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88 .待ち合わせ

東通りの広場に着くと、ソワソワしているビスタが目に飛び込んできた。

ベンチに座らず、ベンチの前を行ったり来たりしている。


「お手洗いにでも行きたいのかな?」


「……なんでだろうなぁ。どうして結びつかねぇんだろうなぁ」


「なにが?」


「アイビーはアホだってことだ」


「急に悪口言うなんて酷い!」


「本当のことだろ。っと、ビスタが気づいたみたいだぞ。お手洗いじゃないからな。聞くなよ」


「でも、我慢させてたら可哀想だよ」


「絶対に違うから止めろ」


少し強めに言われてアイビーは唇を尖らせた。

でも、笑顔で駆けてくるビスタを見て、すぐにアイビーにも笑みが溢れる。


きっと今日は楽しい日のままだ。

ビスタの満面の笑顔に、そんなことを確信した。


「アイビーお嬢様。来てくださってありがとうございます」


「約束だもん、来るよ。それに、私も遊べるのを楽しみにしてたんだから」


口元を嬉しそうにニマニマさせているビスタは、アイビーから視線を外した。

照れているのか恥ずかしいのか分からないが、ビスタの頬はほんのりと赤くなっている。


「ビスタくん、今日は何をして遊ぶの?」


「実は東門の近くにモーランイブ市が開催されていて、そこに案内を……」


はじめは元気だったビスタの声だが、言いながらチャイブが持っている箱たちを見て、段々と尻すぼみになっていった。


「何が売っているの?」


「あ、えっと、モーランイブ市は月に2回ほど開催される市場で、季節によって取り扱っている物が違うんです。今は栗や芋が中心です。屋台も色々変わるんですよ。次は出店していないかもしれないので、気になったものは食べておかないと落ち込むことになったりするんです」


「面白そう!」


「はい! すっごく楽しいですよ! 母が言うには『一期一会を楽しむ市』とのことで、開催される日はお店を休みにして家族みんなで出会いを探しに行くんです」


「今日は私とでよかったの?」


「も、もちろんです! アイビーお嬢様と出かけられるなんて、本当に嬉しいです!」


「ありがとう。あ、ビスタくん、お友達なんだし言葉を崩してほしいの。私のことはアイビーでいいよ」


「え、あ、でも……」


困ったように視線を彷徨わせたビスタは、窺うようにチャイブを見上げた。


「身分を気にされなくて大丈夫ですよ。そんなことで怒る大人はお嬢様の周りにいませんから」


——うんうん、お父様もお祖父様もお祖母様も絶対に許してくれる。だって、ビスタくんはヴェルディグリ公爵家の使用人じゃなくて、私の友達なんだもんね。ただ楽しく遊ぶだけなのに、恐縮されるとか変だもんね。


チャイブの言葉に同意するように首を縦に動かしたアイビーを見て、ビスタは一度だけ大きく頷いた。


「分かった。でも俺、口が悪いから汚い言葉を使ってしまうかも。その時は遠慮なく怒ってくれていいから」


「大丈夫だよ。口の悪さでチャイブに勝てる人はいないと思うから」


「お嬢様」


チャイブの不満を表すような低い声に、アイビーはクスクスと笑った。

長い付き合いだから、この場を和ませるためにわざと不機嫌を装ったと分かったのだ。


ビスタは、笑っているアイビーとわざとらしく眉を吊り上げているチャイブを交互に見てから、可笑しそうに声を上げた。

緊張で強張っていた体から力が抜けたようで、上がっていた肩は正常だと思う位置に戻っている。


「さ、行こう。何に出会えるかなぁ」


「でも、買い物してきたみたいだし、本当に市場でいいのか? 違う方がいいなら花畑とか川とかにするけど」


「お花と川も魅力的。だから、それは今度行こう。今日はモーランイブ市を楽しもうよ」


——荷物を持ってくれるチャイブは大変かもしれないけど、月に2回しかないっていう市場の方が気になるもん。重たくなかったら、私だって持てるしね。


「え? また遊べるのか?」


「当たり前だよ。お友達でしょ。あ、でも、次はお兄様たちも一緒に遊ぼう。今日すっごく寂しそうにしてて胸が痛くなちゃったから」


ラシャンを見送る時、罪悪感を覚えたのは本当だ。

でも、アイビーはそれをおくびに出さずに、冗談めかしながら伝えた。

言葉と態度が裏腹なアイビーの言動がビスタにどう伝わったかは分からないが、ビスタは元気いっぱいの笑顔を返してくれる。


「俺は一緒に遊べるだけで嬉しいから、ラシャン公子様がいいなら遊びたい」


「お兄様は嫌だって言わないよ。だって前回会った時、遊んだみたいなものだもん」


「そ、うだな。嫌われてないならよかった。それに、花畑と川で魚釣りなら2人が揃っていても騒がれないと思う」


「ん? 次遊ぶ時もヒラヒラした服は着ないよ?」


「じゃなくて、ラシャン公子様は綺麗だし、アイビーも、その、か、か、可愛いから、みんな見てしまうから、だから」


「そっか、そうだよね、うんうん。私の可愛さはなぜか溶け込めるんだけど、お兄様は綺麗すぎて目立つもんね。女の子たちに囲まれたら大変だもんね」


腕組みをし深く納得しているアイビーにビスタは目を点にした後、悶絶するように両手で顔を隠しながら俯いた。

ポソっと呟かれた「ヤバい……可愛すぎる……」という声は、状況を理解し耳を澄ませていたチャイブにだけ届いていた。






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