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70 .犯人

クレーブスがくれた硬めのパンを食べ、水までもらいお腹を満たした。

クレーブスは監視役なのか、ずっと部屋の中にいる。


「ねぇ、誰を探しているの?」


「それが覚えていないんだ」


——探しているのに覚えていないの? それって、どうやって探しているんだろう?


「何も分からないの?」


「ああ。5歳くらいの時に気づいたら貧民街にいてな。何も覚えていなかったんだ。ただうっすらと誰かが『クレーブス』と呼んでいた記憶がある。名前はそこからだ」


「じゃあ、その人を探しているのね?」


「そうだ」


——うーん、それってお父様にお願いをして探し出せるのかな? 分からないけど、公爵だから顔も広いはずだよね。うん、きっとお父様なら叶えてくれる。


「見つかるといいね」


「そうだな」


誘拐されているのが嘘のように、のほほんとした時間が流れている。

クレーブスに話し相手になってほしくて、もっとお喋りしようとした時、前触れもなくドアが開いた。


「あれ? 元気じゃない? 泣いていないなんて、やっぱり頭がおかしいのね」


入ってきた人物を見て、瞳をパチパチさせた。

驚いたわけでもなく、信じられないからとかでもなく、ただ単に見ている景色が合っているのか確かめたかっただけだ。


数回パチパチしても、左口角を上げて勝ち気にニヤけているレネットの顔は変わらない。

クレーブスに助けてもらえる約束をしているので、「そっかー。犯人はシャトルーズ親子なのかー」くらいにしか思わない。


「なに、その顔? もしかして、私が本当にあなたなんかと友達になると思っていたの? 馬鹿じゃないの。なるわけないじゃない。本当に毎日イライラしたわ。ラシャン様には会えないのに、あなたのご機嫌ばっかり取らなくちゃいけなくて本当に大変だったわ」


——あの色んな数々は、ご機嫌を取られてたんだ。全然気づかなかった。


「でも、それもやっと終わるわ。ラシャン様も手に入るし、あなたはいなくなるし。本当に頑張った甲斐があるわ」


——どうやってお兄様を手に入れようとしているんだろう? 私を見つけたご褒美にっていうのは無理だもんね。だって、私はシャトルーズ子爵に引き渡されるんだし。うーん、分からないわ。


レネットを静かに見ながら考えていると、レネットは一緒に部屋に入ってきた女の子に向かって「やりなさい」と命令をした。


見たことある子だなと思っていたら、朝「手助けしてほしい」と言ってきた女の子だと気づいた。

今は簡素なワンピースを身に纏っている。

制服を着ている時は学生に思えたが、私服姿を見ると少し年上だと分かった。

きっとシャトルーズ子爵家の侍女なのだろう。


その女の子が震える手で鞄からナイフを取り出し、突然レネットの髪の毛を切った。


「え?」


つい声が漏れてしまったのは仕方がないことで、その後に「ええ!?」と大声を出してしまったこともどうしようもないことなのだ。

だって、髪を切ったナイフで、そのままレネットの背中を切ったのだから。

服の切れ目から見える肌には、少し深めの長い傷がくっきりとついている。

流れている血で、制服が徐々に赤く染まっていく。


「え? どうして? すぐに治療しないと」


「これを見ても分からないの? これはあなたを守ってできた傷なの。残ってしまう傷だものね。責任をとってラシャン様が私を娶るしかないわよね」


——こわい! レネットさん、怖い! そこまでお兄様を好きなんだったら他にもっと何か……えっと……うん、そうだよ、私みたいに可愛い貯金すればよかったのよ。自分を傷つけてお兄様を得ようなんて絶対に違うわ。自分のこともお兄様のことも大切にしなきゃいけないの。

って、言いたいけど高笑いしているレネットさんが怖くて言えないよ。痛くないのかな? 絶対に痛いよね? それなのに笑っているって、やっぱり怖いよ。


「そろそろあなたを探している騎士たちの前に行くわ。最後にあなたの惨めな姿が見られて満足よ。どこの貴族に売られるのかは知らないけど、せいぜいそのぶりっ子で可愛がってもらいなさい」


言うだけ言ってレネットは部屋を出て行った。

一緒に入ってきた女の子は、ナイフを部屋の隅に捨てるように置いて、レネットの後を追っていった。


「え?」


アイビーは目を点にしながら、レネットが出て行ったドアを指してクレーブスを見た。


「父親のところに行くって知らないの?」


「そうみたいだな。同時に持ち込まれた依頼だと思ったが、同時期なだけだったようだ」


無意識に首が縦に動きかけたその時、階下からレネットと思わしき女の子の叫び声が聞こえてきた。

もう1人の女の子の悲鳴も響いている。


「え? 何?」


心配というより何かあったのなら助けなきゃという気持ちが先走り、部屋から駆け出そうしたが、クレーブスにドア前に立たれて部屋から出ることは叶わなかった。

階下から聞こえていた数人の男性の笑い声と泣き叫んでいた声は、もう静かになっている。


「ねぇ、大丈夫だよね?」


クレーブスの温度がない瞳と視線がぶつかる。


「さっき馬鹿げた協力をすると言っただろ?」


「うん」


「軽く襲って馬車から投げる予定だったんだ」


「馬車から落ちただけで大怪我するのに?」


「そうだな。でも、そういう依頼だからな。俺たちは依頼通りにするだけだ。まぁ、依頼内容は襲われたように見せかけてほしいだったけどな」


「私がされたみたいに手足を縛っているの?」


「ああ、そうか。悪かった。君にはまだ早かったようだ」


話された内容が分からなくて首を傾げると、「夜まで暇だが大人しくしていてくれ」と背中を押されベッドに戻された。


不穏な空気が漂っているような気がするが、踏み込んでしまうのはどうしてか怖くて、クレーブスに言われた通り大人しく夜を待った。






次話はカディス視点になります。


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