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78 .いつもの風景

アイビーが目覚めたと知ってルアンのすぐ後に部屋に来てくれた祖父母とも抱き合ってから、アイビーは浴室に移動した。

どこにも怪我やアザがないかと体を隅々まで確認するルアンに笑いながら入浴を済ませ、みんなに見守られながらフレンチトーストを食べた。

そして、部屋を移して誘拐されている間の話をしようとした時、カディス・レガッタ・ルージュ・イエーナがやってきた。


「アイビー! 心配しましてよ! 無事でよかったですわー!」


ルアン以上に泣いているレガッタに強く抱きしめられ、涙を我慢しているルージュが視界に入り、アイビーは笑いながら泣いた。

カディスとイエーナも、安心から目元を緩ませていると分かる。

こんなにも自分を心配して駆けつけてくれる友達ができたことが嬉しくて、涙は止まってくれない。


「レガッタ。そんなに強く抱きついたらアイビーが苦しくなるよ」


「いいえ! 私、アイビーから離れませんわ! これからは毎朝一緒に登校しますの!」


「レガッタ、落ち着きましょう。どちらかというと、レガッタの方がその待遇をされる立場ですからね」


「イエーナの言う通りだよ。教室まで送り迎えをするなら僕がするよ。婚約者だからね」


「カディス殿下もレガッタ殿下もされなくていいですよ。兄である僕が、もう二度とアイビーから離れないと決めましたから」


「まぁ! ラシャン様は学年が違いますから難しいですわ。ですので、私がアイビーを守るんですの」


「いや、だからね、レガッタ。アイビーを守らないといけないのは分かりますけど、レガッタだって守られる立場なんですよ。私はいざという時役に立たないのだから、無茶をしないでくださいね」


「うわっ、イエーナ、最低な上にダサい」


「え? ラシャン、ひどくないですか!?」


「僕もラシャンと同じ気持ちだよ」


「殿下まで。私は適材適所の話をしているんですよ」


「どうだっていいわよ。アイビーの護衛は公爵様が決めるわよ」


言い争う4人にルージュがピシャリと言葉を投げ、水を打ったように静かになった。

あんな怖いことがあった後だからこそ、いつも通りの風景が愛おしくて笑いが込み上げてくる。


「何を笑ってるの? どっか壊れたんじゃない?」


カディスに呆れたように言われて、それもまた普段通りで帰ってきたとより実感する。


「だって、ふふふ、嬉しくて。みんなと友達になれて、本当に幸せだなと思ったんです」


「まぁ! 私も幸せですわよ!」


「……そうね」


「私もようやく友達と認めてもらえたんですね。嬉しいです」


「イエーナ、それは違うよ。まだ認められていない」


「イエーナ以外はアイビーの親友だって、僕が認めるよ」


「殿下とラシャンは本当に酷いです……」


五者五様の反応が更にアイビーの笑いを誘い、中々笑い声を止めることはできなかった。


カディスたちが心配をして来てくれたことは感謝しているのだが、これから誘拐されていた間のことを話さないといけないので、みんなには帰ってもらうことにした。

今回の事件を間違いないように捜査してもらうには、少しでも早く詳細を伝えた方がいいからだ。

シャトルーズ子爵家と誘拐団の罪を暴き、罰を背負ってもらわないといけない。


それなのに、カディスが「だったら王子として会議に加わるよ。父上への報告も僕がするよ」と言うものだから、レガッタが「私も王女ですわ。王族の務めは国民を守ること。私も参加いたしますわ」と胸を張ったのだ。

こうなってくるとなし崩しにルージュとイエーナも「私たちだって国を背負う公爵家です。参加する権利はあります」と手をあげてきた。

そして、4人はクロームに直談判までし始めたのだ。


「カディス殿下とイエーナ公子はともかく、レガッタ殿下とルージュ公女は聞かない方がよろしいかと思いますよ。きっと想像を超えると思いますから」


「ヴェルディグリ公爵。私は王女ですわ。自分が誘拐された時の参考になりますし、きちんとどのように怖いのかを知っておくべきですわ。私は絶対に帰りませんわ」


挑むようにクロームを見ているレガッタの隣で、ルージュはしっかりと頷いている。


「分かりました。ですが、少しでも気分が悪くなったら仰ってください。いいですね」


「大丈夫ですわ」


迷いなく答えるレガッタに、クロームは困ったように笑っていた。

カディスが「僕が判断して、無理だと思ったら途中で退席させるよ」と言うと、レガッタは「大丈夫ですわ!」と頬を膨らませて怒っていた。


カディスたち全員の参加が決まり、ようやく応接室で誘拐されていた間の話を伝えた。

話が進んでいくと隣に座っているラシャンとレガッタそれぞれから手を握られ、アイビーは順番に笑顔を返し2人の手を強く握り返した。


話が終わる頃には部屋には重たい空気が流れ、クロームたち男性陣の顔が怒りで吊り上がっていて、アイビーは見た瞬間は息を止めそうになった。

レガッタとルージュは、苦いものを噛んだ時のように顔を歪ませている。


「話してくれてありがとう。本当にもっと早く助けにいければよかったよ。悔しいね」


「いいえ、お父様。十分早かったです。ありがとうございます」


少し瞳を潤ませながら微笑んできたクロームに、アイビーは口を引き伸ばして笑った。

瞳を閉じたクロームは顔を俯かせ、眉間を摘んだ後、視線を上げている。


「アイビー、悪いんだけど、そいつらの人相は覚えているかい? 簡単でいいから絵にできるかい?」


「はい、覚えています。すぐに描き起こしますね」


アイビーが席を立とうとすると、「一緒に行きますわ」とレガッタとルージュが腰を上げた。

イエーナは、瞳を尖らせているカディスをチラ見してから、「私も行きます」と慌てた様子で駆けてくる。

部屋を出る時に、なんとか笑っていると分かるラシャンと「また後でね」と手を振り合った。






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2025年も楽しく執筆していきますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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