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82.今、気付いた

チャイブが迎えに来てくれ、数人の騎士と共にフラワーフルのお店に到着した。

お店はすでに閉店をしていて、店の前は静かだった。

相変わらずの人気ぶりである。


チャイブが呼び鈴を鳴らしてくれ、ドアから顔を覗かせた女性と一言二言話している。


「お嬢様、中へとのことです」


朗らかに微笑む女性の視線に気づき、愛らしい笑みを返すと、女性はラシャンたちを見回してから「汚いところですがどうぞ」とドアを大きく開けてくれた。


「母さーん! 誰だったー?」


男の子の大声とドタバタと大きな音が聞こえてくる。


「あの子ったら。落ち着きがないんだから」


呆れたように吐き出す女性に続いて中に入ると、毎日フラワーフルを作っているだろう作業台の上にフラワーフルがたくさん並んでいた。


「あ!」


驚くような声に顔を向けると、2階から勢いよく降りてきたビスタと目が合った。

みるみる真っ赤になっていくビスタを気にせず、アイビーは元気よく声をかける。


「ビスタくん、久しぶり」


「あ、は、はい! お久しぶりです!」


ビスタは、勢いよく頭を下げてから窺うように顔を上げて、ジーッとアイビーを見つめている。

まるで囚われているかのように視線を外さないのだ。


「こら! ビスタ! 惚けてないで皆様をおもてなししなさい!」


「いたっ。分かってるよ」


母親に軽く叩かれた頭を撫でながら、ビスタは恥ずかしそうに「こちらへどうぞ」と作業台の方に案内してくれた。

色んな形の椅子が作業台を囲うように並べられているので、来るかもしれない人数を知って慌てて用意してくれたのだろう。


「お嬢様方、うちのフラワーフルを気に入ってくださりありがとうございます。何もないところですが、ゆっくりしていってくださいね。落ち着きのない息子ですので粗相があってもお許しください」


ビスタの母親はお茶を用意すると、笑顔を残して上階に消えていった。

母親の足音が聞こえなくなると、子供の中で1人だけ席に着いていないビスタが、改めて頭を下げてきた。


「あ、あの、来てくださってありがとうございます!」


「ううん。私こそ新作を食べさせてもらえるなんてありがとう。すっごい楽しみ」


アイビーのふわっと微笑んだ顔に、ビスタは綻んでしまいそうな口元を唇を引き結ぶことで堪えている。

でも、嬉しくて仕方ないというのは見ていて伝わってくる。


「アイビー、紹介してくださいまし」


「はい。こちらはビスタくんです」


「ビ、ビスタです! よろしくお願いします!」


直角に頭を下げているビスタに、今度はラシャンたちを紹介する。


「私の横に座っているのがラシャンお兄様で、その隣がイエーナ様。イエーナ様の向かい側がルージュ様。ルージュ様の隣がレ……えっと……」


王子や王女と紹介していいのかどうか今になって気づき、アイビーはチャイブを見やった。

チャイブの視線には「やっと気づいたか」という呆れが含まれている。


「私はレガッタですわ。こちらは私の兄のカディスですわ」


アイビーが戸惑っている間に、レガッタが自ら挨拶し終えていた。

ラシャンたちもだったが、カディスも紹介された時にビスタに軽く微笑んでいる。


「え? レガッタ……カディス……え? あれ? 綺麗な青い瞳?」


ビスタはキョトンとした後、何度も瞬きをして、勢いよくアイビーの瞳を見てきた。

もちろん可愛らしく首を傾げておいた。


「もしかして……緑……黄色……赤……え? え? まさか……」


目を白黒させ始めたビスタに、「アイビーの可愛さに射抜かれて、気づいていなかったんだろうね」とラシャンがクスクス笑いだした。

アイビーたちがどの貴族が結びついただろうビスタは、ハッと体を揺らして、今度は背中が見えるほど腰を曲げてきた。


「すすすすみません! いや、えっと、お貴族様とは分かっていましたが、まさか、公爵家の方だとは思いもせず! 可愛すぎて、そこまで頭が回っていませんでした! こんなところに来てほしいだなんて申し訳ありませんでした!」


「そんなに気にしなくていいよ。フラワーフルを食べられるって、本当に嬉しいもん」


「しししかし、来てほしいって催促してしまって……」


ビスタは一向に頭を上げようとしない。

アイビーは椅子から立ち上がり、ビスタの顔の下に手を差し込んだ。

驚いたように顔を上げたビスタに、柔らかく微笑みかける。


「本当に気にしないで。私はビスタくんと知り合えてよかったし、美味しいフラワーフルに出会えて幸せだから。フラワーフルを作れるビスタくんのことは尊敬しているしね。公爵家だからとか貴族だから平民だからとか関係なく、友達になってくれたら嬉しい」


「ともだち……いいんですか?」


「うん、私のすることを怒る人はいないから大丈夫。ね? お兄様、いいですよね?」


ラシャンに向かって笑顔で振り返ると、ラシャンは口に弧を描きながら頷いてくれた。


「もちろんだよ。ビスタくん、アイビーと仲良くしてあげて。ついでに僕ともね」


「あ、ありが――


緊張から唾を飲み込んだだろうビスタが、気持ちを強く持ってアイビーとラシャンと友人になろうとしたのだが、ここで「待った!」がかかった。


「お待ちくださいまし!」


レガッタだ。

椅子から立ち上がり、なぜか腰に手をあてて胸を張っている。


「アイビーの親友の私から見てもビスタは優しい方と思いますから、アイビーと友達になるのを認めてもかまいませんわ。でも、婚約者のお兄様は許せないはずですわ」


「別に友達くらい好きにしたらいいよ」


カディスが口を挟むが、レガッタの演説じみた言葉は止まらない。


「ビスタ! お兄様に勝ってアイビーとの仲を認めさせるのですわ! お兄様なんてけちょんけちょんのギッタンギッタンになって、アイビーの前で恥ずかしい思いをすればいいんです。そして、ビスタの株が上がれば今よりもアイビーに会える機会が増えますわよ。私が約束しますわ」


悪役っぽく高笑いするレガッタ、盛大に息を吐き出すカディス、面白そうに笑うラシャン、オロオロするイエーナ、「食べていいかしら」とチャイブに問うルージュと様々だ。

アイビーは「これ、どうしたらいいのかな?」と頬に指を当て首を傾げた。






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