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61 .シュヴァイとチャイブの報告会

アイビーを寝かしつけてから、チャイブはルアンと別れて執事長の部屋に向かった。


ドアをノックすると、「入れ」と低めの声が聞こえてくる。

執事長であり兄であるシュヴァイの機嫌が悪そうに思えて、小さく息を吐き出してから部屋の中に足を踏み入れる。


想像した通りシュヴァイの目を鋭くなっていて、読んでいた書類から刺すように向けられた瞳には「防音をしろ」という命令が乗せられているような気がした。


ドアに手を当てて魔術を施してから、シュヴァイの向かい側のソファに腰を下ろす。


「父さんから『裏切り者を捕まえた』と手紙がきた。そして、こっちにも繋がっている人物がいるそうだ」


それで機嫌が悪いのかと合点がいって、静かに話し出す。


「ようやく尻尾を出したんだな」


「ああ、おかしな点はたくさんあったそうだが、どれも小さな嫌がらせばかりで捕まえられなかったそうだ」


「お父さんのぎっくり腰の原因になった花瓶から始まったんだっけ? 花瓶の中に石を詰め込んでいたってやつ。幼稚すぎて発見した時は呆れ返ったよ」


「あれな、何をしたかったんだろうな」


「お父さんを動けないようにしたかったんだろ」


「父さんを? なんのために?」


「お父さんに動かれると思うように企てられないだろ」


「無理があるだろ。父さんが動けなくなれば俺が異動することになる。本邸の執事長の席を空けることはできないからな」


「それだと思うぞ。兄さんをここから追い出す作戦だな」


「笑顔で無害な人間を演じているのに、誰にバレたんだ?」


「さあな」


チャイブは表情を変えずに「ティールお嬢様が視た未来では、兄さんが本邸の執事長をしていたらしい。きっとアイビーが治した腰が原因でお父さんは引退した。もしくは思うように動けない時に……という可能性もあったはずだ」とシュヴァイにも打ち明けていないことを考えていた。


この未来に関しては、アイビーには関係がないはずだった。

アイビーはいない未来の話だったのだから。

父親を救ってもらえたことに感謝をしているが、どうアイビーに絡んでいるのかが1年近く経った今でも分からなくて、今だにモヤモヤしている。


飲み物が欲しくなり、机の上に置かれている水差しからコップに水を移し替えた。

コップが2個あったので、シュヴァイの分も入れておく。


「で、こっちの裏切り者は見つかっているのか?」


「それを探すのがお前の仕事だ」


盛大に息を吐き出して抵抗するが気にも留めてもらえない。

シュヴァイは水を口に運びながら、さっきまで読んでいただろう書類を差し出してきた。


「最近捕まえた奴らの情報だ」


受け取り目を通す。そして、1点気になる情報が書かれていた。


「毒林檎のマーク?」


「ああ。全員の二の腕、もしくは胸に入っていた」


「大きな組織ってことか?」


「まぁ、犯罪者グループみたいなものだろう。ただ面白いと思わないか」


「なにが?」


「傭兵団『欠けた林檎』だよ。奴らは齧った林檎のマークを入れているんだよ」


考え込むようにシュヴァイから書類に視線を戻す。


「裏の仲間……もしくは元々仲間で分裂した……」


「何かしら繋がりがあると見て調べている途中だ」


他に気になる点は見当たらず、書類を捨てるように机の上に置いた。


「狙いはアイビー一択か?」


「いいや、ラシャンとアイビーの2人だ。でも、ラシャンに関しては攫うとかじゃなくてラシャンの監視に近い」


「何のために?」


「依頼主がラシャンに惚れていて、ラシャンの全てを知りたいんだと」


「気持ち悪いな。それで、毒林檎の組織は潰すのか?」


「その予定だが、全員下っ端で本部の場所を知らなかった。幹部にあたるまでコツコツ捕まえるしかない」


「そうか。それなら近いうちに捕まえられそうだな」


シュヴァイに不思議そうに見られる。


「再来月にあるラシャンの誕生日パーティーで、ラシャンの婚約が発表されるだろ。何かしでかしてもおかしくない」


「ああ、そうだな。どうでもいいから忘れていたけど、エーリカ・フォンダントがそれに合わせて来るそうだ」


「それ、初めて聞いたぞ」


目を点にしながら見てしまう。

シュヴァイは、疲れた様子を隠さずに背もたれに体を預けた。


「だから、忘れていたって言っただろ。正式な発表はラシャンの誕生日だが、すでに両国の陛下が承認した。気づく者は気づくだろうな」


「おい、それも初耳だ」


「悪い悪い。毒林檎たちのせいで最近オーバーワークなんだ。どうでもいいことは後回しになってな。後、――


「まだ何かあるのか?」


「遮るなよ。ラシャンの誕生日に合わせてエルブを付ける。もう大丈夫だろ」


「お爺さんの修行、合格が出たのか? エルブ、泣きながら受けてんだろ?」


「俺の息子だぞ。とっくの昔に合格は出てんだよ。ただずっと泣いているから、泣かないようになるまではって鍛えられているだけだ」


「まぁ、弱く見えるから欺くにはいいんじゃないか」


「だよな。もう個性として前向きに捉えるしかないよな」


シュヴァイは困ったように息を吐き出しているが、どこか楽しそうだ。

1度も会ったことがないチャイブが甥に会えると思うと嬉しかったりするのだから、シュヴァイは胸が躍るどころじゃないのかもしれない。

きっと今からラシャンの誕生日が待ち遠しいのだろう。


「それにしても、アムブロジア陛下がよく簡単に許してくれたな」


「ティールがいないヴェルディグリ公爵家には興味がないんだろう」


「そこじゃなくて、エーリカも聖女だろ。国外に出すのを渋らないなんて、おかしくないかってことだ」


「それこそバイオレットがいるからいいんだろうよ」


「ソレイユ殿下の婚約者はバイオレットで決まりか?」


「どうだろうな。あの殿下の立場は弱いからな。バイオレットが王族に近しい、それこそ王弟や王弟の子供と結ばれれば、そっちが本命になるんじゃないか」


「王弟? いたか?」


「今のじゃなくて前の王の弟がな。崩御した時に行方不明になっている」


「行方不明か……」


「まぁ、隣の国がどうなろうと関係ない。俺たちはラシャンとアイビーを守るのみだ」


「そうだな」


話は終わったんだろうと席を立とうとした。


「チャイブ。お前しか知らないことが多いんだろうが、それは誰のために言わないんだ?」


「一体何の話だ? 俺が知っていることは全部伝えただろ」


真剣な面持ちを崩したシュヴァイが、呆れたように見てきた。


「まぁ、いいか。困ったら兄を頼れよ」


「困ったらお父さんを頼るよ」


「おい!」


文句を言おうとするシュヴァイを無視して、部屋を後にした。






アイビーとエーリカが会う日が決まりました。

まだ先ですが、ラシャンの誕生日です。どんな風になるかはお楽しみに。


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