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84 .勝者は……

勝負をしていた作業台の端の方に顔を向けると、俯いて拳を震わせているラシャンと、肩を下げて天井を見ているカディスという構図で、どっちが勝ったのかは分からなかった。


「勝者、カディス殿下。ビスタ少年との決勝戦になります」


「ああ、うん、頑張るよ」


疲れたと言わんばかりに息を吐き出しながらカディスが姿勢を正している。

ラシャンはアイビーの横に戻ってくる途中で、「負けないでね」とビスタの肩を叩いて叱咤激励していた。

「はじめ!」というチャイブの声が聞こえてくるが、誰も勝負の行方を気にしていない。


「お兄様、お疲れ様でした」


「ごめんね、アイビー。勝てなかったよ。折角アイビーを一人占めできると思ったのに……悔しい」


「大丈夫ですよ。今度カディス様には内緒で、どこかに行きましょう」


「いいの?」


「もちろんです。お兄様は家族ですから。いつも一緒でいいんです」


「嬉しいよ。そうだ! 今度鍛冶屋に行こう。そろそろ剣を新調しようと思っていたんだ」


「行きたいです」


「いつ行きますの?」


期待を込めた瞳のレガッタが、フラワーフルを口にしながら問うてきた。

ラシャンは小さく切られたフラワーフルを見てから、同じように1口サイズになっている自身のフラワーフルに首を傾げている。


「お兄様、フラワーフルは全部味が違ったそうです」


「そうなの?」


「はい。私が気に入ったものが、新商品として加わるそうです」


「アイビーの味覚は優れているもんね。絶対に人気の味になるね」


照れたように微笑み返した時、「勝負あり! 勝者、ビスタ!」と聞こえてきた。

ラシャン対カディスの試合とは違い、早々についた勝負に全員で驚きながら作業台の端を見た。


飛び跳ねて喜んでいるビスタに対して、悔しそうに項垂れているカディスは、口元を緩ませたチャイブに背中を叩かれていた。

カディスは、鬱陶しそうにチャイブの手を払っている。


「ビスタくん、おめでとう」


「ありがとうございます! 嬉しいです!」


「お店が休みの日を教えてね。その日に遊びに行こうね」


「はい!」


羽が生えているかのように足取りが軽いビスタに、ラシャンたちも「おめでとう」と声をかけている。

意気消沈しているカディスが戻ってきて、ドカッと椅子に腰を下ろした。


「ラシャンとの戦いで、力を使いすぎたよ」


「はい。僕もきっとあの後じゃビスタくんに勝てなかったと思います」


「お兄様、情けないですわね」「うるさいよ、レガッタ」というやり取りをしながら背筋を伸ばしたカディスが、目の前に置かれている切られたフラワーフルに目を点にした。

ラシャンにした説明をもう一度カディスにすると、カディスは1つ口に含んでこんなことを言い出した。


「別に1つに絞らなくても、1ヶ月毎に味を変えたらいいんだよ。限定商品って言葉は魅力的らしいからね」


「本当ですね。どれも美味しくて選ぶのが難しいと思っていたんです」


「なるほど……ありがとうございます、カディス殿下。両親に相談してみます」


お礼を言いながら頭を下げるビスタに、カディスは「そこまでする必要ないよ」と微笑んでいた。


その後は、見事アイビーの友達になったビスタにレガッタが「アイビーと友達なら私とも友達ですわよ」と胸を張り、ビスタが困り果てるという一場面があった。

カディスが「難しく考えず、とりあえず頷いとけばいいよ」と助け舟を出し、その場は丸く収まっていた。

それ以外も、貴族だからとか平民だからとかの壁を感じない賑やかな時間が続いたのだった。


フラワーフルを食べ終わり、ビスタと遊ぶ日を決め、アイビーたちは帰路に着いた。

道順的にイエーナ・ルージュという順番で送り届け、最後に王宮にやってきた。


「カディス様」


挨拶をするために馬車から降りたアイビーが、カディスに声をかける。


「実は、今日はお礼を伝えたくて誘ったんです」


「僕、何かした?」


「はい。私が誘拐をされた時、ものすっごく怒ってくれたと聞きました。それなのに、冷静に指揮をしてくれたとも。心配してくださり、本当にありがとうございます」


「それのこと。改まって言われることじゃないよ。婚約者を心配するのは当たり前だし、そういう卑怯なことをする奴らは許せないしね」


「だとしても嬉しかったんです。だから、ありがとうございます」


一瞬恥ずかしそうに視線を逸らしたカディスが、柔らかく表情を緩めた。

出会った頃に比べ、カディスの笑顔が随分優しくなったと感じる。


「どういたしまして。今後は妹馬鹿なラシャンがアイビーから鬱陶しいほど離れないだろうし、僕も可能な限り側にいるようにするから。もう二度と誘拐なんて起こさせないよ」


「殿下、僕だけで大丈夫です」


「いやいや、ラシャンは騎士見習いとしてアイビーの側にいられないことも増えてくでしょ。だから、僕が守ってあげるんだよ」


「それはっ」


辛そうに顔を歪めるラシャンと勝ち誇ったように笑うカディスを見て、「カディス様は優しいんだか意地悪なんだか」と同じように軽く引いているレガッタと笑い合ったのだった。






来週火曜日の更新は、12時の1話のみになります。

(バイオレットから手紙が届く回です)


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