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14 .アイビーのやりたいこと

「それに、何かあった時に動けるようになりたいの。練習は剣じゃなくてもいいけど、咄嗟に動けるようになりたいの」


「そうですね。いざという時に足がすくんで動けないと、守ってくれる騎士たちの邪魔をしてしまうかもしれませんしね」


「うん。お荷物にはなりたくないの」


「アイビーはお荷物にならないよ!!」


ラシャンの大声にチャイブから視線を動かすと、ラシャンは椅子から立ち上がっていた。

怒っているような悲しんでいるような、どちらともとれる複雑な表情を浮かべている。


「アイビーは僕が守る! 絶対に守る!」


「お坊ちゃま、落ち着いてください。お嬢様のお荷物という言葉は、邪魔になりたくないという意味合いです。ご自身のことをお荷物とは思っておりません」


「うん、お兄様。私、役に立ちます。立てる子ですから」


安心してほしくて伝えたのに、ラシャンは下唇を噛んでとうとう泣き出してしまった。

どうしていいか分からなくて戸惑ってしまう。

クロームがゆっくりと腰を上げ、ラシャンを抱き寄せるように頭を撫でた。

そして、アイビーのことも落ち着かせるように、柔らかく話しかけてきた。


「アイビー、いいかい。お荷物とか役に立つとか考えなくていいんだよ。ただ自由に過ごせばいいんだ」


「自由に?」


「そうだよ。アイビーがしたいと思ったこと、何でもしていいんだ」


「では、剣の練習も精霊魔法の練習もしたいです。後は、その、下手ですが絵を描きたいです」


何かを思い出したように僅かに目を見開いた後、クロームが微笑んだ。


「チャイブが時々送ってくれてたから、アイビーの絵は見ていたよ。下手じゃないよ。とても上手だった」


「本当ですか! 嬉しいです」


チャイブ以外の人に絵を褒められることはなかったので、嬉しくてむず痒くなる。

照れたように微笑んだアイビーを見て、ラシャンは腕で涙を拭い、アイビーに向き直した。


「僕も見てたよ。本当にとても上手だったよ」


「お兄様もありがとうございます」


時々、描いた絵が失くなると気付いていた。

どこを探しても見つからないから不思議で、チャイブに尋ねたりもした。

チャイブは「知らない」の一点張りで、一緒に探す素振りも見せなかったから、おかしいと思っていたのだ。

その答え合わせが今できて、チャイブの怪しかった点にも納得した。


「では、こうしましょうか。アイビーちゃんの1日の予定は、チャイブに決めてもらいましょう。そのうち、勉強の時間も組み込むことになりますから、1週間毎に話し合って予定を組んでいくの。どうかしら?」


「そうだな、それがいいだろう。アイビーのやりたいことも組み込めるしな」


明るい声で提案したローヌに、ポルネオは笑顔を向けて頷いている。


「かしこまりました。日の曜日に翌々週の予定を組み立てることにいたします。お嬢様もよろしいですか?」


「うん、大丈夫」


ちょっとした騒動があったが、初めての家族全員での朝食は、こうして笑顔で終わったのだった。


早速チャイブが決めたアイビーの予定は、剣と精霊魔法の訓練はそれぞれ午前中の1時間ずつ、午後からは自由時間。

ただし、剣と精霊魔法の練習はしないこと。

夜の21時には、必ず就寝することになった。


今は午後は自由だが、1ヶ月後からはダンスとマナーを中心とした授業を組み込むことになるそうだ。

クロームとラシャンが領地にいる間、午後の時間は2人や祖父母と遊ぶ時間になる。


今日から予定通り行動することになり、午前中は剣と精霊魔法の練習になった。


兄のラシャンは、午前中いっぱい剣の訓練をするそうだ。

「歴代最強になるからね」と意気込まれたので、応援する意味を込めて頷いておいた。


ラシャンも訓練している訓練場の端にて、ポルネオと騎士団長の指導の下、アイビーの練習が始まった。

見学者は、ローヌとクロームである。


和気藹々と進むはずだった訓練は、目を剥いたポルネオと騎士団長によって、わずかに止まる時間が多発した。

同じ敷地内で訓練していたラシャンは顔を伸ばして剣を落としたし、クロームとローヌは「え?」「あら」と溢すが言葉が続いていなかった。


それもそのはずで、アイビーは可憐な少女に見えるのに、猫のようにしなやかに動き回れるほど運動神経がいい。

重たい剣を持てるほどの腕力はないが、子供にしては体力は申し分がない。

俊敏さでは、そこら辺の男の子に勝てるだろう。


様子を見にきたチャイブが「毎日訓練してましたからね」と胸を張る姿に、誰もが「鍛えすぎだ」とチャイブを叱ったのだった。


午後からは、湖の畔でピクニックをすることになった。

もちろん祖父母も含めて、全員参加している。

湖にはボートがあって、ボートに乗ることもできるらしい。


ピクニック参加メンバーの全員が午前中にアイビーの運動神経を見ているので、ボートに乗ることを止めることはしないし、乗馬の練習をしてもいいかもなと言っていた。


その日からというもの午前中は訓練をし、午後は家族全員で過ごすという日々を送っている。

ピクニック以外にもかくれんぼをしたり、乗馬をしたり、読書会をしたりした。

アイビーが絵を好きだということで、絵しりとりもしている。


徐々に家族の仲が深まりつつあった。






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