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83 .ラシャン vs カディス vs ビスタ

「お嬢様。後は私に任せて座っていてください」


楽しそうに目を細めたチャイブにそう言われ、アイビーはラシャンの隣に戻った。

アイビーも早く食べたいと思っていたので、新作のフラワーフルに興味を示しているルージュに声をかける。


「ルージュ様、食べましょう」


「そうね」


「何味だろうね?」


「私も食べます」


ルージュ・ラシャン・イエーナと共に食べはじめようとすると、カディスが混ざろうとしている気配を感じた。


「殿下。お嬢様を奪われないためにも、今は勝負ですよ」


と、笑顔のチャイブに止められて、カディスは眉間に皺を寄せている。


「勝負も何もないでしょ。僕、関係ないよね」


「まぁ! お兄様、負けるのが怖いんですのね」


「レガッタ」


「レガッタ殿下、そのようですね。カディス殿下は戦前逃亡をされるようです。お嬢様が好きなくせに素直になれない馬鹿ですものね」


「チャイブ!」


「レガッタ殿下、助けてください。本当のことを言っただけなのに、カディス殿下に怒られそうです」


「チャイブ、大丈夫ですわ。だって、悪いのは逃げ腰のお兄様ですもの。アイビーに情けない姿を見せたくないから戦わないんですわ」


「勝負しないことが情けないですのに。困った王子様ですね」


そんな小芝居が繰り広げられている横でアイビーたちは、「お兄様、これお芋ですわ」「あなたのは芋だったの? 私のは栗だったわよ」「え? アイビーもルージュも私のと違うんですね」「アイビー、僕のはバタークリームだったよ。食べてみる?」と平和なお喋りしている。


レガッタとチャイブの煽りにも、こっちを全く気にしないアイビーたちにも、腹立たしさが募ったのか、カディスは作業台を叩きながら立ち上がり、ビスタを指した。


「勝負してあげるよ。僕が負けたらアイビーの友達になっていいよ」


鼻から勢いよく息を吐き出すカディスに、チャイブが白けた顔で声をかける。


「殿下、それだけですか? 小さい男ですね」


「なっ! チャイブ、本当に不敬罪で牢屋に入れるよ!」


「私は、本当のことしか申していませんよ。ここはビスタ少年が勝ったら、1日アイビーお嬢様とデートしていいとご褒美をあげるべきではありませんか?」


「まぁ! 素敵ですわ!」


「え? え? 本当に? 1日遊べるんですか?」


両手を握りしめてフルフルと震えているカディスを見ていると、隣から吹き出すような声が聞こえた。

ラシャンは、笑い声を上げそうだったのを咳払いで誤魔化している。


「お嬢様、いかがでしょう? 勝った方と1日デートをする。よろしいですか?」


「うん、いいよ」


どっちとデートになろうが楽しければいいので軽く了承したのだが、ここで新たに「待った!」の声がかかったのだ。


「待って! アイビーを1日一人占めできるのなら、僕も参戦するよ」


ラシャンだ。

呆れた瞳を向けるカディスとルージュ、瞳を瞬かせるイエーナ・レガッタ・ビスタ。

アイビーは、またしても首を傾げてからチャイブに視線を投げた。

チャイブの面持ちは、先ほどよりも楽しさを隠せていない。


「分かりました。では、カディス殿下とラシャン様が勝負をし、勝った者とビスタの決勝戦といたしましょう」


「僕が勝つのには変わりないからね。シード権はビスタにあげるよ」


「絶対に負けませんよ。殿下にビスタくん、恨まないでくださいね」


ビスタは、状況を飲み込めていないだろうにコクコクと頷いている。


「勝負は腕相撲にしましょう。街中や家の中で殴り合いはできませんからね」


瞳に闘志を燃やし意気込んでいるカディスやラシャンに飽きたのだろう。

というか、戦いよりもアイビーたちの美味しそうに食べている姿の方が気になったのだろう。

レガッタは戦いを見守ることはせず、フラワーフル組に混ざってきた。


「まぁ、4種類も味がありますの。全部食べたいですわ」


「今度また食べられる楽しみが増えたってことですよ」


「でも、これって全部発売するんでしょうか? 1人1つしか買えないんですよね? 抗議されないんですかね?」


「悪質な客なら言いそうね」


「ビスタくんに聞いてみますか? もしかしたら、1人1種類ずつ買えるようになるのかもしれませんし」


チャイブが審判を務め、カディスとラシャンの勝負が始まっていた。

どちらも怖いくらい真剣な顔で腕相撲に取り組んでいて、「ラシャン、無理しなくていいんだよ」「僕はまだ本気を出していませんよ」と腕をプルプルと震わせて拮抗状態になっている。


固唾を飲んで見守っているビスタを呼び、アイビーが手招きすると、ビスタは子犬のように尻尾を振りながらすぐに来てくれた。


「どうかしましたか?」


「聞きたいことがあって。新作が発売されたら1人1種類ずつ買えるようになるの?」


「あ、今食べてもらっているのは試作品でして、アイビーがじゃなくて、アイビーお嬢様が1番気に入ったものを販売しようと思っているんです」


「まぁ! そうですの。それは困りましたわ」


「えっと、何か困らせてしまいましたか?」


「私、全部食べたいんですのよ。でも、残っているのはお兄様の分だけですわ」


ビスタが、不思議そうな顔をしながら作業台の上を見渡している。

そして、瞳を丸くした。


「すすすみません! みなさんで分け合って食べてもらおうと思っていたんです。えっと、貴族様では分けるってしないんですね。説明不足ですみませんでした!」


突然慌てはじめたビスタに、アイビーを食べかけのフラワーフルを見てからレガッタたちに視線を向けた。

レガッタたちも同じ動作をしたようで、全員と同時に顔を合わせた。


「ビスタくん、大丈夫だよ。私たちだって分けて食べたりするから。6個あったから1人1つだと思って食べていただけだから」


「そうですよ。まだ食べていない部分を切り分ければいいだけですから、そんな顔をしないでください」


イエーナが援護してくれ、ルージュもレガッタも頷いたり微笑んだりと同意してくれる。

安心したように息を吐き出したビスタは、全然偉ぶらないアイビーたちにようやく体から力が抜けたように見える。


「説明しますね。全部味が違いまして、さつまいも・栗・生クリーム・バタークリーム・レモンクリーム・リンゴジャムになります」


「まぁ! 全部違いますのね!」


「早速分けて食べましょう。実はみんなの味も気になっていたんです」


照れたように話すイエーナにアイビーが「私もです」と笑った時、「そこまで」というチャイブの声が聞こえた。






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