているよ」


「何をですか?」


「そこは、アイビーとエーリカ令嬢以外と言うべきところだよ」


「ああ、そうでしたね。エーリカ嬢、ごめんね。僕が悪かったです」


「い、いえ、謝られることでは……」


アイビーは「晩餐会ってこんな感じでいいのかな?」と思いながら、果実水を静かにお代わりする。


自由すぎる空間が面白くなったのか、フォンダント公爵が声を上げて笑った。

その笑い声は、クロームが困ったように吐き出した息を完全に消していた。


「本当に賑やかですね。まだ先ですが、エーリカが嫁ぐ場所がヴェルディグリ公爵家でよかったと心の底から安堵しました」


「嬉しい言葉をありがとうございます。私もエーリカ令嬢はラシャンたちと仲良くなれるだろうと感じ、とても安心しました」


クロームの言葉にラシャンがエーリカに笑いかけて、エーリカは真っ赤になっている。

眩しいものを見たように目を細めるフォンダント公爵は、相当エーリカを可愛がっているんだと聞かなくても分かる。


視線をクロームに戻したフォンダント公爵が、悩ましげに話し出す。


「耳に挟んだだけですので意図は分からないのですが、ダフニ・スペクトラム公爵令嬢に魔法を教える人材を探していて、誰を派遣するかで今神殿は揉めているそうです」


「ま、ほう?」


カディスが言葉を溢れてしまうほどの仰天は、セルリアン王国側の人間は全員同じ気持ちだった。

思案するように右左と瞳を動かしたカディスは、クロームを見てからフォンダント公爵と顔を合わせた。


「残念なことに僕は魔術も魔法も使えないのだけど、そんな僕でも訓練をすれば魔法だけは使えるようになるのかな?」


「率直に申し上げると難しいと思います。血筋があってこそですし、我が国でさえ平民の中からですと数十年に1人という割合になります。エーリカとラシャン公子は特例中の特例ですので、特にセルリアン王国の王家と公爵家にはアムブロジアの王侯貴族の血は流れていないと考えられますから」


「ダフニは養子だからね。もしかしたら流れている可能性もあるのかも……でも……」


カディスは口を閉じたが、「精霊魔法が使えるだろうってことで養子に入ったはず。それなのにアムブロジアの魔法? 父上は知っているのかな?」と声に出していたら続いたはずだ。

それは、きっとクロームやラシャンたちも同じだろう。

アイビーも「あれ?」と不可解に頭を捻りそうだったが、気になることもあり、エーリカに質問してみた。


「エーリカ様。魔術は聖霊の力を借りて使えるようになるんですけど、魔法ってこうすれば使えるようになるとかあるんですか?」


「魔力を具現化して使うんです」


「具現化ですか?」


「はい。例えば火をおこしたい時はマッチだったり松明だったりで、攻撃に火を使いたい時はヘルハウンドや火光獣(かこうじゅう)や火を使う魔物をイメージするんです。聖霊のサラマンダーを想像する人もいます」


「具現化するんですよね? その子たちを魔力で作るんですか?」


「そうではなくて、どのような火を出したいかを明確に思い浮かべないといけないんです」


「じゃあ、マッチのように小さな火ってことですか?」


「そうです。燃えている火を想像するだけじゃ、火は出てきてくれないんです」


「具現化するのは大小様々な火をってことですね」


「そうです。ややこしい言い方をしてすみませんでした」


「全然ですよ。とても分かりやすかったです。ありがとうございます」


笑顔でお礼を伝えるアイビーに、エーリカも顔を綻ばせている。






金曜日は1話のみの投稿になります。


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